農政 特集詳細

特集:緊急特集:「小泉進次郎が挑む農政改革」批判

2016.02.08 
新しい革袋に古い酒を盛る-小泉進次郎農政の狙い-一覧へ

田代洋一・大妻女子大学教授

 「週刊ダイヤモンド」は2月6日号で「儲かる農業」を特集、目玉は独占インタビュー「小泉進次郎が挑む農政改革」だ。週刊エコノミスト(2月2日号)も独占インタビュー「農林中金はいらない」を掲載した。TPPは終わりではなく始まりだと小泉氏は強調し、補助金に頼らない儲かる農業への転換を力説する。そのために「農協改革の手綱を緩めない」として、農業をだめにしたのはJA経済事業・金融事業だとばかりの批判も強める。一方、政治の責任を置き去りにして悪者を仕立て上げる、父親譲りの議論でしかないとの批判などもわき上がってきた。識者と生産現場からの声を緊急に特集する。

◆小泉進次郎の登場

農林部会長にデビューした小泉進次郎氏:昨年10月27日撮影 弱冠34歳、当選3回にして、農林族の重鎮が座る自民党農林部会長に就任した。役者不在の自民党にあって抜群の人気を持ち、時事通信の1月の世論調査で次の首相候補として、安倍、石破を抜いてトップ。自民党支持者内では二位だが、民主党支持者内ではトップだ。大統領選あるいはAKB48選挙なら彼の天下だ。その国民的人気は宜野湾市長選の応援でも効果を発揮した。
 安倍と小泉。必ずしも考えは同じではないようだが、ともに二世(三世)議員、もちあがりの私大卒という経歴は似ている。小泉純一郎が安倍を幹事長に抜擢し、その安倍が小泉進次郎を農林部会長に抜擢する。どこか既視感がある。
 なぜ、今、小泉農林部会長なのか。彼は党内でTPP支持を公言する数少ない者であり、TPP「大筋合意」後の2015年10月23日の就任というタイミングからすれば、まずはTPP「国内対策」の広告塔ということだろう。小泉人気でTPPを押し切り、選挙につなげる腹である。


◆自民党と政府の接着剤

 しかしたんなる広告塔ではない。官邸農政の要の位置にいる。自民党は「TPP総合対策本部」を設置し、農林水産戦略調査会(西川公也委員長)と農林部会の合同会議で検討を進め、その下に「農林水産業骨太方針策定PT」(小泉委員長)を置く。西川等の農林幹部が常席する下で3月にも論点整理(中間とりまとめ)を行い、7月参院選(衆参同日選?)に反映させ、秋にも具体策を決定する。
 PTはA.生産資材・流通・加工、B.人材力・原料・原産地表示、C.輸出・チェックオフの三チームに分かれるが、小泉はAチームの座長にもなる。
 さらに政府は、生産資材(飼料、機械、肥料など)の価格形成の仕組みの見直し、流通・加工の業界構造の確立について(上記Aと同じ)、産業競争力会議と規制改革会議で検討を進める。産業競争力会議は主要閣僚と財界人、竹中平蔵など、規制改革会議は新自由主義的な学者と財界人からなる政府機関で、2013年からの農政「改革」の火付け役になり、財界意向を反映させてきたことは耳目に新しい。
 自民党と政府で共通するのは農業生産資材の価格・流通問題(言い換えれば農協攻撃)。その要に座るのが小泉農林部会長だ。2015年農政「改革」では、規制改革会議等と自民党農林族との間にはいろいろ綱引きがあったようだ。しかるに小泉進次郎は「小泉構造改革」の継承者として、規制改革会議等と同じ新自由主義の立場に立つ。彼は、政府・官邸と自民党を一体化させる接着剤である。


◆小泉農政論

 ここでしばらく彼の農政論を聞こう。
 (1)TPPについては、「交渉参加に賛成。交渉の中で勝ち取るべきは勝ち取る」という点で官邸と同じ立場だ。TPP「国内対策」は、「『対策を打つので、変らないから大丈夫です』ではない。環境は変わります。『変化に対応できる農業の実現に向けて対策の手を打つので、一緒に頑張りましょう』と言うべき」(『週刊ダイヤモンド』2016年2月6日号のインタビュー)。また「投資計画の事業性を評価して採択」するため「今回から、農業団体を通さずに、採択までのプロセスに都道府県をしっかり絡ませる」(同前)とする。
 (2)1月13日には茨城のホームセンターや農協を訪問し、そこで農林中金の「農業融資はなんと0.1%。だとしたら農林中金はいらない」と発言。同趣旨のことは先の『ダイヤモンド』インタビューでも「農業金融の見直しも必至」と述べ、「これはエールのつもりで言っているのです」としつつ、農協も5%しか農業融資していないことを付け加えている。
 (3)先のPTとも関わり、「つまびらかにしたいことの一つが、農業機械や肥料、農薬などの生産資材の価格がなぜこんなに高いのか」(同前)と、農協の生産資材の割高性を強調。
 (4)「個人的には、株式会社の農地所有は日本の農業が選択肢の一つとして持っていいと思う」(『週刊エコノミスト』2016年2月2日号)。
 (5)「株式会社全農のようなイメージで、食の商社として活躍したらとてつもない効果が得られるだろう」(日本農業新聞、2月5日)。
 彼は、「僕が、生産者起点の農政から、消費者起点の農政に転換します」とも言っている(『ダイヤモンド』)。しかしそれは既に1999年の食料・農業・農村基本法が宣言したことで、新機軸ではない。(1)~(5)のいずれも農協攻撃の延長や新自由主義の主張の繰り返しで、事新しいものではない。要するに「古い革袋に新しい酒を盛る」ではなく、「新しい皮袋に古い酒を盛る」、その「新しい革袋」が小泉だ。
 かくして農政「改革」の火の手がまたもや上がる。すなわち(1)全農・農林中金等の全国事業連の株式会社化、(2)農協の信用・共済事業分離、(3)TPPによる「農業の成長産業化」の挫折の責任を農協の生産資材価格に転嫁する経済事業攻撃、(4)株式会社の農地所有権取得、要するに「改革」(攻撃)の段階的深化だ。
 しかも前述のように、小泉が入ることにより、財界・官邸・自民党が束になって追求することになる。「新しい革袋」は農協「改革」の度の強い酒を熟成する。


◆小泉登場の意味

 問題の射程はさらに長い。
 いま日本農業は世代交代期を迎えている。どの時代にもある世代交代と異なり、団塊の世代が60代後半から70代にさしかかり、その次の世代への歴史的交代である。それは高度成長期の、それなりに「まとまり」を意識した「マスの時代」から、グローバリゼーション時代の「ばらける」(まとまっていたものがバラバラになる)「個の時代」への転換に重なる。そしてTPPショックは、それが批准されると否とにかかわらず、離農を加速し、農業者の入れ替えを一挙に促進する。
 このような新しい農業者世代のマインドを誰がつかむのか。政治にも経済にもそれが問われている。古い農林族は政権交代選挙の頃に消滅した。代って登場した新農林族も高齢化した。その時に登場したのが小泉進次郎である。彼は11月10日の自民党のTPP対策の会合で、若手農家の「青年の就農者向けの給付金のあり方に疑問がある」「研究もしないで給付金・補助金だのみの人がいる」という発言に「今までで最も心を打たれた」としている(朝日、2015年11月11日)。彼等との世代的シンパシーは強い。
小泉は、世代交代期の新しい農業者を獲得し、政権党が農村に新しい支持基盤を再構築していく若大将である。そのことが彼の登場の真の意味である。


◆農村社会・農協の課題

 それに対して農協は、高齢組合員から青年層まであらゆる階層を組織した「ぐるみ」の組織であり、若手エリートだけを優遇するような「いいとこどり」は許されない。そこで古い層がこれまでのやり方にこだわれば組織は制度疲労を起こす。共販部会組織は閉鎖的になり、青年部、女性部などの活動はマンネリ化・ルーチン化する。
 その隙をついて農家出身の農業生産法人が、癖のついていない法人成り前の優秀な農業者を広域的に一本釣りして販売網を構築し農協にとって代わろうとする。若手農業者が農協青年部のルーチン活動を越えたユニークな取組みをする。
 このような農業の世代交代期にどのように積極対応するのか。誰が若い農業者と連携できるのか。その競争が始まっている。小泉の農林中金ひいては農協信用事業批判も、誤解を批判するだけで、相互金融と言う協同組合信用の原点を忘れては跳ね返せない。外部からの批判には対抗できても、若い層をつかめになかったら組織の未来はない。そういう課題を小泉の登場は農村社会・農協に突きつけている。

(写真)農林部会長にデビューした小泉進次郎氏:昨年10月27日撮影

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