重い宿題をかかえて 豊洲新市場スタート2018年10月12日
東京都中央卸売市場が10月11日開場した。83年続いた築地市場に代る「東京の台所」の役目が期待されるが、計画の段階からさまざまな問題点が指摘され、それらを抱えたままのスタートとなった。
広大な敷地を4車線の広い道路が十字に延び、青果棟、水産棟、駐車場棟、管理棟の4つの街区に区切っている。それぞれの棟への人間の行き来は、3階にかけられた長い通路を通らなければならない。魚を仕入れた後、野菜もとなると15分以上荷物を持って歩く構造だ。
開場が近づくにつれ、埋め立て土壌そのものの弱さが指摘された。移転前から、地盤沈下で約10mにわたって建物の亀裂や、段差約5㎝にもなる壁のひび割れが発見され、さらに設計段階から駐車場棟でのくい打ち本数が偽装されていたことが発覚した。
水産棟が抱える問題はさらに深刻。仲卸に割り当てられた店舗面積は築地市場より狭くなったため、約480社が額をこすり合わせるようにひしめきあっている。開場日、店の脇に小型運搬車ターレが何台も放置され、通路をふさいでいた。築地では水平移動なので昼までバッテリーがもったが、豊洲では1階の仲卸フロアから4階の「茶屋」と呼ばれる荷置き場まで長いスロープを上り下りして運ぶため、すぐにバッテリーが切れるのだという。トロ箱を満載して築地市場を縦横に走り回っていたターレの颯爽とした姿からは想像がつかない。市場の運営上、致命的ともいえるこうした構造的な欠陥を抱えたまま、見切り発車的にスタートした。
(写真)勾配が大きく、バッテリー切れのターレが通路を塞ぐ
◆欠点抱え見切り発車
水産物だけで年間43万tという世界有数の取扱量を誇った築地市場は、2000年に現在地での再整備が決定し駐車場の建設が完了していた。それを、当時都知事に当選した石原氏が突然豊洲への市場移転方針を打ち出し、現在までの混乱が始まった。
「日本最大の汚染地」、「誰も買い手がつかないだろう」とまで言われた東京ガス豊洲工場の跡地は、深刻な汚染を除去できるのかが大きな注目を浴び、社会的な大問題となった。7月に行われた地下水調査では、環境基準の140倍のベンゼン、13倍の猛毒シアン、ヒ素などが検出されている。これらの有害物質は土壌や地下水汚染の問題にとどまらず、やがて気化して、市場で働く1万人に上る労働者に深刻な健康被害をもたらすと、専門家は指摘している。
豊洲に移転した仲卸や関連事業者の営業不安も深刻だ。廃業を決めた仲卸業者は「築地であれば何とか営業を続けられるが、移転の資金もないし、無理して移転しても売り上げが確保できるか、賃料が上がるのではないか不安で、展望が見いだせない」と、廃業した経緯を話した。仲卸従業員の雇用不安も広がっている。
◆移転拒否社が組合結成
市場での営業権は各事業者固有のものだ。「汚染されている豊洲で鮮魚を扱いたくない、築地で営業を続けたい」と、豊洲移転後も築地で営業を続けることを決めている仲卸業者約150社が、5月に営業権組合を結成し、東京都と小池都知事に損失補償交渉を開始した。東京都の都合で移転するのであれば、廃業せざるを得ない業者、職を失う労働者などに対して、東京都は責任をもって損失補償をしなければならない。しかし、東京都はいまだ話し合いを持とうとしない。廃業による失業や移転による売り上げ減少も「受忍の範囲」とでもいうのだろうか。
問題山積の豊洲新市場への移転強行は何のためだったのか。先の通常国会で卸売市場法が全面改訂された。生産者のための価格形成、消費者のための値付けと品質保証といった卸売市場の公的役割を骨抜きにするものだと批判されている。これが本格的に施行されれば、卸売市場は大手商社や大手量販店が支配し、流通センター化されていく。中小零細の仲卸・小売業者は淘汰され、食の流通も価格も大企業が独占することになる。
小池都知事は、昨年の都議選で築地市場の移転問題を最大の争点とし、「土壌汚染については無害化する」、「築地は守る」と、市場関係者、都民に公の場で約束した。しかし、その公約をいとも簡単に反古にし、根拠もなく「安全宣言」を出して豊洲への移転を強行した。公約は選挙のためのパフォーマンスでしかなかったということだろうか。
豊洲新市場開場で、築地市場の豊洲移転問題は解決済みとなったかに見える。しかし、生産者、消費者、事業者、私達にとって重大な問題が、未解決のまま残っていることがかえって明らかになった。豊洲新市場開場は、片づけなければならない重い宿題の締め切りをほんの少し先延ばししたにすぎないようだ。
(写真)狭くなった豊洲新市場の仲卸店舗
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