農政:JAは地域の生命線 国の力は地方にあり 農業新時代は協同の力で
【提言】安倍政権農政はヨーロッパ型農業から学べ(上)2016年10月7日
TPPからは離脱を
「直接支払」EU型へ
生き甲斐農業を積極奨励
真に「強い農業」をめざせ
北林寿信農業情報研究所主宰
「農業成長産業化という妄想-安倍農政がヨーロッパ型農業から学ぶべきこと」と題する小論(雑誌『世界』9月号)に目を止めた「農業協同組合新聞」から、「小紙読者の中心層であり地域農業、地域づくりのために奮闘しているJA関係者にも『安倍農政の問題点』をご教示いただければ」とのご注文を頂いた。以下はこの注文に応えるべく、小論の内容を要約、紹介するものである。
◆生産主義農業とその危機
「生産主義」(正確に言えば「生産性至上主義」)とは、第二次大戦後の「近代的農業」に批判的なフランスの農業グループが1970年代、そういう農業の蔑称として使い始めた言葉である。こうした蔑称が生まれるについては次のような事情がある。
戦後フランス農業は、廃墟と化した国家再建に寄与すべく、農村に滞留する労働力を工業に向けて解放し、戦時中は輸入に頼らねばならなかった国民の食料需要を満たした上で、外貨獲得のために食料輸出需要まで満たさねばならないという使命を負わされた。この使命を果たすためには、労働生産性(付随的に土地生産性)の飛躍的な引き上げが不可欠であり、機械化、化学肥料、農薬、購入飼料などの利用による「集約化」、単一作物を大量生産する「専門化」(これは多作物栽培-養畜のシステムや経営内での資機材生産や生産物加工の放逐を伴った)、規模拡大などによる「農業近代化」に驀進した。1960年農業基本法はそのための「構造政策」―引退農業者や小規模農業者の土地の集積による大規模経営創出―の手段を整備するとともに、小規模経営は、土地取得と経営装備購入を助ける近代化援助から排除された。
その結果、フランス農業はまたたく間にその使命を達成したが、70年代後半、石油危機(74年)と頻発する気象災害が誘発した戦後最大の"農業危機"でこの農業の脆弱性が露呈する。多額の資機材購入費用と土地・資本費用が経営所得を圧迫、エネルギー危機に伴う資機材価格高騰や加工・流通産業による買いたたきに対する経営の抵抗力を弱めていた。所得減少を補うために労働を強化、一層の規模拡大・増頭に走る農家の生活は、日々の苦渋労働に追われる近代化以前の生活に逆戻りした。地力維持や危険分散により気象災害の軽減に貢献していた多作物栽培―養畜を放逐したことも気象異変に対する抵抗力を弱めていた。
生産主義農業がもたらす農業人口の減少と地域社会の活力喪失・農村空間の利用と管理の困難、農業による環境破壊も社会の許容限度を越えた。
これを契機に、近代的農業を「生産至上主義農業」と揶揄、「集約化」・「専門化」・「規模拡大」といった経営戦略と決別した多様なスタイルの中小規模農業―主に定年退職者がかわる自家消費や近隣との物々交換のための生き甲斐農業、農場内加工・販売、ツーリズム、エネルギー生産、ケア施設、景観・生物多様性保全活動などを兼営する専門化とは真逆の農業、農場内の自然資源の最大限の活用で肥料・農薬などの生産資材の外部依存を減らし・環境保全にも貢献する低コスト農業(アグロ・エコロジー)など―が燎原の火のように広がった。農政もこれを後押しすることになる。
◆貿易摩擦が生産主義農業にとどめ
そもそも生産主義農業が成り立ち得たのは、どれほど生産しても高価格が保証され、余ったものは補助金付きで輸出に回すというEU共通農業政策(CAP)のお陰であった。そのCAPが価格支持・輸出補助金などの廃止を求める外圧が高まるなか、ついに保証価格を引き下げ、それによる所得減少を直接補償するという改革に踏み切った(1992年)。天賦の農地資源に恵まれた国々とは競争できないヨーロッパ農業は、国境保護に支えられた価格保証なしには生き残れない。だからといって、ヨーロッパは地域社会の維持発展、環境・文化、健全な社会と経済を支えるために、つまり「多面的機能」の維持のために、農業を失うわけにはいかない。だから保証価格引き下げで農家が失う所得は、生産を刺激しない直接支払で補償する。それが改革を支える根本思想であった。 最大限の農業者の維持、農業が持つ多面的機能の助長というCAP改革の目標は、なお実現への道半ばにある。CAPの第一の柱をなす面積に応じた直接支払(所得補償)がなお直接支払の7割を占め、生産主義農業を護持する大規模農業者が大半の援助をせしめている。それでも、相次ぐ改革は多面的機能を保持する「ヨーロッパ農業」モデルの創出と定着を一歩一歩追い続けている。CAPの第二の柱をなす農村開発援助は、知識の移転・革新、全てのタイプの農業の競争力の強化、加工・販売を含む食料チェーンの組織化、リスク管理(災害・収入保険)、生態系の保全・強化、低炭素経済への移行、農村地域の貧困削減と経済開発を支援することで、多様なスタイルの農業の持続と発展を助けている。
・【提言】安倍政権農政はヨーロッパ型農業から学べ (上) (下)
重要な記事
最新の記事
-
米粉で地域振興 「ご当地米粉めん倶楽部」来年2月設立2025年12月15日 -
25年産米の収穫量746万8000t 前年より67万6000t増 農水省2025年12月15日 -
【年末年始の生乳廃棄回避】20日から農水省緊急支援 Jミルク業界挙げ臨戦態勢2025年12月15日 -
高温時代の米つくり 『現代農業』が32年ぶりに巻頭イネつくり特集 基本から再生二期作、多年草化まで2025年12月15日 -
「食品関連企業の海外展開に関するセミナー」開催 近畿地方発の取組を紹介 農水省2025年12月15日 -
食品関連企業の海外展開に関するセミナー 1月に名古屋市で開催 農水省2025年12月15日 -
【サステナ防除のすすめ】スマート農業の活用法(中)ドローン"功罪"見極め2025年12月15日 -
「虹コン」がクリスマスライブ配信 電話出演や年賀状など特典盛りだくさん JAタウン2025年12月15日 -
「ぬまづ茶 年末年始セール」JAふじ伊豆」で開催中 JAタウン2025年12月15日 -
「JA全農チビリンピック2025」横浜市で開催 アンガールズも登場2025年12月15日 -
【地域を診る】地域の農業・農村は誰が担っているのか 25年農林業センサスの読み方 京都橘大学学長 岡田知弘氏2025年12月15日 -
山梨県の民俗芸能「一之瀬高橋の春駒」東京で1回限りの特別公演 農協観光2025年12月15日 -
迫り来るインド起点の世界食糧危機【森島 賢・正義派の農政論】2025年12月15日 -
「NARO生育・収量予測ツール」イチゴ対応品種を10品種に拡大 農研機構2025年12月15日 -
プロ農家向け一輪管理機「KSX3シリーズ」を新発売 操作性と安全性を向上した新モデル3機種を展開 井関農機2025年12月15日 -
飛翔昆虫、歩行昆虫の異物混入リスクを包括管理 新ブランド「AiPics」始動 日本農薬2025年12月15日 -
中型コンバインに直進アシスト仕様の新型機 井関農機2025年12月15日 -
大型コンバイン「HJシリーズ」の新型機 軽労化と使いやすさ、生産性を向上 井関農機2025年12月15日 -
女性活躍推進企業として「えるぼし認定 2段階目/2つ星」を取得 マルトモ2025年12月15日 -
農家がAIを「右腕」にするワークショップ 愛知県西尾市で開催 SHIFT AI2025年12月15日


































