農政:田代洋一・協同の現場を歩く
【田代洋一・協同の現場を歩く】 福島・JA会津よつば 産地強化で活路探る 中山間地域で〝生きる〟2024年11月1日
集落営農、農協、生協といったさまざまな「協同」の取り組みの現場を訪ね、その息吹を伝える田代洋一横浜国立大学名誉教授のシリーズ。今回はJA会津よつばを訪ねた。
「会津はひとつ」
東日本大震災と原発事故を受け、福島県では4JAへの合併が進められた。会津では、これまでの「会津はひとつ」の取り組みを踏まえて4JAが2016年に合併し、「JA会津よつば」となった。
中山間地域の現実は厳しい。図1でも事業総利益は2020年までほぼ同率で減少し、事業管理費は一貫して削減傾向にあり、2020年代には事業総利益の減少を食い止めることで、図2の事業利益を上向かせている。
図1 JA会津よつばの事業総利益と事業管理費 (百万円)
図2 JA会津よつばの部門別損益 (百万円)
事業利益=100とした部門構成をみると、第一に共済事業が2023年度で186%と圧倒的で、多くのJAでトップの信用事業は16%に過ぎない(貯金額は伸びている)。第二に、農業関連は近年は黒字化している。農産物販売額は微減なので、コスト削減によるところが大きい。第三に、減らしてきたとはいえ生活関連の赤字はなお大きい。第四に、営農指導事業赤字額はかなりの減少になっている。
支店の統廃合断行
同JAの2022年の成行きシミュレーションでは、事業損益は2026年度に4・4億円の赤字になる。対策はコスト削減が大きい。同JAは支店、営農経済センター・購買店舗の第一次再編を2024年3月に行った。支店はそれまでの38店舗を34店舗に統合した。「よりそい店」(取次・相談機能だけ残す)化が4店舗(うち2店舗は2025年3月に実施予定)、さらに34店舗のうち「よりそい店」化検討対象が10店舗である。支店数の多かった中山間地域の「みどり地区」(西南部)での統廃合の割合が高い。
統廃合は貯金・共済額、店舗間距離、端末打鍵数、利用頻度等を基準にした。対策として渉外担当者の増員による出向く体制の強化を図っているが、その現実は厳しい。店舗統廃合の最大の理由が職員減だからである。正職員は当初から3分の2に減っており、常雇的臨時の24%増でカバーしている。
離職の理由は、入職後の職種の相違、家庭の事情などなど多々あるが詳細把握は困難で、人事異動直後のそれが多いところからすると、専門職にとどまれない総合事業体としての悩みがある。
生活事業については、燃料、ガス、葬祭事業等は自動車、農機具とともに、人員ともども2019年に子会社に移した。JAに残した通所・訪問介護、デイサービス等は、事業総利益は確保しているものの人件費部分が赤字である。「JAでなければできない事業」では必ずしもなくなったが、中山間地域におけるニーズは高い。
横浜国立大学名誉教授 田代洋一氏
農業関連黒字化へ
このような状況下で農業関連の黒字化が注目される。
同JAでは、とくに中山間地域をはじめ1支店1営農経済センターが多く、全部で24センターだったが、それを基幹センター7、サブセンター9に集約し、6センターは資材センター化、1センターは統合した。また四つの支店には基幹センター所属の営農指導員を駐在させた。
営農指導員は現在68人で、本店2人、水稲・園芸兼務63人、畜産3人である。最近の職員減の2~3割は営農指導員で、行政や農業法人等に行く者が多い。
農業施設では、2021年に全農県本部と折半で「会津野菜館」(ばらで搬入されたアスパラ、キュウリ、チェリートマト等の選果場)を建設し、高齢化する農家の集荷後の手間を省くことに大きく貢献している。園芸品は全て全農出荷である。
先の「みどり地区」の「昭和かすみ草」「南郷徳」の「南郷トマト」は売上額を更新し続け、前者は2023年、後者は2018年に地理的表示(GI)を取得している。これら作目は自治体と連携して「カスミの学校」等を通じて新規参入を確保している。園芸ギガ団地構想で、サテライト型(昭和カスミ草、アスパラ)とギガ型(団地化、南郷トマト)に取り組んでいる。
米関係では、ライスターミナル(農家が乾燥・もみ摺りしたものを持ち込む)の建設、RCの廃止・新設、CEの自主検査装置等の更新、RCの荷受け広域化(施設共用化)なども進み、フル稼働に近くなっている。
「会津エコ米」の認定終了に伴い「極上の会津米」ブランドの確立を目指している。水田は担い手集中が進み、畑作目転作は減少し、飼料用米や備蓄米での対応になる。飼料用米はコシヒカリの後に収穫できる利点がある。作業受託するJA出資型の3法人を立ち上げているが、いずれも満杯に近い。
直売所は6店、13億円程度の売り上げをキープしており、一部は直売所の品を使ったサラダバーのカフェを併設している。
販売品の構成は、合併当時は米等68%、野菜花き22%だったが、2023年には61%と27%で、じわじわと園芸品のウェイトを高めている。
中山間地域の挑戦
中山間地域はとくに人口・農家減が著しく、最近の同農協の正組合員の減少は年1000人弱(純減は500~600人)に及んでいる。親元就農の支援や新規参入の確保が必須である。共済事業の黒字への依存度が高く、その事業量の減少が経営に大きく響く。県信連のバッファーがないため、農林中金の奨励金の引き下げが直撃することになる。介護事業へのニーズは高く、簡単には「合理化」できない。
JAはこれらの困難を事業管理費の削減、特産物等の農業振興に活路を切り開こうとしている。そこには、支店統廃合が長い目で見て事業量の減少につながらないか、営農指導員等の職員確保難が農業振興や将来のJA経営の足を引っ張らないかといった課題がある。それは、今日のJA一般に通じる課題だが、中山間地域により鋭いかたちで現れている。JAその先端に立って会津よつばは打開の道を開こうとしている。
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