農政:今こそ 食料自給「国消 国産」 いかそう 人と大地
【今こそ食料自給・国消国産】建設業の「分業」導入 次世代につなぐデータ農業 静岡・浜松の「アイファーム」(2)2022年10月26日
建設業の「分業」導入 次世代につなぐデータ農業 静岡・浜松の「アイファーム」(1)から続く
ほ場管理用のドローン撮影
分業で技術・精度アップ
経営規模を拡大する過程で、いくつかの問題があったが、最も大きいのは質の高い人材(労働力)の確保。特にブロッコリーの収穫作業は人力に頼る部分が大きいが、技術の進歩がなく、人員を増やしても作業が予定通り進まず、生産計画がずれたり、正品率が下がったりした。この結果売り上げは伸びるが人件費が上がり、利益が伸び悩む状況が続いた。
そこで池谷さんは、就農前の仕事の建設業で一般的な分業による工程管理を導入した。農業は1年1作で、栽培の経験が蓄積できない。これに対して建設業は基礎、建て方、屋根、内装工事など、建物が完成するまで専門職ごとに別れている。これと同じようにブロッコリー栽培にも土づくり、苗の管理、植え付け、中間管理、収穫、出荷調整のそれぞれの作業を分業化した。経験を蓄積することで、精度と技術の向上、および作業時間の短縮・安定化をはかった。
「農家であれば、伝来の経験と技術を身に着けることができるが、素人では真似ができない。苦し紛れに出た分業化だが、技術の深堀りができた」と池谷さんは言う。例えば土づくり部門のトラクター作業。専門化することで、作業時間と耕運の精度を高め、安全講習などによる技術指導の徹底で農機事故を抑えることができる。常に2~4台のトラクターが動いているが、この数年農機事故は発生していない。
ドローンや各種センサーも駆使
アイファームのDX化は徹底している。作業の指示と現場の作業班ごとの進捗状況を数値化。それぞれの作業が終わるごとにほ場を撮影し、ラインで報告する仕組みができている。その結果は色分けして、瞬時に分かる。
また、収穫適期の判断にはドローンや各種のセンサーを駆使。580余りの畑のなかで、株の大きさ(直径)によって収穫適期をドローンの写真で把握する。同じほ場内でも収穫に適した時期はばらばらだが、収穫適期を的確につかむことで、収穫精度の向上と作業の効率化が実現できる。
災害のリスクヘッジも
こうしたデータ化で、アイファームでは全ほ場の収穫期をつかみ、30日先までの収穫量を予測している。これによって業務契約の欠品リスクを軽減。販売先と情報を共有してスムーズな販売を実現し、取引先の信頼を得ている。
さらに品種、サイズごとに重量データも蓄積。過去の重量データをもとに株の大きさごとの平均値を掛けると、その畑の収穫量が分かり、さらに販売予想価格を掛け合わせると売上額の目安をつかむことができる。
このほか、10回ほどの収穫に要する歩行距離、それに必要な時間も数値データ化し、移動コストの削減に努めている。例えば業務用契約の比率が生産面積の40%になり、一斉収穫できれば移動コストが約580万円の削減になるという。そこまで計算する。
過去のデータをもとに自然災害へのリスク管理も徹底。今年9月、静岡県を襲った台風15号では、多くのブロッコリー畑が水に浸かる被害を受けたが、過去のデータをもとにリスクに備えて余分に苗を確保していたため、2、3日で12ha分を植え替え、被害を最小限に抑えた。
これからのアイファームの取り組み課題として池谷さんは、管理システムの構築と新たな商品開発を挙げる。現在、アイファームでは社員、アルバイトなどを合わせて50人の従業員がおり、売上高は約4億円。この経営を維持・発展させるには、農業技術者、工程管理者、気象予報士、デザイナー、AIエンジニアなどの機能を備えた司令塔のようなオフィスが必要と考えている。さらに健康に役立つ機能成分、カット不要の食べやすさ、レンジでそのまま調理できる手軽さをコンセプトに、新たな商品開発に取り組む。
アイファームは今年度の農水省「全国優良経営体験発表」生産技術部門で最高の大臣賞を受賞した。ICT(情報通信技術)の導入で生産性を大きく向上させたことが評価された。「日本の農業は素晴らしい。人が生きるための食べ物を作っていることにプライドを持ち、頑張る若者をいかに育てるかが課題。そのためには経営を数字のデータで伝え、ビジネスとしてのモデルを示したい」と、池谷さんは後に続く若者に農業の未来を託す。
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