農政:農は国の宝なり
【農は国の宝なり】第9回 創客創人で地域づくり産地づくり 崎田恭平 宮崎県日南市市長インタビュー2020年3月7日
今回は宮崎県日南市の崎田恭平市長へのインタビューを紹介します。
宮崎県の南部に位置し、多数の指定漁港と重要港湾の油津港があります。北西部には標高1000m級の山があり、市の76%を林野が占めています。そのほとんどが飫肥(おび)杉の人工林です。平野部には市街地と農耕地が広がっています。
2020(令和2)年1月現在、人口5万926人、世帯数2万2209戸です。
農業は地域経済を支える重要な基幹産業です。本市農業生産額の半分以上を占めるのが畜産。水稲は超早場米産地。果樹はきんかん、極早生みかん、日向夏などのかんきつ類にマンゴー。施設園芸作物は、ピーマン、キュウリ、そして生産量日本一を誇るスイートピーなどが盛んです。
市内には、日南市と串間市の一部を事業区域とするJAはまゆうがあります。
坂元棚田
◆創客創人
小松 まず「創客創人」という日南市のコンセプトについてご紹介ください。
崎田 これは、「さまざまな分野において、今あるもの、資源の中から、人々が望む価値を見出し、それを実現する製品やサービスなどを創り出し、「新しい需要=客」を創り、その客を幸せにする仕組みを創れる人財を育てること」で、「人づくりこそがまちづくり」という考え方に基づいています。
◆市場に評価される農畜産物。課題はやはり後継者
小松 創客創人の視点から、農業はいかがでしょうか。
崎田 昨年の今頃、JAはまゆうの藏富組合長さんや生産者の方々とトップセールスで東京に行きました。取引業者の方から非常に高い評価をいただきました。とりわけ、渋谷の一等地に店を構える高級フルーツ店では、かなりの陳列スペースを確保していただいていました。お客様に喜ばれていることを目の当たりにして、高齢化・後継者不足という問題を「創人」によって克服せよ、という難しい宿題をいただいた気がしました。
小松 具体的な取り組みはいかがでしょうか。
崎田市長
崎田 大別すると、三つの事業に取り組んでいます。一つ目が「お試し就農支援事業」。これは、新規就農希望者が本格的な研修を始める前に、お試しで数日間、現役農家で農業体験できる場を提供し、農業への理解を深め定着を促すことで、担い手の確保・育成を支援する事業です。
二つ目が、「未来へつなぐ!農業後継者等育成支援事業」。新規就農者が、後継者のいない高齢農家から技術指導や販路確保などの支援を受け、円滑に経営継承できる仕組みづくりです。
三つ目が、農業ICT技術普及推進検討事業。促成ピーマンやマンゴーの品質・収量の向上を目指して、ICT技術とビッグデータ(気象データなど)を組み合わせた栽培技術についての調査・研究です。
◆地方おこし協力隊員とのミッションの共有
小松 地域おこし協力隊制度も活用されていますね。
崎田 本市に来て、隊員自身の才能や能力が発揮され、理想とする暮らしや生きがいを見出して、この地で起業していただけるような環境づくりをめざしています。
小松 全国的な話ですが、約6割の隊員が任期終了後着任地に定住する一方で、ミスマッチが起こって後味の悪い事例もあるようです。
崎田 そうならないために、「ミッション」を共有し、それに専念していただくようにしています。2019年度に着任された4人の場合を紹介します。
Aさんは、飫肥地区にある由緒施設などの利活用案やイベントの企画・実施に取り組んでいます。
Bさんは、森林セラピー基地北郷町の自然遺産の保全と、「癒しの森」来場者のおもてなし事業に取り組むNPO法人の一員として活動しています。
Cさんは、一年間土壌の視点から農業の生産性向上に取り組み、現在は農業コンサルティング関連のビジネスを市内で起業されています。
Dさんは、空き家の総合相談窓口になり、所有者と活用希望者をマッチングする「空き家カウンセラー」をしています。
JAの努力で高い評価を受けている畜産や農産物
◆JAとの良好な関係。農政への危惧
小松 JAはまゆうとの関係はいかがでしょうか。
崎田 実は父がJA職員だったので、JA関係の新聞や雑誌があるのが当然の家で育ちました。先ほど述べた、本市産の農畜産物への高い評価もJAの努力のたまものですよ。ただ、農家の中からは行政やJAに対する不満の声が出たりすることは当然あります。協同組合という枠組み、理念は良いので、それを不断に磨き上げていただき、行政も共に努力をしていきたいと思います。
小松 宮崎県では、県域での合併が検討中ですが。
崎田 JAグループにはJAグループとしての判断があるので、軽々にコメントは出来ませんが、全国的には、各単協のブランドではなく、「宮崎ブランド」で勝負しており、知名度も高くなっています。この状況を更に伸ばしていくために、どのような組織体制が各農家さんにとって良いのかがポイントだと思っています。でも、ブランド力だけを考えた時、はまゆうブランドと、宮崎ブランドを比べると、やはり宮崎ブランドが遙かに上回っていますよね。その点は、将来を展望するときの一つのポイントになるかもしれません。
小松 今の農政についてはいかがですか。
崎田 国の農業政策を所与の条件として現場対応しているので、あえてもの申すことはありません。ただ、主要農作物種子法を廃止したり、食料自給率の低下に歯止めがかかっていないことについては、少し危惧するところがあります。
◆これからの地域づくり
小松 現在40歳。意欲的な取り組みが各方面から注目されています。今後の抱負をお聞かせください。
崎田 市民が求めている地域社会を、当事者である市民、各種事業体、行政が三位一体となって一緒に創り上げていくことを目指し、〝チーム日南の総合プロデューサー〟であり続けたいですね。この日南市で、自分の人生を切り開いていく市民を創っていく、つまり「創人」が課題です。農業で人生を切り開く人を一人でも創るために、JAとは今まで以上に連携を強化していきます。
小松 わくわくするお話をありがとうございました。
※崎田恭平市長の崎の字は本来異体字です
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