【コラム・食は医力】第80回 病のことわざに学ぶ2016年2月18日
年の初めということで、今日は健康と病にかかわることわざをいくつかご紹介していくことにしましょう。
「一病息災」はご存じでしょうね。一つ病気をすることで健康に注意するようになってむしろ長生きする。昔の人はうまいことを言ったものです。
◆一病息災
「おかげさまで無病息災でして」などと言うのが本来かもしれません。息災とは何事もなく達者なこと。達者なのだから「無病」ですよね。それを一病と息災を結び付けたところが冴えています。どうせなら「多病息災」と言ったらいいかもしれません。
健康診断もせず好きなものを好きなだけ食べて元気一杯だったはずが、ある日、脳溢血でばったりなどというのは困ります。「腹八分に医者知らず」「小食(こじき)は長生きのしるし」というではありませんか。
似たようなことわざに「病上手に死に下手(べた)」というのもあります。解釈はいくつかありますが、「よく病気になる人は健康に気をつけるのでかえって長生きすることが多い」というふうに考えればいいでしょう。
つまり「一病息災」と似たようなものです。あるいは「一病長寿」と言い換えることができるかもしれません。
◆病は気から
たしかに健康に気をつけることは大事で、過信も無関心も危ない。私の同級生でも、葬式で「あんなに元気そうだったのに」と悼まれるのがいるかと思うと、同窓会の近況報告で「病気のデパートで」と言いつつ病名を10も15も列挙してみせる猛者が10年以上も同窓会皆勤だったりします。
これらのことわざで大事な点は、健康に注意することが適度の緊張感を生んでいることです。精神的な要因は脳と体の両方にとって大事です。
ただし順天堂大学の奥村康名誉教授は以前、私がお願いした講演会で「ぐうたら老人のほうが健康で長生きする。ストレスや真面目すぎる性格が病気や早い死を招く」と言っておられました。何事も程度問題なのでしょうね。ぐうたらもストレスもほどほどが大事ということで。
関連して「病は気から」ということわざを知らない人はないでしょう。過度のストレスが病気を招き、気に病むことが病状を悪化させるのは古今東西に通じた話です。
逆に笑いが健康を招くことは医学界でも定説となりつつあり、食事のときも明るい話題で楽しくいただくようにしたいものです。わが家は100回に99回は笑いとともに食事しています(あと1回は冷戦時)。
◆災いは口から出る
気が大事というのは、自分の脳と体に暗示をかける働きがあるからでもあります。偽薬でも良薬だと思うと効く(プラシーボ効果という)のと同じように、「この果物や野菜は体にいい」と思って食べれば効くのです。
融通の利かぬお医者さんは食物の効能なんて知れたものだと言いますが、人間の体はコンピュータやメカと違って微妙な仕組みで、理屈どおりに病気になったり治ったりばかりではない、つまり「気」が大事だということを強調しておきたいと思います。
ここで「摂生(せっせい)の七養」を紹介しておきましょう。これは江戸時代の学者である貝原益軒が『養生訓』の中で守らなければいけない七訓としてあげているものです。
それを今風に要約すると、(1)言葉を少なくする、(2)色欲をいましめる、(3)美食を減らす、(4)唾液を飲み込んで臓器を養う、(5)怒りを抑える、(6)飲食を制限する、(7)心配事を少なくする、ということになります。
言葉を少なくするのが健康法というのが面白いですね。ほかにも私の好きなことわざで「ものは言い残せ、菜は食べ残せ」だとか「病は口から入り、災いは口から出る」というのがあります。私自身、常に自戒しているつもりですが、「災い」は時折起きてしまいます。特に家庭内で。
※「食は医力」は食品流通のシリーズから、コラムへ変更となりました。これまでの掲載については【シリーズ:食は医力】より御覧いただけます。
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