農政:バイデン農政と中間選挙
【バイデン農政と中間選挙】都市地域との格差広がる農村部~民主党は上下両院の多数守れるか【エッセイスト 薄井寛】2022年10月5日
バイデン大統領は9月2日、ホワイトハウスでの記者会見で、「(昨年1月の大統領就任以来)新たに1000万人近くの雇用を創出できた。米国史上、最速の増加だ。賃金も上がり、失業率は50年ぶりの低水準にある」と述べ、経済政策の実績を誇示した。
遅れる農業州の雇用増加
中西部などの農業州を訪問した際にも大統領は、「(気候変動対策やインフラ投資の促進によって)賃金の高い、より良い雇用を農村部で増やす」とのメッセージを繰り返し発信してきた。
だが、9月16日公表の「8月州別雇用・失業統計」は都市と地方の格差拡大を示唆している。
米国の農畜産物販売額の47%以上を占める中西部12州の次のような雇用統計がその実態を明示する(表参照)。
〇2021年8月から22年8月の間、全米50州と首都ワシントン特別区では急速な経済回復によって給与所得者の総数が3.98%(584万人)増えたが、中西部の12の農業州では2.33%増。その差1.65ポイントは20年8月から21年8月の差1.64ポイントとほぼ同水準のままだ。
〇この間に全米の失業率は5.2%から3.7%へ1.5ポイント下がったが、中西部では3.98%から2.89%へ、1.09ポイントの改善に留まった。
〇中西部12州の最低賃金(2022年)は平均で時給8.99ドル。ニューヨーク州の13.20ドルやカリフォルニア州の14.00ドルを大幅に下回る。
中西部農業州のこうした雇用情勢は農家所得にも影響を与えている。なぜなら、米国の中小農家は兼業収入に大きく依存し、その家計は非農業部門の景気に左右されているからだ。
ミズーリ大学と農協系金融機関(CoBank)の共同研究による『農業経済に対する兼業収入の重要性』(9月12日)は、米国農業の次のような兼業化の実態を改めて浮き彫りにした。
〇非農業部門で主な収入を得る農家の主たる就農者の割合は1973年の37%から56%(2017年)へ増加。35歳以下の青年農業者では63%。その主な理由は兼業収入の確保と健康保険の取得の必要性にある。
〇2019年の総農家所得に占める兼業収入の割合は82%(1970年代は50%未満)。
〇居住する郡から近隣郡へ通勤する兼業農家の割合は2002~18年に39%から46%へ増えた。農業が主な産業である農村地域の郡では農業関係の雇用が減り、他郡への通勤兼業農家の割合は52%から62%へ。
経済的な余裕を失う農村世帯
アイオワ州立大学が7月18日に公表した研究レポート『農村世帯の支出に対するインフレの影響』によると、2020年6月から22年6月までの2年間にガソリン代や保険の掛金などの支出が市街化地域よりも増えた、人口2500人未満の農村地域では、年間の家計費が47,351ドル(1ドル130円で約616万円)から56,119ドル(730万円)へ18.5%増えたが、給与は6.1%増に留まった。
これに対し、人口2500人以上の市街化地域では家計費が59,997ドル(780万円)から68,711ドル(893万円)へ14.5%増に留まり、給与は8.6%伸びた。
この結果、貯蓄と予期せぬ支出のための裁量所得が市街化地域の世帯ではこの2年間に16,414ドル(213万円)から14,270ドル(186万円)へ13.1%減ったのに対し、農村地域では10,661ドル(138万円)から5,426ドル(71万円)へ49.1%も激減した。
この減少率は市街化地域の3.7倍を超える。農村地域の住民がインフレ高進によってより深刻な打撃を受けているのだ。
こうした状況のなかでバイデン政権は特に8月以降、地方の経済活性化を促進する投資事業に力を入れ、広報活動を積極的に展開している。その目的が11月8日の中間選挙対策であるのは明白だ。
特に農務省は農村部への大規模な投資に関するプレスリリースの発表を著しく増やしている。9月だけでも10件を超えた。
そこには農村高速インターネット計画の10億ドル、フードバンクや学校給食に対する農産物購入補助事業の20億ドル、脱炭素農業プロジェクト(70件)支援の28億ドル、国産肥料の起業支援の5億ドルなどの投資事業が含まれる。
しかし、中間選挙の結果を予想する各種の報道には、バイデン政権のこうした広報活動の効果はまだ出ていないようだ。
選挙予想に関する直近の情報を見てみよう。
任期6年の上院(各州2名の100議席:現在は民主50、共和50)での改選議席は35議席(民主14、共和21)。このため、改選数の少ない民主党が上院の過半数維持に有利だとの予想が増えつつある。
ただし、当選確実の予想がすでに出ている候補者が共和党側で15名前後へ増えているのに対し、民主党側はまだ10名に達せず、上院選挙は大接戦になるとの予測も消えていない。
一方、任期2年の下院(小選挙区制の435議席:現在の議席数は民主221、共和212、欠員2)では全議席が改選。9月末時点で当選確実または当選ほぼ確実と予想される与党民主党の候補者は175名前後だが、共和党側は200名を超えており、民主党が現在の下院多数を失うとの予想が広がってきた。
はたして与党民主党は巻き返せるのか。そのためには、特に共和党支持者が圧倒的に多い中西部12州の小選挙区で、民主党側がどれだけ〝大敗″を食い止められるかがカギになるとの観測が伝えられている。
バイデン政権の地方経済政策が12州の有権者の審判にどう影響するのか。投票日まで残された〝広報活動″の期間は1カ月ほどしかない。
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