農政:田代洋一・協同の現場を歩く
【田代洋一・協同の現場を歩く】盛岡・農事組合法人となん 受託農地維持は"薄氷" "小さな協同"を模索2024年5月23日
岩手県盛岡市にある農事組合法人「となん」は「大きな枝番組織」と言われてきた。確かに「となん」のエリアは盛岡市南郊の都南村(昭和合併村、水田1400ha、畑1000ha)と広い。西側は平地農村で担い手もある程度育ち、東側は山付きの水田とリンゴ畑、盛岡市街への通勤が多い。1992年に岩手中央農協に合併するまでは都南農協があった。村は15大字(藩政村)、48農業集落からなる。
昭和村規模の集落営農
農事組合法人となんのホームページ(https://tonan-agricoop.jp/)より引用
前身は1972年の都南地域農業機械銀行(受託者と委託者の協議会)。2006年に、同村(1992年4月盛岡市に編入合併)の全戸が品目横断的政策(経営安定対策)の対象となるよう特定農業団体・都南地域営農組合を設立、それが農地中間管理事業(農地集積協力金、経営転換協力金等)を契機に2013年に法人化した。農地の受け手が高齢化し、出し手がどんどん増えるなかで、作業受委託から利用権への切り替えと再配分(移動時間の短縮)、出し手への畦畔(けいはん)・水管理の再委託料の確保が必要といった地域ニーズが背景にある。
現在の組合員は944戸、作付けは水稲860ha(主食用758ha、加工用58ha、飼料用34ha、米粉用6ha)、小麦113ha、大豆3haの計976ha(2024年度計画)で、そのほか加工用トマト1ha、体験農園10aを計画している。
枝番組織からプラス新規就農支援へ
米麦は枝番管理である(組合員のほ場からの販売額と交付金の合計から要した総費用を差し引いた額を組合員口座に振り込み)。その販売額が8・1億円(過年度清算金8・5千万円を含む)、交付金等が1・3億円になる(2023年度)。なお小作料は、水利費(4000円)地主持ちで10a6000円、固定資産税を払えばゼロに近づき、限界に来ている。
事務局は、①総務課②販売広報課③地域支援課④地域資源活用課の4課体制。各課4~6人で、①②は兼務が多く実員15人である。③は農地の相談と利用調整(中間管理事業)、環境保全・農地利用調整等の地域協議会、後述する湯沢農業生産組合、ライスセンター利用組合の事務受託等をしている(まさに「地域支援」)。2025年の利用権の更新期を前に、現に耕作されていない農地は、返せば耕作放棄されるかも知れないなかで、「となん」が管理料を取ってでも管理するか、悩ましいところだ。地域農業マスタープラン(地域計画)づくりに積極的に関わる必要があり(農地集約は「となん」が鍵)、人員不足である。④は「となん」の直営部門30ha(主として麦作、2024年には40haの予定)の作業・機械整備等を担う。
地域支援課の1人と地域資源活用課の4人の計5人は雇用就農資金研修生等(うち3人は③④の係長)で、うち2人は2024・25年に就農希望である。「となん」は既に、利用権を分ける形で就農させた者3人を擁している(野菜1人、小麦・大豆20~30ha各1人)。また「となん」の委託を受けて、後述する営農実践班や担い手農家が実習生を受け入れている(1人)。担当理事は、後継者のいない農家に依頼するなど「現代養子のようなものかな」としている。
「となん」には受託者協議会メンバーが94人いるが、条件の悪い農地を受けきれなくなっており、それを「となん」が引き受けて村外からの新規就農希望者等を育成し、村の農業者を確保しようとしている。もはやたんなる枝番組織ではない。村の農業後継者育成組織だ。
営農実践班と地域資源管理
農事組合法人となんのホームページ(https://tonan-agricoop.jp/)より引用
「となん」の設立趣意書は「行政とJAが広域合併により、地域住民・組合員の絆が希薄化してきたので、組合員の思い・願いを代行・代弁する小さな法人をめざす」としている。つまり広域合併農協内に昭和期の村レベルの「小さな農協(協同)」を蘇(よみがえ)らせるのが狙いだ。農家組合も大字(小学校区)単位の営農実践班に再編して「となん」役員の選出母体とし、営農活動と生活活動を行うこととした。
営農実践班としては大字・湯沢のそれが活発だ。湯沢には水田150ha、リンゴ畑等100haがあるが、山付きで小さな田も多いので1980年代後半に30a区画にほ場整備してライスセンターを建設し、直売所・下湯沢サンフレッシュも設立した。湯沢には1995年に国の事業で「盛岡食材加工協同組合」による食材加工センターが設立された。現在は、炊飯・カット野菜をすし屋や学校給食に仕向け、雇用30人、年商2億円に達している。
この大字湯沢が「となん」の営農実践班となり、2018年に農事組合法人・湯沢農業生産組合(64戸)になった。組合はライス部会(RC運営)、野菜部会(ジャガイモ、キャベツ等)、直売部会の3部会がある。直売部会は高齢化で品数も少なくなり、加工センター傘下でのジャガイモ・野菜の皮むき・カットの加工に転じ、高齢者10人程度が働いている。「地域ぐるみ6次産業化」だ。
営農実践班として、いま力を入れているのは「受託農家の農地管理が困難になっている」として、地域住民ぐるみでの用水路管理の活動だ。呼びかけたら45戸が参加し、その8割は非農家で、若い人たちが多かった。湯沢が属する「飯岡水土里の会」(明治期の村規模)から時間1000円の手当を出している(日曜の2時間)。他の地域でも営農実践班の活性化を図ることが「となん」の課題である。
昭和村は生きている
「となん」は、岩手の雇用型農企業(作付け956ha、繁殖・肥育牛、従業員105人)をにらんでいる。作付け規模が「となん」とほぼ同じで、その限りでは「となん」も雇用型でやれるかもしれない。しかし旧都南村には減少しつつあるとはいえ受託農家や自己完結農家がいる。彼らを枝番で支えつつ、直営による新規就農者育成で農業者を増やす。そのためには昭和期の村の規模が必要だったと言えないか。5年に一度の水張り、インボイス(消費税還付)の影響(2024年度にはほぼ半減見通し)、1000haのリンゴ等の畑の利用など問題は山積するが、昭和期の村レベルでの地域協同の力に期待したい。
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