農政:田代洋一・協同の現場を歩く
【田代洋一・協同の現場を歩く】生活協同 「エリア」で展開 生協ユーコープ2019年11月28日
コープかながわ・コープしずおか・市民生協やまなしの3生協は、1990年に「ユーコープ事業連合」を設立して事業連帯してきたが、2013年に「ユーコープ」として対等合併した。このような連合会(連携)から単協(統合)への展開について、當具伸一理事長に話をうかがった。
ユーコープの湘南辻堂駅前店
◆県域超え生協合併
1990年代にかけて量販店チェーン(SM)が旺盛に展開するなかで、生協店舗もその競争の渦中にあった。リージョナルSMチェーンとしては2000億円が最小事業規模というのが当時の通説だった。しかるに生協は、中小企業との競合等を理由に、県域を超えた単協の設立が法的に許されていなかった。そこで県を超える連合会を作る事業連合方式で商品調達力の確保や情報システムの開発にチャレンジした。
2008年の法改正で、ようやく県を超えた単協展開が解禁された。折から事業伸長にかげりが見えていた3生協は早速に検討を開始し、2013年に合併にこぎつけた。
狙いは、事業の持続性・成長性の確保、意思決定のスピードアップ、経営基盤の強化などだった。事業連合時代に既に事業システムは一本化していた。3単協と1連合会の計4本の指示系統が一本化され、働く人たちもすっきりした。
◆事業と活動に横串
しかし、組合員活動は県ごとに異なるなど、地域性は無視できない。それに対してユーコープはこう考えた。
第一に、地域性があることと一緒にやることとは矛盾しない。第二に、食文化は歴史的には藩単位で育まれてきた。今日では県ごとの相違は少なく、3県が一緒になってこそ、県内各地域に即したきめ細かい品ぞろえができる、と。
実際には、宅配事業は物流上から神奈川と静岡・山梨の2宅配センター2エリア、店舗事業は商圏から6エリア、組合員組織は行政や他団体との関係を考慮して3県本部が設けられている。
このような活動区域の違いを一つにまとめるのが、「エリア」である。神奈川をとれば16エリアある。各エリアには県本部の下の組合員活動委員会とエリアコーディネーターがおかれ、店長や宅配センター長が集まって、組合員とともにセンター祭り等の行事の相談や宅配事業の「仲間づくり」に取り組む。
つまり宅配、店舗、組合員活動の3分野に横串を入れるのが「エリア」である。「エリアを基本単位とする事業・活動」という同一スタイルをとることで、各県にまたがるユーコープとしての一体化を図るのが狙いのようだ。
◆新たなチャレンジへ
合併を決意した2010年の供給高は、店舗900億円、宅配1000億円、それに対して2018年度は750億円と1100億円。とくに店舗は厳しく、小型店1店を除く全店舗が赤字である。店舗の赤字を宅配の黒字でカバーして何とか経常剰余を出しているが、その供給高に占める割合は0.4%と低い。数字から見れば、店舗を切り捨てれば黒字幅が急拡大するが、お店は組合員が顔をあわせる活動の拠点でもあり、スーパーをやっているという発想では立て直せない。また合併していなければ、どこかの生協が潰れてもおかしくない数字である。
どうするか。環境変化が激しいので中期計画等では方向性はうちだせても、数値目標の設定は難しい。そこで、年度ごとに目標を立てることにし、まずは仕事の仕方から変えていこうとしている。
2019年度は、「すべては 目の前の 組合員のために」をものさしに、「家族や友達のように距離の近い関係づくり」をめざしている。前回紹介したコープみやざきと同じ方向である。同時に、供給高はどれだけ組合員に支持されているかのバロメーターであり、働き方とともに数字面も重視するよう微調整している。
神奈川は全国に先駆けて一人暮らしが増えており、宅配(「おうちCO-OP」)も個配が圧倒的だが、昔の家庭班のよう隣近所ではないが、新しい手伝い合いの形(協同)をつくれないか。「夕食宅配マイシィ」は週1回の配達だが毎日届けることはできないか。
店舗は、築年数が古くなるなかで生協らしい新しいお店づくりを摸索する。一例として、コンビニを少し大きくした80坪程度のお店で、通路を広くする、陳列棚を低くする、品目を減らす、イートインを作ることで来店数を増やしている。
宅配と店舗のハイブリッド化も必要である。農産品セットセンターの予備品の未利用を週1回、小型店で販売して好評である。このように、宅配・店舗の縦割りでなく、資源のクロスをめざす。
リフォーム、家事支援(庭木剪定、掃除など)、介護の軽度サービス、送迎(店舗によっては無料で開始)、補聴器のあっ旋など、新しいサービスの提供も模索している。
◆地産地消の重視へ
ユーコープは、長崎、鹿児島などの元気のいい産地との産直に力を入れてきた。そのなかでコープの産地指定「茶美豚」(茶葉やキャッサバを原料混入)は20周年を迎え、鹿児島・岩手の生産者との交流も行われている。牛肉については、輸入品とともに北海道・鹿追町から交雑種の肉を入れている。産直の延長で、産直品を原料とした「カツヒレ」や「プリン」などの商品開発にチャレンジしている。
組合員の交流も含めて総合的な付き合いを増やしていくとともに、地場での取組を強めたい。「CO-OP神奈川の味と香りのあしがら一番茶」の産地(山北町)での茶摘み体験、静岡の若い生産者との枝豆、ナス等の取引、JAさがみの「トルコナス」の茅ヶ崎4店舗での扱いなどである。
◆社会的役割の発揮
神奈川では、2017年に協同組合連絡協議会が発足し、新たな連携のあり方を模索している。また県内協同組合による「フードバンク」も立ち上げられている。ユーコープでは、全宅配センターで、包装が傷ついたり、配達直前にキャンセルされた食品、予備品等をフードバンクに寄贈する。また家庭で眠っている食品(未開封で賞味期限まで2カ月以上)を子ども食堂等にとどける「フードドライブ」活動を開始し、3県8店舗が取り組んでいる(2018年度は4.5t)。「地域見守り」の取組みも始めている。
農協攻撃については、地域の人たちが「暮らしに農協がないと困る」と思うかがポイントだ。丸裸では戦えない。JAバンクにしても、困っている人への小口融資とか、やりようはあるはずだ。地域目線に立って何が求められているのかをキャッチし事業に活かしていく。経営的に厳しいなかでのユーコープの取組みから学ぶ点であろう。
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【田代洋一・協同の現場を歩く】
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