近代農業思想史
- 著者
- 祖田修
- 発行所
- 岩波書店
- 発行日
- 2013年4月26日
- 定価
- 2600円+税
- 電話
- 03-5210-4000
- 評者
- 福間莞爾 / 総合JA研究会主宰
農業問題は奥が深いが、現実に行われている農業論は「農業は遅れた産業である、もっと競争原理を入れて規模拡大せよ」など、うわべの議論が横行している。このような状況のもと、本格的農業思想史が刊行されたのは意義深い。
21世紀の農業像を展望
本書は、ケネーからレスター・ブラウンに至る農業論(思想)を辿り、今後の農業・農学を展望した。膨大な農業・農学思想を振り返ったうえで、著者は人間にとって工業製品を相対的必需品、農産物を絶対的必需品と呼び、今後の農業・農学について「生産の農学(経済価値)」、「生命の農学(生態環境価値)」、「生活の農学(生活価値)」を統合した「場の農学(総合的価値)」を提唱する。農業と工業、人間と自然、都市と農村の結合としての地域複合社会の建設である。
産業革命は分業を可能にした工業革命であり、人類にとっての利便性の追求であったが、これによって誕生した資本主義経済は、命の糧を提供する農業問題を解決していない。農業問題は現代資本主義経済における最も大きな問題の一つで、国民的課題であり、農水省やJAだけで解決できるものではない。まして、農業が振興しないのは信用・共済事業にうつつを抜かしているJAのせいだなどと言うのは虚論である。
農業問題の論者で農業に従事している人は少ない。農業は予想以上に難しく、割の合わない職業だ。本書で見るように「農学」は優れて「実学」である。農業のあるべき論や政策論だけではなく、自ら職業としてやってみたい魅力的な農業とは何か。本書をもとに、視点を変えた検討を加えてみたい。
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