農政:東日本大震災から5年
農地の復旧はできたが... 農業復興 道半ば2016年3月10日
東日本大震災の大津波による被災地では冠水農地の復旧が進み7割以上で営農再開の見通しが立ったものの、大区画圃場に合わせた生産の組織化はこれからだ。宮城県が道半ばとすれば、原発事故で放射性物質に汚染された福島県ではさまざまな後遺症があり、農業の完全再建には、「いまだ道遠し」の感を免れえない。宮城県と福島県の農業再建・復興の現状をみる。
東日本大震災による津波被災地の農林水産業の復旧・復興状況は、農水省の調べによると、1月末時点、被災農地の74%で営農再開が可能になった。
東日本大震災による津波被災農地は2万1480ha。被災農地については国の農業・農村の復興マスタープランに基づき計画的に復旧事業が進められてきた。進捗状況は岩手県67%(490ha)、宮城県88%(1万2660ha)、福島県33%(1820ha)、その他(青森県、茨城県、千葉県)は100%(950ha)となった。全体で営農再開した農地は74%。ただ、被災農地のうち農地転用が行われたのが1270haあることから、これを除く復旧対象農地2万210haに対する営農再開が可能と見込まれる農地の割合は79%となる。
復旧が必要な主要排水機場は98か所で、このうち93%(91か所)で復旧完了または実施中となっている。1月までに82か所で本格復旧が完了した。農地海岸は127地区で復旧が必要で、このうち84%(107地区)で復旧完了または実施中となっている。
農業集落排水施設で被害にあったのは青森県から長野県まで11県401地区。このうち387地区(97%)で復旧完了または実施中で、1月までに原発事故による避難指示区域内や津波被災地区などを除き383地区で復旧が完了している。
がれきが堆積していた岩手県、宮城県、福島県(避難指示区域を除く)の農地は1万7500haあったが99%(1万7400ha)で撤去済みとなった。
農地の復旧にあわせて国の直轄事業や復興交付金などを活用して農地の大区画化への取り組みも進めている。計画は8990ha。このうち岩手県100%(50ha)、宮城県52%(3770ha)、福島県33%(660ha)となっており、全体では49%(4420ha)の進捗状況となっている。
津波により東北一のイチゴ産地である宮城県亘理町・山元町の生産者380戸のうち356戸が被災した。農地としては96haのうち91haが被災と壊滅的な被害を受けた。
震災の年は10月までに阿武隈川沿いの耕作放棄地にパイプハウスを整備して生産・出荷を実施。その後、震災2年後の25年8月までに約40haのイチゴ団地を整備し、土耕栽培から高設養液栽培に切り替えた。あわせてイチゴ選果場を再整備し同年11月から本格的に出荷を再開し「仙台いちご」を復活させた。
そのほか被災地で成長力のある新たな農業を育成するため先端技術を駆使した大規模実証研究も実施している。土地利用型農業では大区画化したほ場で大型機械によるプラウ耕乾田直播や無人ヘリによる湛水直播など、生産コストの低減や収穫量の増加に向けた技術実証を行っている。
農水省によると、これらの技術によって水稲では労働費が大幅に削減され、生産費が東北平均にくらべて約50%削減が可能なことが示された。また、麦や大豆ではプラウ耕によって根の生長に適する土壌となるため単収が大きく向上するという。
なお農水省によると、23~27年度の東日本大震災復旧・復興に投入された予算(農林水産関係)は2兆6000億円だった。
(写真)新たな農業めざす大型の施設園芸ハウスの建設(宮城県亘理町で)
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