イタリア農産物の品質を小企業が結束して守る「コンソルツィオ」 ローマ在住ジャーナリスト・茜ヶ久保徹郎2022年4月12日
世界的に有名なブランドが多いイタリアには、製品の品質管理や偽ブランド排除に小企業が結束して取り組む「コンソルツィオ」という共同体がある。日本では聞き慣れない「コンソルツィオ」とはどんな組織で、どんな活動をしているのか。ローマ在住ジャーナリストの茜ヶ久保徹郎氏に寄稿してもらった。
団結は力 品質管理に世界中で監視怠らず
熟成中の「プロシュート・ディ・パルマ」のハム
イタリアは高級食品の輸出国ですが、作っているのはパスタメーカーなど一部を除くと、ほとんどが家族経営か従業員数十人から100人程度の小企業です。そうした小さなメーカーの製品の品質や名称を守っているのが「コンソルツィオ」。企業の集合体で、イタリアでは主にワインやチーズ、生ハムやオリーブオイル、特定の野菜などを作っている企業や農園が集まり、品質を守りブランドを管理する共同体です。組合員が一緒に同じブランドの製品を作る協同組合と違い、コンソルツィオの参加者はそれぞれ独自のブランドで製品を作っています。
コンソルツィオのモットーは「団結は力」、日本の「3本の矢」に似ています。力を合わせて品質の管理をすると同時に、消費者を守り、偽のブランドや商標を排除するために、世界中で監視を怠らず国外でも法的手段に訴え排除します。零細企業でも数百社が集まると資金力もあり、専門の弁護士を使えます。
日本でも有名なワインのキャンティ、チーズのパルミジャーノ・レッジャーノ、生ハムのプロシュート・ディ・パルマ、野菜のラディッキオなどの名称はコンソルツィオによって守られています。
農業製品を守るため定められた法律による非営利団体
コンソルツィオはDOP、IGP(注)の農業製品を守るため定められた法律による非営利団体です。参加者が生産する製品はDOP、IGPとしてEU(ヨーロッパ連合)に登録されていなければなりません。農業省から承認されたコンソルツィオは、指定地域の製品の保護、プロモーション、価値向上の権限を持ち、国内外で名称が真似られたり、使われた場合に法的手段をとります。特許商標庁のデータバンクをモニターし、名称に影響する申請をチェックします。EU以外の国に名称登録を行います。
製品が市場に出る前に、DOP、IGPの条件をクリア―しているか検査します。ICQRF(農産加工品品質保護・不正防止中央監査機構)と合意の上、検査プログラムを作成します。参加企業は独立し、それぞれのアイデンティティを持ち、生産過程をコンソルツィオの規定に合わせます。
イタリアの代表的なコンソルツィオ
・「パルミジャーノ・レッジャーノ」
中部イタリアのポー川に近い人口20万ほどのパルマの町は、その気候が生ハムやチーズ作りに適しており、1934年に製品の特殊性を守り、世界に知らしめることを目的として設立された。「パルミジャーノ・レエッジャーノチーズ」は決められた地域で作られた牛乳で製品化され、最低12カ月熟成されなければならない。
(参加企業)
A. 監督組織の証明書を持ち、決められた地域で牛乳を生産しDOPチーズの生産者に供給する農家。
B. 監督組織の証明書を持ち、決められた地域でDOPチーズを生産する企業。
会員数:牛乳生産農家 2373軒、チーズ生産企業 305社、関係従業員数5万人、販売総額:17億ユーロ(約2,200億円)、輸出:45%
(主な活動)
2021年、コンソルツィオの監視官がパルマとトリノの警察食品保護局と共同で17社の製品420万パック、75トンを押収した。これは「リソット・アッラ・パルミジャーナ(米料理)」の名前でパルミジャーノ・レエッジャーノを使用しているように見せ、消費者をだましていたものである。
2019年、ロンドンの有名デパート、セルフリッジズで、『grated Italian style Parmesans』の名前の商品が売られていたので話し合い、デパートはパルミジャーノを思わせる表現を一切使わないことを決めた。 こういった例は氷山の一角である。
2018年、大手市場調査会社「Mintel Group」の協力で世界62ヶ国で売られている商品のラベルをチェックし、20万の食品(2万がチーズ製品)のうち2000食品のラベルに、パルミジャーノかパーメザンの名前か、材料として使用していることが書かれていたことが分かった。
スライスした「プロシュート・ディ・パルマ」のハム
・「パルマの生ハム・コンソルツィオ」
1963年に設立。「Prosciuto di Parma」 の名称を国内外で守り振興することが目的。
DOPの条件を守るために、材料となる豚の種類、生育地、飼料の検査。生ハムの製造過程の検査を行う。
現在90ヶ国で商標登録され、国内外、特に販売が行われている国で裁判も含めて活動している。
コンソルツィオ の監査官は、国内においては生産者、流通業者、小売店にあるプロシュート・ディ・パルマを自由に検査することが出来る。
参加企業:140生産会社、スライス、パックする会社30社、北部の養豚農家3600、78畜殺場、生ハム生産従業員3000人、「Prosciuto di Parma」全体の関係労働者は5万人。
(入会の条件)
パルマ県内の決められたイタリアの豚肉を使用、DOPで決められたとおりに生産する。参加会社のほとんどは中小企業、昔通りのやり方で生産している。
年間生産量:800万本、7,5億ユーロ(約975億円)。総売り上げ額15億ユーロ(約1950億円)、輸出2,9億ユーロ(377億円)。
「トレヴィーソのラディッキオ」の野菜
「世界中にネットワーク広げブランド守る」
・「コンソルツィオ・ディ・ラディッキオ・ディ・トレヴィーソ」
1996年に設立。ヴェネツィアに近いトレヴィーソの野菜、赤ラディッキオがIGP登録されている。約150の生産者と包装業者が参加。参加業者は「トレヴィーソのラディッキオ」の名称を使用できる。会費は無料だが、検査とナンバー入りの検印支給の費用を1キロ当たり0,06~0,08ユーロ徴収する。
40の農園が生産するラディッキオを商品化する会社を経営するアンドレア・トサット・コンソルツィオ会長は取材に対して次のように語る。
「偽物については最近でもロンドンやアメリカ、オーストラリアなどでラディッキオ・ディ・トレヴィーソの名を使った商品が見つかっています。ラディッキオを作り、有名なIGPの名前を付けてしまうことが多いようです。そういった場合は名前を変えるように話しますが、受け入れられない場合は裁判に訴えます。IGPやDOPを理解してくれているイタリア人も多く、外国などおかしいと思う食品があると写真を撮って送ってくれる人もいます。私のコンソルツィオはイタリアのIGPなどのコンソルツィオの95%が参加する協会『oriGln Italia』に参加しており、『oriGln Italia」は、ジュネーブに本部を持ち、世界40か国、500のIGの団体が参加する非営利団体『Origin』に参加しています。このようにして世界中にネットワークを広げ、食品のブランドを守っています」
イタリア人は、農産物の味は土や水、風、湿度や温度、昼夜の温度差などそれぞれの土地特有の条件によって作られるもので、同じ種から作っても生産地が違えば味が違うので、原産地と伝統的な生産技術が何よりも必要であるとしており、IGP、DOP、ワインの格付けであるDOC、DOCGなどを大切にしています。
(注)
DOP=保護指定原産地表示。IGP= 保護指定地域表示、
ともにEUの規定をクリアし認定された地域の特産農産物及びその加工品。
IGP、DOPは味ではなく、あくまでも生産地の証明。
ローマ在住ジャーナリスト
茜ヶ久保徹郎氏
茜ヶ久保徹郎氏 ローマ在住ジャーナリスト。1977年よりイタリア外国人記者クラブに所属。2003年から2020年までローマ日本語補習授業校校長を務め、現在同校顧問。ローマのイタリア法人「日本語教育学校協会」会長や伊日財団学術委員、クロチェッティ財団(美術館運営)副会長を務める。
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