17億人が土地の劣化による収量減少を経験「世界食料農業白書」発表 FAO2025年11月13日
国際連合食糧農業機関(FAO)は11月3日、ローマ本部で最新の「世界食料農業白書(SOFA)」を発表。2025年の報告書は人間の活動による土地の劣化に注目し、約17億人が人為的な理由による土地の劣化が原因で、作物の収量が減少している地域に暮らしているという現状について数値を公表した。

同報告書は、土地の劣化は単なる環境問題ではなく、農業生産性、農村の生計と食料安全保障に影響を及ぼす、という明確なメッセージを発信した。また、人間の活動による土地の劣化が作物の収量に与える影響について、これまでで最も包括的な分析を行うとともに、世界の脆弱性ホットスポットを特定。こうした損失が貧困、飢餓、その他の栄養不良とどのように関連するかを検証している。
さらに、農地の分布・規模、作物生産に関する最新の地球規模のデータに基づき、実践可能な統合的かつ持続可能な土地利用・管理手法の機会や、状況に応じた政策を提示。これらの方策は、食料生産と農業従事者の生計を向上させながら、土地の劣化を回避・軽減・回復させることを目的とするもの。
FAOの屈冬玉事務局長は、報告書の序文で「これらの機会を確実に捉えるためには断固たる行動が必要。持続可能な土地管理には、長期投資、イノベーション、そして責任ある管理を支える環境づくりが不可欠」と記している。
土地の劣化の影響
FAOは土地の劣化を、「土地は基本的な生態系の機能やサービスを提供するが、その能力が長期的に低下すること」と定義。土地の劣化が単一の原因から生じることは稀で、通常は複数の要因が複合的に作用して引き起こされる。
これには土壌侵食や塩類化などの自然要因に加え、ますます顕著となっている人為的圧力が含まれる。主な要因は森林伐採、過放牧、持続可能でない作付けなどの活動や灌漑など。農業生産性への深刻な影響を考慮し、本報告書は特に人為的な土地の劣化に焦点を当てている。
同報告書では、土地の劣化を測定するため、3つの主要指標(土壌有機炭素、土壌侵食、土壌水分)の現在値と、人間の活動のない自然状態とを比較する、負債ベースのアプローチを採用。これらのデータを環境的・社会経済的変化要因を統合した機械学習モデルにより処理し、人為的干渉がない場合における土地の基準状態が推定される。
土地の劣化による人的被害の観点では、世界中で約17億人が、人為的な土地の劣化により作物収量が10%低下した地域に住んでいると推定された。このうち4700万人は発育阻害に苦しむ5歳未満の子ども。絶対数ではアジア諸国が最も深刻な影響を受けている。これは蓄積された土地劣化の負債と高い人口密度の両方に起因する。
一方、報告書は希望も示しており、既存の耕地における人為的な土地劣化を10%回復させるだけで、年間で1億5400万人分の食料生産を回復することができると試算。これには、例えば、土壌の健全性を維持し、侵食を軽減し、生物多様性に貢献する輪作や被覆作物の導入など持続可能な土地管理手法などが含まれる。
これらの数値は抽象的なものではなく、食料安全保障の強化、自然生態系への圧力の緩和、より強靭な農業・食料システムの構築に向けた現実的な機会を表している。
これを達成するため、同報告書は、森林伐採の規制といった法的措置、インセンティブに基づくプログラム、補助金を環境成果と結びつけるクロスコンプライアンス制度など、統合的な土地利用戦略と政策的介入を提唱している。
土地の劣化はあらゆる規模の農地に影響を及ぼすが、大半の土地を管理し大規模な実施能力を持つ大規模農家と異なり、小規模農家は財政的制約に直面していることから、政策は農地の構造に合わせて調整する必要がある。
FAOの役割
国際社会は土地の劣化を重大な地球規模課題と認識し、130か国以上が「国連砂漠化対処条約」(UNCCD)のもとで土地の劣化の中立性の達成を誓約している。
データ、政策への助言、現地の活動を通じ、土地の劣化の回避・軽減・回復に向けた取り組みの最前線に立つFAOは、SDG指標2(飢餓ゼロ)の担当機関として、同報告書でも使われている「世界農業生態ゾーニング( Global Agro-Ecological Zoning, GAEZ v5)」システムを用いて、農業生態学的な収量格差の世界的分布を監視・更新している。また、「世界土壌有機炭素マップ」(Global Soil Organic Carbon Map, GSOC Map)を通じて、土壌の健全性に関する重要なデータを提供している。
FAOの屈事務局長は、「2025年、FAOは持続可能な土地管理への決意を新たにする。本年版『世界食料農業白書』は、この決意の一環として、あらゆるレベルでの政策・投資・行動につながる包括的な科学的根拠を提供する」と記している。
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