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農政:迫る食料危機 悲鳴をあげる生産者

【迫る食料危機 悲鳴をあげる生産者】「真綿で首絞められるよう」「年金で赤字補填」 岩手・となん地区を歩く2022年6月28日

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米価の低迷にウクライナ紛争や円安などで生産資材は過去最高水準で高騰が続き、生産者はかつてない危機に直面している。産地では今、何が起きているのか。農業協同組合新聞では「迫る食料危機 農業資材高騰で悲鳴をあげる生産者~守ろう食料安保~」をテーマに、厳しい経営にさらされる生産者の実態を伝えながら、日本の農業・農村を守るために今、何が求められているのか、読者とともに考えていくことにした。
1回目は、9年前に日本最大の農事組合法人として誕生し、農家目線にたった集落営農が高く評価されている岩手県盛岡市の「となん」を訪ね、リーダーや農家を取材した。

悲鳴あげる産地1熊谷さん.jpg農事組合法人となん 熊谷健一会長理事

集落営農先進地でも耕作放棄地が点在 強い危機感

「ここはおととし米作りをやめた田んぼ。2年たつとここまで農地は荒れてしまうのさ」

昨年まで農事組合法人「となん」の組合長を務め、現在は会長理事の熊谷健一さんが、水田が広がる地帯の一角で雑草が生い茂る耕作放棄地を指さしてため息をついた。

耕作放棄地となった水田の前で説明する熊谷さん耕作放棄地となった水田の前で説明する熊谷さん

岩手県のJR盛岡駅から南西へ車で約15分。田園が広がる都南地域で活動する「となん」は、2013年に農地の集約や担い手育成などを目指して法人化し、農作業の受委託業務など農家目線に立った農地の集約化や集落営農を進めてきた。今年4月現在の組合員数は952人、作付け面積は約970haに及び、主食用米を中心に小麦や大豆、トマト、リンゴなど幅広い作物が生産されている。設立時とほぼ同じ経営面積を維持しているが、農家の高齢化で作業できる農家は減り続け、熊谷さんは最近、地域を歩くたびに耕作放棄地が見られるようになったと感じている。

「あそこの家はもう誰も住んでいない。こんな状況も珍しくなくなってくるかもしれないなあ」
耕作放棄された田んぼから数百m先の荒れた屋敷を示し、再び熊谷さんは声を落とした。

米価低迷に追い打ちかける資材高騰 「収入が経費で消えてしまう」

米価の低迷に追い打ちをかける資材高騰は集落営農の先進地にも大きな影響を及ぼしている。いかに米農家が窮地に追い込まれているか、熊谷さんは分かりやすく同地区の米作りの収支を解説してくれた。

10a当たりの米作りの収支(熊谷さん試算)

同地区で収穫される「ひとめぼれ」は、2年前は、1俵1万2000円程度で取り引きされていた。10a当たりの収量を10俵とすると収入は約12万円。一方、支出は肥料代と農薬代で約2万円。水田の代掻きから田植え、コンバイン、乾燥調製までの作業にかかる経費は約7~8万円と試算する。こうした経費を差し引くと10a当たり2,3万円のプラスになる。ただし、ここには農機具のローンなどは含まれず、これでも実態は厳しい。

ところが資材高騰がこのプラス部分までも飲み込んだ。肥料代+農薬代は低く見積もっても約3万円に上昇。燃料費の高騰などもあり10a当たりにかかる経費は10万円に達しているると熊谷さんは見積もる。一方、米価下落で「ひとめぼれ」の価格は1俵当たり1万円を割り込んできた。10俵当たり10万円で以前から2万円の減収だ。この結果、収入から支出を差し引くとゼロになってしまう。

「入るのも出るのも10万円。これじゃあ米作りやる人はいなくなってしまう」。熊谷さんは米農家の危機的状況を強調した。

「年金から赤字を補填している」 米農家の苦悩

悲鳴あげる産地3 藤澤さん.jpg

米農家 藤澤勝人さん

米作りを中心に手がける農家を訪ねた。「となん」を支える集落営農組織の1つ、湯沢農業生産組合の組合長を務める藤澤勝人さん。妻と2人で先祖から受け継いだ水田や畑など約10haで米作りを中心に農業を営んでいる。

受託も含めて広域で米を作る藤澤さんは、必要な農機具をすべて一式そろえている。このため年間管理費だけで約50万円かかるうえ、ローン返済で年間約200万円を負担している。これに資材の高騰が重なってきた。燃料の軽油は年間約1200リットル使うが、1リットル100円前後だった価格が今は約140円にまで上昇。肥料代は通常、年間80~100万円と見込んでいるが、これが1.5倍以上に高騰している。米価が下落する中、収入はほぼ経費で消えてしまう恐れがあるという。

「米価がおととしから25%も下落しているのに資材は約30%上がっている。本音を言えば米価は1俵1万5000円位はないと厳しく、この状況では成り立たない」

70代後半になった今も農繁期は朝4時に起きて夜8時近くまで夫婦で働きづめの日々を送る藤澤さん。収支がマイナスの年は年金で補填してきた。「これほど厳しい経営状況を経験したことはない。正直なところ、年金なしで農業を続けるのは難しい」。農業をやめて年金暮らしに切り替えたほうが楽だと考えてしまうこともあると話す。

「息子に後を継げと言えない」

実際、「農業をやめたい」と高齢の農家から農地管理を頼まれるケースが増えているという。しかし、夫婦2人では今の経営面積で手一杯だ。50歳を迎えた長男と次男がいるので本音は後を継いでほしいが、話を切り出せないでいる。「サラリーマンで一定以上の年齢なら年収が500万円位になると思うが、農業でそれだけの純利益を得るのは大変なこと。未来が描きにくい中で、収入が伴わない農業を継げとはまだ言えない」。

米農家として藤澤さんが最も疑問を示すのは、経費がかさんでも米価が上がらないことだ。「あらゆるものの物価が上がり、資材も上がっているのに、なぜ米の値段だけが上がらないのか。国などが真剣に農家への援助を考えないと本当に農村は立ち行かなくなる」。藤澤さんは警鐘を鳴らす。

「受け手も出し手も米作り農家は限界」 集落崩壊の懸念も

資材高騰は、農地を守ってきた「となん」の作業受託の仕組みにも暗い影を落としている。米価が安定していた約30年前、同地区では地主が10a当たり「小作料」として2万3000円で「受け手」農家に農地を貸し出していた。その後、高齢化などで農作業を引き受ける「受け手」が急速に減る中、この料金は下がり続け、「となん」は小作料の名称を「賃貸料」に変えて10a当たり8000円に統一した。

ところがさらなる高齢化で8000円でも受け手の確保が厳しくなり、現在、草刈りや水管理などの作業まで委託する場合は賃貸料を10a当たり4000円にまで下げている。「受け手農家の高齢化で草刈りや水管理の作業が厳しく、これがなければ80歳まで頑張るという声がある。農地を守るために地主に理解を求めた」と熊谷さんは語る。しかし、資材が高騰を続ける中、作業受託をめぐってさらなる混乱が生じる恐れが出ている。

「となん」では、約600haの水田で作業受託が行われているが、地主と受け手の契約には2つの形式がある、1つは「受け手」が農地の利用権まで譲り受けて肥料代も負担しながら作業するケース、もう1つは作業料金のみを受け取るケースだ。現在、2つのケースはほぼ半々だが、肥料価格の高騰でこのバランスが崩れると熊谷さんは予測する。

「まだ一般の農家は肌で感じていないが、肥料を注文する9月が近づくと価格を見て一斉に騒ぐと思う。利用権まで譲り受けてきた農家は、肥料代の値上がりをみて作業料金だけを受け取る契約に変更しようとするし、地主はそれでは困ると主張し、『それなら田んぼをやめる』となりかねない。受け手も出し手も限界にきている。このままでは荒地が増えて集落が崩壊してしまう恐れがある」

「農家だけに食料をつくらせる考え改めるべき。非農家も参加を」

こうした農地や集落の崩壊を防ぐ手立てはないのか。熊谷さんが2年前から盛岡市役所やJAに訴え続けている提案がある。行政とJAと「となん」が一体となった農地管理作業受託会社の設立だ。「となん」事務所には農作業のできる社員や農繁期のアルバイトを加えると約25人が働いているが、改めて冬期間も雇用できる会社をつくって働き手を安定確保することで、引き受け手のいなくなった集落の草刈りや水路管理などをかなりカバーできると語る。

もっとも、熊谷さんが特に強く訴えるのは「農家だけに食料を作らせる」という発想の転換だ。元々「となん」の設立趣旨には、農村の豊かな暮らしを持続させる目的があった。ところが農家の高齢化にコロナ禍も重なって地域の伝統行事などはめっきり減り、コミュニティの維持も危機的な状況を迎えている。

「田んぼや畑は農家のものというより国の所有物を農家に管理させていると考えるべきだ。例えば地域内で非農家の人たちも年に2、3回でも草刈りや水路管理を手伝う。こうした交流が進めば、農村・農地を守り、コミュニティも強化できる。こうした取り組みを全国で進めていかないと、10年後には水田の半分で米作りをしなくなる恐れがあると思っている」

「真綿で首を絞められているよう」 資材高騰に悩む畜産農家

悲鳴あげる産地4 藤原さん.jpg畜産農家 藤原隆夫さん

資材高騰による経営圧迫はあらゆる分野の農家に及んでいる。盛岡市で家族で畜産業を営む藤原隆夫さん。肉牛の繁殖から肥育まで一環して行い、約9000坪の敷地に点在する牛舎で80~90頭の牛が飼育されている。

「真綿でじわじわと首を絞められている感じですね」。畜産に欠かせないあらゆる資材が高騰する状況を藤原さんはこう表現する。

まず肉牛の飼育に欠かせない配合飼料は、20数年前は1トン3万円台だったのが今や7万円から8万円台に上昇し、この1年だけで1万円近く高騰、さらに来月から1トン当たり1万1400円と過去最大の値上げが実施される。毎月2頭前後の牛をと場に出荷し、1頭80万円から150万円近くで取り引きするが、毎月90万円以上がかかる餌代の負担がさらに重くのしかかる。

藤原さんは、自前で牧草や稲わらを収穫するため、農業用トラクターや牧草関連作業用車両など大型機械や車両を約20台所有している。燃料費だけで軽油を中心に年間約100万円に上るが、すでにこの価格も30%以上高騰。さらに稲わらなどを梱包するため年間約50万円分を購入するラップフィルムも価格が約2割上昇した。

元々水道の配管工をしていた藤原さんは技術者でもあり、農機具の修理や堆肥を保管する倉庫の建設をほぼ自前で行ってしまう"スーパー畜産家"だ。こうして出費を切り詰めるとともに、今も畜産業の傍ら副業で配管業も行い、畜産の経営が厳しいときはその収入や年金から牛の餌代を補填しているという。

畜産の売り上げは年間平均約2500万円に上るが、年間の経費は確実に数百万円単位で上がると実感している。「12月に今年の収支を計算するときに、こんなに経費がかかったのかと驚くことになると思う。今年の黒字確保は難しいと覚悟している」と語った。

「農業で生活が成り立つ政策を本気で考えるべき」

東北地方の肉牛農家は藤原さんに限らずいくつもの修羅場をくぐってきた。最もつらかったのは、国内でBSEが発生したときや、福島第一原発事故に伴う出荷制限だった。「牛を出荷できないのに餌代はどんどんかかる。収入ゼロで経費がかかるのだからこんなにつらいことはなかった」。こうした危機を乗り越えてきただけに、藤原さんは今回の資材高騰も歯を食いしばって耐え抜く覚悟だが、不安は隠せない。

「大型車両などを購入して規模を拡大してきたので簡単にやめられないし、厳しくても乗り越えるしかないが、これ以上飼料が上ると本当に厳しく、小規模農家の多くは継続できなくなるのではないか。国にはせめて農業で生活が成り立つ政策を本気で考えてほしい」。

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