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シリーズ:防除学習帖

2019.05.17 
【防除学習帖】第4回 病徴・標徴と病害診断一覧へ

 前回までに、作物病害が発生する病原(原因)には色々あって、様々な病徴(症状)が出ることをご紹介した。この病原ごとに防除方法や使える農薬が違うため、効率のよい防除を行うには、まず、何が原因で発生しているのかを正確に見極めることが必要になる。
 その際に役立つのが病徴や標徴。大概の病害は、この2つで判断がつくが、時には紛らわしい病徴もある。例えば、果実腐敗は同じような病徴が違う原因で起こるため、病斑だけで判断せずに、標徴や、圃場環境、施肥状況を確認したりと、色々な情報を総動員して総合的に診断しなければならない。
 このため、色々な作物の病害を正確に診断できるようになるには、相当な経験と知識の蓄積が必要になるが、一足飛びに身に付けることは難しい。まずは接することが多い作物を一つ決めて、その作物に発生する病害の病徴や標徴、出やすい環境、肥料要素の欠乏症などを覚え、マスターしたらまた別の作物をと、地道な努力を続けることが肝要だ。今回は、間違えやすい作物病害を中心にポイントを整理して紹介する。

(1)葉に出る病徴・標徴と見分け方のヒント

 作物の葉に出る病徴は、斑点、菌叢、葉枯れ、萎凋、葉巻き、針状葉、モザイク斑など多数あり、これらが複合して出る場合もある。
 斑点には、色、大きさ、形状によって違いがあって、色の違いでは、褐色、黒、黄、濃緑など、大きさではゴマ粒くらいのものから小豆大のものなど、形状では丸いもの、角ばっているものと、葉脈に沿って四角いものなど千差万別であり、病名はこの病斑の特徴によって付けられているものが多い。
 例えば、キュウリの病害では、葉に褐色の斑点が出るものを「褐斑病」、白い円形状のうどん粉をふりかけたような病斑が特徴の「うどんこ病」、葉に緑色のモザイク状の斑点が出る「モザイク病」など病徴から病名が診断できるものもある。
 この他、「キュウリべと病」であれば、葉脈に沿った水浸上の黄色い角ばった病斑をつくり、その葉裏が濃い灰色(遊走子嚢)になっていれば簡単に判別できる。

 ところが、葉には病原菌以外が起こす症状が現れることがある。その代表的なものは、養分欠乏症や養分過剰症といった生理障害だ。例えば、キュウリの下葉の葉縁が黄色く変色し、葉脈間に黄色斑点がでているような場合はカリ欠乏が原因で、トマトやナスの実の先端(尻の部分)が腐れたようになる尻腐れ症はカルシウム欠乏が原因。
 この養分不足によって起こる欠乏症は、土壌に含まれる養分が少ないため起こっているので、圃場全体に出る場合が多く、部分的な場合は、肥料を撒き損ねたなど施肥ミスをした部分だけに症状が出る。
 病害の場合は、圃場の端などから部分的に出始めたものが徐々に全体に拡がる傾向にあり、一気に圃場全体で発生することはほとんどない。そのため、同じ症状が圃場全体に万遍なくでているような時は、養分不足の可能性を忘れずに検討するようにしたい。

(2)茎に出る病徴・標徴と見分け方のヒント

 茎の場合は、がんしゅや黒変、褐変といったものが主なもの。葉の病斑と併発することが多く、トマト疫病や灰色かび病では、病原菌が発病した花弁や葉が茎にとどまり、そこから感染して茎に黒変症状が出ることが多い。一方、がんしゅは、土にいる病原菌が感染して起こるので、地際をよく観察すれば瘤状の病変を確認できる。
 また、茎は根からの水分や養分を葉や実に運ぶ重要な通路だが、この導管に症状を示すものもある。例えば、トマトの地上部がしおれるなど萎凋症状が出た株の地際から少し上の茎を輪切りにし、導管の褐変が確認できればトマト萎凋病であると診断できる。
 その他、菌核病などでは、地際の茎や葉に白い菌糸と黒色の丸い糞状の菌核が発生するので見分けがつく。

(3)根に出る病徴・標徴と見分け方のヒント

 根は土の中にあるため、ぱっと見で分かりづらい。ただし、根は作物全体に栄養や水分を送る大切な役割があるため、根に障害が起こると必ず地上部になんらかの障害が起こる。例えば、アブラナ科野菜根こぶ病では、日中に葉がしおれているが、日が陰ると葉が元気になるような場合、症状の出ている株を抜き取って根っこに小さい瘤状のものが付いていれば、それは根こぶ病である。
 これが、キュウリやトマトの地上部が日中萎れる場合に根を掘ってみて、瘤状のものがついていれば、その場合はネコブセンチュウが原因だとわかる。
 その他、根が黒色に腐っているような場合は、根腐れを起こす病害が起こっている。ただし、根腐れの場合は、排水不良による根の窒息、壊死の場合もあるので、そのような時には圃場の環境もよく確認するようにしてほしい。

(4)病害診断の際に確認するポイント

 病徴は、見慣れてくると、病原菌によるものはすぐに判別できるようになるため、可能なかぎりたくさんの病徴を観察し、経験を積むようにしたい。 ただし、病原菌による病徴と生理障害による症状とがぱっと見だと同じような症状であることも多いので、病斑だけを頼りにすると診断を誤る場合がある。
 このため、診断を行う場合は、必ず圃場全体を見回し、管理状況や施肥の状況、近隣圃場の様子などに気を配るようにしてほしい。
 例えば、近隣の圃場に病害が出ているようであれば、それが空気伝染してきたと想像がつくし、症状が部分的でなく圃場全体あるいは、すじ状に出ている場合は養分欠乏の可能性に気付けるようになる。

(5)病斑が見つかった時、作物の中はどうなっている?

 「病斑がある部分だけに農薬を散布すれば、散布量も少なく効率が良い」と言われているのを聞いたことがないだろうか? 確かに発生初期の極少発生の場合や病原の飛散が少ない病害の場合は、そのような散布でも効果を発揮することはあるだろう。
 しかし、病害には「潜伏期間」があり、感染していても病徴が出ていないことがある。つまり、見た目が健全であっても、すでに病害に侵されている場合もあるのだ。
 この場合、病徴が出ていないからと防除をしないでいると、作物の内部で病害が進展し、ついには病徴が現れてくる。そのため、圃場内の1つの株で病斑が見つかり、病斑上で胞子を作っているようなら、すでにその近辺の株に飛び散り、見えないところで感染が進んでいる可能性が高いとみた方がよい。
 このため、作物の病害の場合は、病斑が見つかったら、その株を中心にできるだけ広範囲に防除する必要がある。可能なら、病斑が出た圃場全体と近隣の圃場全体を防除しておくことが、病害の蔓延を防ぐコツである。

(6)病害防除で一番効率的な防除タイミングとは?

 農薬をできるだけ減らすために、「病気が出たらその時発生しているところだけ防除すれば、農薬も少なくて済むので効率的だ」とする考えがあるが、これは本当に効率的と言えるのであろうか?
 病害の発生後には、作物の表面だけでなく、作物内部に潜む病原にも作用する治療効果のある農薬が必要になる。しかし、治療効果のある農薬でも、一旦侵入してしまった病原菌を完全に抑制するのは難しく、病害発生後の農薬散布はそれなりにリスクを伴う。
 発生後の散布が成功するのは、病害の発生直後で、周りにも病原菌が拡散していないごく初期の時期に限られる。しかし、このごく初期の発生を見つけるのは、かなり骨の折れる仕事。圃場を定期的に欠かさず見回ったとしても、広い圃場内をくまなく観察するのは時間ばかりかかって効率が悪い。
 ハウス栽培なら管理作業中に、くまなく作物を観ることもできるだろうが、露地栽培ではかなり難しい。ましてや、作物が大きくなると葉や茎の影の病斑は見落としがちで、圃場の見回りだけで、ごく初期の発生を見つけるのはベテランでも難しい。
 一般に、病害の発生に気付く時というのは、そこそこ病害が拡がっている状態であることが多いもの。であれば、早期発見をあきらめて、病害に罹りにくい環境を整えてやる方が効率の良い防除ができるのではなかろうか。
 その方法として、病害抵抗性品種の導入や病害が発生する前の予防散布がある。このうち病害抵抗性品種は、全ての作物と病害に用意されているものではなく、販売戦略上の品種と異なる場合もあって、使用できる場面が限られている。
 このため、病害に罹りにくい環境を整える手段としては、農薬の予防散布を中心に考えた方が効率的だ。予防散布を確実にしておけば、圃場見回りの労力を軽減でき、仮に病害が発生したとしても、病害の密度が低く、その後の対策が打ちやすくなるものだ。
 もちろん、予防であれば何でもかんでも散布すればいいのではなく、防除したい病害の発生しやすい時期を見定め、その時期に予防効果の高い農薬を確実に散布しておくことが重要だ。
 最近は、作物の病害抵抗性を高める作用のある農薬(抵抗性誘導剤)も増えてきているが、これらは、病害発生前の予防散布でないと効果を示さないので、特に予防散布を厳守しなければならない農薬である。

 以上を整理すると、毎年発生する病害や、いつ発生するかわからないが発生すると被害が大きい病害から作物を守るためには、適切な時期に農薬の予防散布を確実に行うことが最も効率的な方法といえる。

 

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