農政:JAは地域の生命線 国の力は地方にあり 農業新時代は協同の力で
【JA改革の本質を探る】農業協同組合の解体――新自由主義の本質 農協「改革」とTPPは一体(上)2016年9月20日
農家の金融資産一致団結し守れ
田代洋一
横浜国立大学名誉教授
本紙の2016年秋の特集は「JAは地域の生命線 国の力は地方にあり 農業新時代は協同の力で」を企画した。
第一弾は「JA改革の本質を探る」。田代洋一横浜国大名誉教授は農協「改革」は米国金融資本が利益拡大を狙うTPPと一体であることを警告する。地域の暮らしを支える協同組合を守るため消費者とともに対抗を訴える。
農協法改正を受けた農協「改革」の第一弾は生産資材価格の引き下げだ。農水省は厖大なデータを集めて日本の割高感を強調する。資材価格を引き下げられたとしても、それは農産物価格の引き下げとなり、「農業所得の増大」にはつながらない。だから買取方式に移行して有利販売しろと政府は言うが、買取主体になれば共販体制は崩れる。また、資材価格の引き下げが芳しくなければ、全農が協同組合だから非効率として、株式会社化を迫ることになる。
◆狙いは信用部門支店・代理店化
しかし資材価格問題は序の口だ。もう一度、規制改革会議第二次答申を読み返してみよう。そこでは、「単協の活性化・健全化」では(1)単協の信用事業は、JAバンク法に規定された中金または信連に事業譲渡・支店化するか、代理店として報酬を得る方式の活用の推進、(2)単協は「利益を上げ、組合員への還元と将来への投資に充てていくべき」。
加えて(3)単協・連合会組織の分割・再編や株式会社等への転換を可能にする法的措置、(4)全農、中金、信連、全共連の農協出資の株式会社への転換を可能とする。
こうして見ると、法改正で実現したのは(2)のみ。他は全農株式会社化も含め実行段階には至っていない。この残された課題を実行に移すこと。これが農協「改革」の究極のテーマだ。要するに単協信用事業の支店・代理店化と農協系統の組織・事業の株式会社化だ。
◆米国投資家の利益を最優先
では何のための支店代理店化(信共分離)なのか。そもそも何のための農協「改革」なのか。その淵源はTPPにある。
アメリカでは5月18日に国際貿易委員会が議会にTPPの影響に関する報告書を提出した。800頁にのぼる大作だ。そこではTPPのGDP押し上げ効果は何と0.15%しかない。製造業・天然資源・エネルギー産業は▲0.1%のマイナス成長とされている。
これではクリントン、トランプの両大統領候補も「TPP反対」「再交渉」を言わざるを得ない。にもかかわらずアメリカの支配層(ウォール街とオバマ政権)がTPPを推進するのはなぜか。そこには3つの意図がある。(1)グローバルルールを中国ではなくアメリカがつくる、(2)TPP参加国なかんずく日本から経済力を搾り取り、中国に対抗する、(3)アジア太平洋への軍事的なリバランス戦略の経済的土台にする。
そうは言っても製造業がマイナスではないかという疑問もあろう。それに対しては、アメリカは国際収支面からしても、既に「ものづくり」資本主義ではなく、金融・サービスでもうける金融資本主義国、海外への投資からの収益に依存する「投資国家」になっているといえる。このような権益を守るために最重要なのは、アメリカの投資家の利益が各国の国家主権に優先するISDS(投資家と国家の紛争解決)条項をTPPに取り入れることだ。
そのうえでアメリカ金融資本は具体的には何を狙うのか。最大のターゲットは新自由主義的ルールがまだいきわたっていなかった日本の農家の金融資産だ。
◆農家の「資産」外資に落ちる
その手口を整えるのが実は農協「改革」である。すなわち(1)単協の信用事業を中金・信連の支店・代理店化する。(2)中金や信連を農協出資の株式会社化する。(3)農協しか株式会社・中金の株を所有できない制度は外資の利益に反するとして、株式公開を求める。拒んだらISDSに訴える。(4)こうして株式公開の突破口を開き、中金株を外資も取得する。そうすれば、(1)により既に支店・代理店化している単協(農家)の金融資産も外資の手に落ちる、と言う次第だ。
いま日本政府は「TPPの再交渉には絶対に応じない」と気勢をあげている。しかしTPPの早期発効を最も望んでいるのは日本だ。その足元をみられ、アメリカから「再交渉に応じなければTPPを批准しないぞ」と脅しをかけられたらイチコロもないのが日本だ。同様に「株式公開には応じない」などといっていても、「ISDSで訴えるぞ」と脅されたら震え上がるのが日本政府だ。
要するに、単協信用事業の中金等の支店・代理店化という農協「改革」と、TPPを通じる金融資本利益の追求はピタリ一致している。
・農協「改革」とTPPは一体 (上) (下)
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