農政:田代洋一・協同の現場を歩く
【田代洋一・協同の現場を歩く】地域の生活を次代につなぐ コープさっぽろ2020年3月12日
1998年に一度は経営破綻、日生協の融資とトップ派遣を受けて再建、はやくも2010年には日本トップの生協になったコープさっぽろ。組合員176万人(人口減にもかかわらず増加傾向)、組織率64%、事業高2834億円、うち店舗事業67%。そこに、厳しい経営環境下で組織再編を模索するJAへのヒントがないか。そう思ってお訪ねした本部は札幌市郊外にあり、一見して店舗跡利用と分かる2階建て。オフィスは商談フロアと隣り合わせで、簡素・オープン・明るいが第一印象だ。以下は、大見英明理事長のインタビュー記事、中島則裕専務へのインタビュー、総代会資料やCSR誌に依る。
商品が充実しているコープさっぽろの店舗
◆破綻から再建へ
同生協は1965年、大手スーパーマーケット(SM)チェーンの北海道進出に対抗して設立された。しかし、雪の問題があって共同購入の取り組みが80年代にずれ込み、地域の組合員組織の薄いすそ野に落下傘的に出店することになり、いきなり競合大手とのし烈な同業態競争に突入し、「道内の流通戦争に敗北」した(大見理事長)。
そこからの再建にあたって、協同組合経営への厳しい姿勢を貫いた。人事面では通常の横並び主義には距離を取って「降格あり」に切り替え、4割の職員が去った。北海道からは出られないという条件の下で、経営の最先端に学ぶことにした。「マルエツ」(店舗改装)、オープン・ネットワーク経営(POSデータの取引先への公開)、トヨタの「カイゼン」(QC・IE活動)、無印良品の業務基準書などだ。マルエツ等も協力を惜しまなかった。
◆なぜ統合(合併)か
同生協は、破綻の前後で地域生協の統合路線を変えなかった。70年代に5つの地域生協を統合、さらに2000年代に5生協を統合し、2007年には道内生協の統合を完了し、その後は同業他社との提携関係に入っている。
第一に、問屋はロットによって仕入れ条件を変えるからだ。良い条件をキープして組合員に利益還元するにはロット拡大が必須だ。
第二は、とくに広大な北海道で経営するうえでの物流コストの低減だ。子会社・北海道ロジサービスで1800台を確保、ドライバーも給与水準の引き上げ等で確保、業務改善で生産性も高く、同業他社の物流業務の受託も増えている。
第三に、しかし以上は合併の結果であって目的ではない。人口減で地域生協が破綻に追い込まれていく。地域の生活を次代につなげる、そのためには地域に生協を持続させる必要がある。「つなぐため」「持続のため」の切羽詰まっての合併だ。合併には地域一帯でのギリギリの必然性、共通目的が要る。この点は組織再編下のJAが肝に銘じるべき点だ。
◆おいしい店作り
店舗供給が2/3を占めるが、店舗経営は厳しく、赤字を宅配で埋めている状況は他生協と同様である。しかし地域に買い物の場を無くさない、ロットを確保するためには店舗が不可欠だ。そこで同生協は28市18町に108店舗を構えつつ、人口減のなかで全道120店を越すことは無理という判断にたって既存店の活性化に力を入れている。
店舗は600坪を標準として、「おいしいお店」、地域一番店をめざし、品ぞろえ、高品質、総菜に力を入れる。「過度の安売りは見直す」。
北海道は1人世帯4割、二人世帯3割という状況で、「おひとり様利用の売り場と商品」を研究し、1~2人の小世帯向け小パック化(200円台)を追求している。また地域の食材を使い「魚屋、肉屋(対面販売職員)が店内で総菜をつくる」ことに注力している。
◆若い世代への宅配拡大
宅配事業(「トドック」)は2015年に対し18年は15%増だ(登録者は179市町村、36万人超)。9割は個配化している。配達作業はここ3年ほどかけて委託から自前に切り替えた。車両1800台のうち1100台が配達に充てられる。自前化はコストよりも品質と組合員接点の確保のためだ。
宅配利用の大半を60歳代以上が占めるなかで、30代、40代に拡げるため、スマホ発注(WEB発注)に取り組み、また食品カタログを創刊する。システム手数料は赤ちゃんサポートが無料、子育てサポートが半額だが、それを妊婦や15歳までの子育て家庭まで拡大する。
宅配便による定期訪問は高齢者の見守りの役割を果たし、70歳以上独居世帯には専門員「あんしんサポーター」が御用聞きを兼ねて訪問する。
◆ソーシャルビジネスへのチャレンジ
経営破綻時、やめる組合員、減資する組合員はいなかった。組合員が生協経営を支えてくれた。「うちのメインバンクは組合員だ」(中島専務)。その組合員へ「恩返し」する。
2008年洞爺湖サミットを機に森づくり基金の設立、エコセンターの開設、レジ袋全店有料化、間伐材割りばしの採用。2010年に子育て支援基金を設立、子育て世帯に4冊の絵本を無償提供する「えほんがトドック」、移動販売車「おまかせ便カケル」の導入(128市町村、92台)、コープ配食サービス(高齢者、産前産後の女性等向け)の開始、さらに社会福祉基金(ひとり親子弟等への奨学金、地域福祉助成など)を次々と打ち出している。環境と子育てへの熱い視線を注ぐ。
◆北海道のどこでも生活できるために
「北海道の地域が豊かになるための施策を食を中心にチャレンジする」(大見理事長)のがコープさっぽろのミッションだ。上記の店舗・宅配・移動販売車で7割の世帯の食をカバーできるが、3割は自治体や農協との協同が必要だ。
その一環としてホクレン等の協力を得て「コープさっぽろ農業賞」を設立、その受賞者の畑で一流シェフが開く「畑でレストラン」、「ご近所やさい」、食育研究会の開催など農業への目配りを欠かさない。ホクレンの道内最大の取引先はコープさっぽろだ。
2018年4月には「もっと地域でできることを考える」ために地域政策室を立ち上げた。9月に胆振東部地震に遭うなかで、62自治体を訪問し地域の課題をヒアリングした。そこから自治体や農協の仕入れ代行、移動販売車の増便等が生まれ、また宅配便の助手席に歯科医師が便乗するなども検討している。
コープさっぽろは、イオン等との激烈な競争を戦い抜きつつ、第一に、地域の課題から出発する、第二に、収益事業・ソーシャルビジネス・社会福祉の三本柱で「北海道のどこにいても生活できる環境」づくりを追求する、第三に、足らざるを自治体や農協と協同する構えだ。
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【田代洋一・協同の現場を歩く】
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