農政:みどり戦略を考える
【シリーズ:みどり戦略を考える】座談会:みどり戦略 現場の視点 地域共生あってこそ 持続性は生・消の支え合い(1)2021年7月30日
農水省の「みどりの食料システム戦略」(みどり戦略)は、2050年までに有機農業に取り組む耕地面積を100万ha(全耕地面積の25%)に拡大する目標を掲げた。前回(6月18日)掲載した「対談・みどり戦略を考える」の続編として、「現場での実践の可能性」について、20年ほど前から独自の基準で「環境保全米」に挑戦し、軌道に乗せている宮城県のJAみやぎ登米の取り組みをもとに同JA常務理事の佐々木衛氏、(一社)市民セクター政策機構理事長の加藤好一氏、農的社会デザイン研究所代表の蔦谷栄一氏で座談会を行った。(司会・進行は東京大学名誉教授の谷口信和氏)
【出席者】
佐々木衛 JAみやぎ登米常務理事
加藤好一 市民セクター政策機構理事長
蔦谷栄一 農的社会デザイン研究所代表
司会・進行:谷口信和 東京大学名誉教授

環境保全米通じ有機栽培に理解
谷口 JAみやぎ登米の「環境保全米」と、JAと連携した生協の取り組みを座標軸の縦横にして議論していきたい。農水省の「みどり戦略」で拡大するという有機農業については、実際に取り組んでいる人の間での評判はあまりよくはありません。この座談会で、「みどり戦略」を実のあるものにする問題提起をしたいと思います。
「みどり戦略」は化学肥料を減らすとしていますが、家畜ふん堆肥の問題には触れていません。また農薬に頼らない農業といっていますが、温暖化で病害虫の被害は増えています。それをどう考えるか。RNA(リボ核酸)などゲノム編集技術を使った農薬の新しい開発が提案されていますが、現場で有機農業をやっている人を励ますような具体策が必要です。
そして、「みどり戦略」は生産性向上を掲げていますが、それを誰がどのようにやるのでしょうか。最後に消費者と生産者の連携をどうするかが重要です。まず環境保全米づくりを「点」から「面」にまで拡大した実績をもつJAみやぎ登米の取り組みを紹介していただきます。
佐々木衛
JAみやぎ登米常務
佐々木 JAみやぎ登米の環境保全米の取り組みには、合併以前の平成8、9(1996、97)年度の中田町、南方町の二つの町での取り組みがあります。当時、河北新報が、世界の米づくりの探求として企画したキャンペーン「オリザの環」の中で、「環境保全米実験ネットワーク」を立ち上げ、無農薬や減化学肥料の米づくりへの挑戦を始めました。
その後、2007(平成19)年、県内の生産者、消費者、マスコミ関係者や関係する機関・団体で構成する「みやぎの環境保米県民会議」を結成し、県民運動へと発展していきました。
当初、農家の関心は、環境保全米が「いくら高く売れるか」でした。それを「お金だけの問題ではないよ」と環境保全米を作る意義を説明し、旧JAなかだでは「なかだ環境保全米協議会(町・生協・高校・生産者・JAなどで構成)」を組織しました。栽培実験としてスタートし、ガイドラインのない時代だったので、農薬使用成分回数を減らすのではなく、農薬使用量の5割削減に取り組みました。その中で、加入希望の農家も増えてきましたが、始めから「加算金」だけを目当てにくる人には遠慮していただきました。
その協議会では、大学の先生や生協の米担当者を呼んで、栽培方法や流通などについて,年1、2回の泊まり込みの講習会等を、平成9(1997)年から5、6年繰り返しました。みやぎ生協には、「環境保全米」のマークを使った米の販売を実施していただき、まず地元でPRしファンづくりに努めました。
当時のJAみやぎ登米の阿部長壽組合長が中央会におられたころから、生協との連携のパイプがありました。平成7(1995)年に食管法(食糧管理法)廃止で、米の売り先を独自で探さなくてはならなくなり、環境問題や食品の安全・安心に厳しい基準を持つ、生協と取引できれば、生産者の自信にもつながり、生産・販売のすそ野が広がるのではないかと考えました。
加藤 その通りです。生協は厳しい条件を付けますが、それをクリアできれば、どこにでも通じます。
佐々木 環境保全米実験ネットワークへの参加は勉強になりました。仙台市にある河北新報社で月1回、夕方から終電の時間まで、他業種のみなさん、特に新聞記者のみなさんとの意見交換は大変参考になりました。
環境保全米は、すぐ結果が出るものではありません。さまざま人から助言をいただき生産者へのアプローチをいろいろ変えて働きかけました。
JAみやぎ登米になり、平成15(2003)年から管内一斉に取り組み、16年には作況指数「69」(いもち被害)を経験しましたが、環境保全米実証ほ場の被害は軽微ですみました。
谷口 環境保全米運動で興味深いのは、河北新報との連携ですね。誰が現場の農業の味方かがジャーナリズムに問われている今日、ともすると地域にこもりがちなJAと新聞社が相互に歩み寄って組織をつくるという例をあまり聞いたことがありません。
佐々木 それは阿部長壽という優れたリーダーがいたからだと思います。阿部組合長のころ、農薬の空散(空中散布)の問題がありました。環境保全米づくりのため、組合長が突然「空散を中止しろ」と言い出したのです。平地に水田が広がり、電柱も少なく、効率的な空散ができる県内でモデルのような地域です。「それをやめろとは、なにをばかな」と反発しましたが押し切られ、平成9(1997)年ラジコンヘリに切り替えました。阿部さんは管内中田町の出身で、地元のことがよく分かっている方で、地元の取り組みを外に見せること、そして生産することが農業の販売戦略だと諭されました。
蔦谷 それまでのやり方をいきなり変えることには抵抗があったと思います。具体的にどのように拡大してきたのですか。
佐々木 管内の中田町には、元々4、5人の有機栽培グループがいました。当時は変わり者とみられていて、JAとの付き合いはあまりなかったのですが、この運動が始まってからは彼らが主役になり、JAと一緒に参加農家を説得してくれました。
減農薬・減化学肥料に、すぐ全面的に切り替えるのは難しいので、とりあえず30アールとか、経営面積の3分の1とか、比較的小規模から始めました。仮免で経験を積み重ねてという発想です。もとから有機農業をやってきた人も、自分の技術をオープンにして指導してくれました。
蔦谷 JAには慣行栽培の防除暦があります。それと違った栽培をしようということですから大変だったと思います。現場ではどのように進めましたか。
佐々木 除草をすべて手作業でするのは無理です。どこまで除草剤を減らしたら、どの程度雑草を抑えられるかをつかむため、最初は実証試験のようなものでした。農薬4割減のデータはありましたが、5割減はなかったので、4割減で効く成分の薬剤を用意して使用量を5割に抑えました。
地元生協が共感 可能性探り実践
加藤好一
市民セクター政策機構理事長
谷口 化学肥料は個別経営で減らすことはできますが、農薬を減らすのは広域、つまり「面」でないと効果がありません。そこはどのように取り組んだのですか。
佐々木 田んぼを荒らしてしまうとよけいな手間暇だけでなく、病害虫の発生源にもなることから、一番の課題は除草剤だと思います。当時は、栽培実験参加農家、現在は稲作部会の協力のもと、地域で問題になっている雑草を軸に、できる限り幅広い安定した効果を発揮する剤を探りながらメーカー協力のもとほ場試験に取り組んでいます。ほ場条件的には、管内はほ場整備が進んでおり、8割が20アール~1ヘクタール区画で、かん排水施設も整っており、他の地域に比べて恵まれているので、水管理の徹底により効果向上に努めています。
蔦谷 短い期間に環境保全米の8割普及は驚きです。減農薬・減化学肥料と「有機」、どちらが中心でしたか。
佐々木 JAみやぎ登米として取り組んでから約20年になります。中心になったのは減農薬・減化学肥料が中心です。有機栽培は、技術的な面で困難も多く、また過剰生産は価格にも影響があり生産上大変な面が多いと思います。この点、減農薬・減化学肥料は幅が広く、栽培上も省エネになる場合もあり、くみしやすい面があります。
加藤 一部の消費者は有機への関心が必ずしも高くはなく、値段との折り合いを重視しています。新自由主義のさまざまな暴挙(格差など)があるにせよ、そこは心配しています。
谷口 みやぎ生協は地元の農業へのシンパシーがあります。それと産地の意向がかみ合って状況が動いたのだと思います。
蔦谷 「みどり戦略」では25%の有機農業を目標としており、戦略としては有機農業しかないようにも読み取れます。マスコミも十分な理解もなく有機ばかりを強調していますが、この運動全体を牽引していくには、まず量で面的にどう押さえていくかが肝心です。そのためには減農薬・減化学肥料からスタートしてレベルアップしていくことが現実的です。
加藤 その通りですね。有機農業は篤農家がコツコツ取り組んでいけばいいという問題ではないでしょう。地域全体を変えていかないと...。
蔦谷 有機農業はEUを先頭に韓国も取り組んでいます。EUは直接支払いで有機農業をリードしてきました。韓国は、輸入自由化の時代、国民の健康・安全を守るところに農業の存在意義を置き、減農薬・減化学肥料から有機めざすという形でボトムアップをめざしてきました。
2006(平成18)年、日本で有機農業推進法ができましたが、方法論についての議論はなされなかった。実現可能性のある戦略を立てるべきなのですが、「みどり戦略」には、戦略が欠如しています。JA系統が具体的な戦略を提案すべきではないでしょうか。
【座談会】みどり戦略 現場の視点
地域共生あってこそ 持続性は生・消の支え合い(2)に続く
重要な記事
最新の記事
-
【年頭あいさつ 2026】岩田浩幸 クロップライフジャパン 会長2026年1月3日 -
【年頭あいさつ 2026】片山忠 住友化学株式会社 常務執行役員 アグロ&ライフソリューション部門 統括2026年1月3日 -
【年頭あいさつ 2026】佐藤祐二 日産化学株式会社 取締役 専務執行役員2026年1月3日 -
【年頭あいさつ 2026】大島美紀 バイエル クロップサイエンス株式会社 代表取締役社長2026年1月3日 -
【年頭あいさつ 2026】栗原秀樹 全国農薬協同組合 理事長2026年1月3日 -
【年頭あいさつ 2026】佐藤雅俊 雪印メグミルク株式会社 代表取締役社長2026年1月3日 -
【年頭あいさつ 2026】雜賀慶二 東洋ライス株式会社 代表取締役2026年1月3日 -
【年頭あいさつ 2026】松本和久 株式会社サタケ 代表取締役社長2026年1月3日 -
【年頭あいさつ 2026】冨安司郎 農業機械公正取引協議会 会長2026年1月3日 -
【年頭あいさつ 2026】増田長盛 一般社団法人日本農業機械工業会 会長2026年1月3日 -
【年頭あいさつ 2026】菱沼義久 一般社団法人日本農業機械化協会 会長2026年1月3日 -
【年頭あいさつ 2026】食料安全保障の確保に貢献 山野徹 全国農業協同組合中央会代表理事会長2026年1月2日 -
【年頭あいさつ 2026】将来にわたって日本の食料を守り、生産者と消費者を安心で結ぶ 折原敬一 全国農業協同組合連合会経営管理委員会会長2026年1月2日 -
【年頭あいさつ 2026】利用者本位の活動基調に 青江伯夫 全国共済農業協同組合連合会経営管理委員会会長2026年1月2日 -
【年頭あいさつ 2026】金融・非金融で農業を支援 北林太郎 農林中央金庫代表理事理事長2026年1月2日 -
【年頭あいさつ 2026】地域と共に歩む 持続可能な医療の実現をめざして 長谷川浩敏 全国厚生農業協同組合連合会代表理事会長2026年1月2日 -
【年頭あいさつ 2026】「JAサテライト プラス」で組織基盤強化に貢献 伊藤 清孝 (一社)家の光協会代表理事会長2026年1月2日 -
【年頭あいさつ 2026】協同の原点に立ち返る年に 村上光雄 (一社)農協協会会長2026年1月2日 -
【年頭あいさつ 2026】食料安全保障の確立に全力 鈴木憲和農林水産大臣2026年1月1日 -
シンとんぼ(174)食料・農業・農村基本計画(16)食料自給率その他の食料安全保障の確保に関する目標2025年12月27日


































