反TPPのうしろめたさを捨てよう2016年3月14日
アメリカはいま、大統領選で沸き立っている。トランプ候補は、過激な発言をして注目を集め、圧勝する勢いだ。サンダース候補は、民主社会主義者を名乗って、健闘している。
これは、アメリカの全土で、多くの人たちが考え抜いて投票した結果である。この事実は重い。この事実の深奥に、何を見るか。一時的な熱狂と見るのは、あまりにも軽い。
いま、アメリカの政治風土は、地殻変動を起こしているようだ。旧来の政治家は、それを洞察できず、両候補の言動の激しさだけに、目くじらを立てている。
多くのアメリカ人は、旧来の政治がもたらした、格差社会の冷酷さに怒っている。
両候補は、この格差問題を大きく取り上げ、その根源は、国境なき経済、などという市場原理主義にあるとして、その罪悪を白日の下に曝し、鉄槌を下そうと主張している。多くのアメリカ人が支持しているのは、この主張だろう。
ことに、若い世代の支持が多い。冷戦の終結以後に生まれた27歳以下の若い人たちには、格差を否定し、平等に至高の価値をおく社会主義に対するアレルギーがない。
TPPは、そうした政治風土の中で、市場原理主義の極致として位置づけられている。
◇
トランプ氏の人種問題などについての発言には非難すべき点が多い。しかし、TPP問題では的を得た発言をくり返している。
つまり、TPPでアメリカの雇用が、ベトナムなどの低賃金労働者に奪われ、アメリカの労働者が失業し、また、失業の圧力で賃金が下がり、格差が広がる、としてTPPに反対している。
全くその通りである。自由貿易は、輸出国では搾取を強化する。また、輸入国では賃金を下げて、輸出国並みの低賃金に近づけ、中間層を没落させ、格差を拡大する。このことに、議論の余地はない。自由貿易の邪悪な目的は、まさに、ここにある。
国民は、そのことを皮膚感覚で知っている。だから、同氏を支持している。同氏は、それをあからさまに言っているだけである。
◇
同氏は、中国や日本からの輸入品に高い関税をかけよ、とも主張している。アメリカの雇用が奪われるからである。
これは、TPPに正面から反対する主張である。TPPの虚構ではなく、自国の雇用を守る、という主張である。
この主張は、日本の輸出業界の大企業にとって、不快かもしれない。しかし、アメリカの大統領候補としては、当然の主張である。
メキシコとの国境に壁を作れ、という過激な主張も、自国の雇用を守れという主張である。
ベトナムや中国、日本やメキシコについての彼の主張にみられることは、アメリカが格差社会になった根源は、市場原理主義のもとで、経済活動の成果が、賃金に少なく分配されるからだ、という認識がある。全くその通りである。
◇
こうしたアメリカの状況と比べて、日本はどうか。
自由貿易は、永遠の真理であり、逆らえない歴史の流れである、TPPは決まったことだ、という似非評論家がいる。そうした人が、安倍1強政治のなかで、安倍首相に重用され、虎の威を借りて権力を振り回している。そうして、TPPを推進している。トランプ氏は、あざ笑っているだろう。
だからTPPでアメリカに対し、うしろめたいように平身低頭して、「どうか米だけは、輸入の自由化は、ご勘弁を」という卑屈な交渉をした。トランプ氏は軽蔑しているに違いない。
トランプ氏だけではない。彼を支持している多くのアメリカ人も、同じように日本を軽蔑しているだろう。
日本は、TPPで国辱的な外交をしているのである。
◇
今からでも、決しておそくない。TPPに象徴される市場原理主義に対し、堂々と胸を張って、真正面から、原理的に反対しよう。
TPPは、まだ決まっていない。日本の国会は批准していない。アメリカは漂流させるかも知れない。
日本でも、TPPによる格差の一層の拡大に反対し、格差は解消すべきだとする、まともな政治家の出現を期待しよう。そうした政治家は野党のなかにもいるし、与党のなかにもいるだろう。
そうして、みどり豊かな農村、格差のない日本に改造しよう。その機会が、この夏の参院選である。
◇
最後にひと言。
アメリカの大統領選では、全ての候補者がTPP反対といっている。多くの国民がTPP反対だからである。
これは、日本の農協を先頭にした反TPP運動に触発されたもの、といっていいだろう。
日本の農協は、世界の、少なくともアメリカの多くの人たちから、市場原理主義に反対し、格差に反対する砦だ、として尊敬されている。世界に誇るべきことである。
(2016.03.14)
(前回 TPPのトラウマ)
(前々回 民主・維新の新党で反TPP大連合を)
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