TPPの悪質な欺瞞2016年3月22日
TPPには、2つの大きな欺瞞がある。
1つめの欺瞞は、TPPは自由貿易体制で、それは正義だ、というものである。自由貿易は、地球の資源を最も有効に使って、各国の利益を最大にする、だからいいことだ、という欺瞞である。
もう1つの欺瞞は、TPPの目的にある。TPPは全ての関税を撤廃することが目的だという、しかし、TPPを主導するアメリカが、率先してこの目的に反し、自動車の関税撤廃に臆面もなく抵抗した。この抵抗は、いまでも続いていて、大統領選挙で野党候補は再交渉を主張している。つまり、関税撤廃というTPPの目的は欺瞞である。
この2つの欺瞞は、大多数の国民を犠牲にして、一部の大企業の私利私欲を追求させる、という反国民的な点で共通している。TPPは、それを、ひた隠しにしている。
ここでは、主に農産物について考えよう。
世界の各地の人たちにとって、自分が作った自慢の農産物などを、他の地の人たちに、お裾分けして喜んでもらうことは、大きな楽しみだろう。そういうことを、自由にしたいと思うだろう。
そうした自由を政府は保証すべきだ、というのが自由貿易の考えである。
◇
これは、理想かもしれない。しかし、自由貿易には大きな問題がある。自由貿易は自由市場を介した取引である。そこに問題がある。
どんな自由市場でもそうだが、そこで形成される市場価格は、生産費を公正に反映しない、という問題がある。労働の安売り競争になる、という問題である。また、歴史や風土を無視し、さらに目先の利益だけを追求するという欠陥もある。それに加えて、市場経済には、生産の無政府性に起因する深刻な不況、失業の増大という重大問題もある。
これらは農産物貿易にも大きな影響をおよぼす。しかし、ここでは、市場経済の、こうした問題は、注意を促すだけにしておこう。
◇
さて、世界には国境があって、農産物などが国境を越えて、自由に移動できる体制になっていない。輸出や輸入を制限したり、禁止したり、関税をかけたりしている。つまり、自由貿易体制になっていない。
現実には国境があって、国境をはさんだ国家どうしの関係は、それほど牧歌的ではない。ときには両国の間で、利害が鋭く対立して、外交関係が緊迫する。そうして、輸出を禁止することがある。とくに食糧は、核兵器、石油に次ぐ第3の武器といわれていて、外交の重要な手段である。
また、輸入を禁止することもある。現在、ロシアは欧米からの食糧輸入を禁止している。食糧を外交交渉の手段にしているのである。だからといって、激しく非難する国は、それほど多くはない。それはロシアの国家主権の行使だからである。他国は、この主権を侵犯できない。
◇
経済は国際化したというが、それは、この程度である。国境の壁は高い。それぞれの国は、輸出入管理政策を外交手段にしていて、自由貿易体制とはほど遠い。
自由貿易はいいものだ、というのなら、その前に、国家権力による輸出入の禁止という自由貿易に反する外交手段に対して、国際的に制裁する体制を作らねばならない。国際裁判所が、そうした行為を実力で阻止できるか、という問題である。それは国家が存在するかぎり、とうてい不可能だろう。
だからTPPのように、一部の国家で自由貿易ブロックを作る、という程度でしかない。そうして、ブロック以外の国家と敵対する。これは正義ではない。
◇
以上のように、自由貿易体制は、国家があるかぎり作れない。TPPのように、全ての非関税障壁を撤廃し、全ての関税も撤廃する、などという自由貿易体制は作れない。現実は、一部の物品だけの貿易にとどまっている。
国家が厳然として存在し、高い国境がある、という現実のなかで、TPPのような極端な自由貿易の主張は欺瞞である。自由貿易による地球資源の有効な利用、したがって、国富の最大化という建て前の裏に、自国の国益の追求という目的を隠している。国益といっても、国民の大多数の利益ではなく、それを犠牲にした少数の大企業の私利私欲の追求である。それは、世界各国の最大の関心事である格差の、よりいっそうの拡大をもたらすだろう。
◇
それでは、地球上から国家をなくし、国境をなくして、自由貿易の理想を追求すればいい、と考える人がいる。世界連邦を作り、さらに、世界単一国家を作ろう、という主張である。
しかし、地球上に国家ができて以来、世界連邦ができたことはない。戦前の国際連盟も、いまの国際連合も、各国の利害の調整機関にすぎない。
太田原高昭教授は、宇宙人が地球へ攻め込んでくる、というような世界各国の共通の敵が出てくるまで、世界連邦はできないだろう、といっている。筆者も同感である。
◇
世界連邦ができて国家が消滅することは、理想かもしれない。しかし、現実の世界には国家があって、各国の利害が渦巻いている。そうした中で、TPPのように、国境を取り払った自由貿易体制などというのは、荒唐無稽な幻想でしかない。幻想の基礎の上に立つ自由貿易論は、一部の大企業の私利私欲の、あくなき追及を隠すための欺瞞である。
こんどの参院選は、TPPという自由貿易の、悪質な欺瞞を振りまく政治家や、欺瞞とも知らずに踊らされている政治家を追放する絶好の機会である
(2016.03.22)
(前回 反TPPのうしろめたさを捨てよう)
(前々回 TPPのトラウマ)
(「正義派の農政論」に対するご意見・ご感想をお寄せください。コチラのお問い合わせフォームより、お願いいたします。)
重要な記事
最新の記事
-
「出張!値段のないスーパーマーケット」大阪・梅田に開店 農水省2025年10月29日 -
石川佳純の卓球教室「47都道府県サンクスツアー」青森県で開催 JA全農2025年10月29日 -
岩手県新ブランド米「白銀のひかり」デビュー ロゴマークを初披露 JA全農いわて2025年10月29日 -
茶畑ソーラー営農型太陽光発電でバーチャルPPA契約 JA三井エナジーソリューションズ2025年10月29日 -
基腐病に強い赤紫肉色のサツマイモ新品種「さくらほのか」を育成 農研機構2025年10月29日 -
サツマイモ基腐病に強い 沖縄向け青果用紅いも新品種「Hai-Saiすいーと」育成 農研機構2025年10月29日 -
アイガモロボ(IGAM2)環境省の二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金の対象機械に認定 井関農機2025年10月29日 -
鳥インフル 米ジョージア州などからの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2025年10月29日 -
鳥インフル 英国からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2025年10月29日 -
SNSで話題 ライスペーパーレシピ本『ケンミンぼうやに教わる ライスペーパーレシピ』発売2025年10月29日 -
2025年度JCSI調査 生命保険部門で「顧客満足度」9度目の1位 CO・OP共済2025年10月29日 -
東京農業大学「第二回スマート農業・ロボティクス研究シンポジウム」開催2025年10月29日 -
地産全消「野菜生活100 本日の逸品 茨城県産紅ほっぺミックス」新発売 カゴメ2025年10月29日 -
自律走行AIロボット「Adam」北海道で展開 住商アグリビジネスがPRパートナーに 輝翠2025年10月29日 -
ファームエイジと連携 放牧農家における脱炭素を促進 Green Carbon2025年10月29日 -
ハレの日の食卓を彩る「旬を味わうサラダ 紅芯大根やケール」期間限定発売 サラダクラブ2025年10月29日 -
パルシステム「ポークウインナー」に徳用パック登場 プラ約1.5トン削減も2025年10月29日 -
アビスパ福岡の選手も登場「グランマルシェ in 照葉」開催 グリーンコープ2025年10月29日 -
「オフィスで野菜」岐阜県信連と業務提携 地域食材活用で地産地消・地方創生を推進2025年10月29日 -
リユースびんの仕組み「シンプルスタイル大賞」でSDGs部門銀賞 生活クラブ2025年10月29日


































