(444)農業機械の「スマホ化」が引き起こす懸念【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年7月18日
トラクターなどの農業機械の調子が悪い、あるいは壊れた時、皆さんはどうしますか?デジタル化が進展すると、思いもよらぬ事態が生じます。
世の中では、デジタル化に代表される技術の進歩が著しい。農業機械(農機)でも、自動運転・遠隔操作・クラウド連携などのスマート農業が進み、作業の効率化が図られている。これは悪いことではなく、人手不足が深刻な日本では重要な取組みである。
ところが、米国では思わぬ事態が生じているようだ。今年1月15日、米国のFTC(連邦取引委員会)がイリノイ州とミネソタ州の司法長官とともに、農機のトップ・メーカーであるジョン・ディアー(Deere & Company)を相手に訴訟を提起している。
争点は、現在の日本ではほぼ問題になっていない「修理する権利(right to repair)」である。良く知られているように、米国の農家はトラクターやコンバインなどを自分で修理する。近隣の独立系修理業者に依頼することもあるが、基本的には自ら修理する。メーカーの不公正な慣行により農家の修理費用が上昇し、トラクターなどの重要な農機を適切なタイミングで修理する機会と能力が農家から奪われているという内容だ。
より詳しく言えば、高度にデジタル化された農機のソフトウェア(Service ADVISORという)に完全にアクセスできるのは公認ディーラーだけであり、その結果、公正な競争を阻害し、農家の修理コストを高めている、というわけだ。これは現代社会が直面している問題の縮図でもある。
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この問題は農機に限った話ではない。少し異なる例を見てみよう。現在、iPhoneなどの携帯電話では、個人ユーザーが修理・改造・設定変更などを行えないのが一般的だ。言い換えれば、ハードである携帯を所有しても、ソフトとデータは企業が握っている。一部の医療機器や自動車などでも同じかもしれない。便利になったようでいて、実は「制御され」「ブラックボックス化」されている。「使わせるが中身は触らせない」仕組とも言えよう。デジタル化の進展により、農機までが同じ道を歩み始めたようだ。
例えば、ソフトウェアへのアクセスがロックされている場合、専用ツールが無ければ農家は自分の手足であった農機の修理はおろか、改良もできない。やや大げさに言えば、農業や農家がソフトを所有するメーカーに「使われる」状態になる。米国の農家はこれをおかしいと感じ、当局もそう判断したから訴訟になった訳だ。
注目されているスマート農業で大規模化が進展したケースを考えてみよう。中核は大規模経営であり、その運営には高度な技術とサービスが不可欠だ。当然、最先端の農機が使用される。農家にとっては、経営の自由を求めた結果、自らが望む改造や改善が自由に出来ないというパラドックスが生じる可能性が出てきたことにもなる。
こうした状況に直面した米国では、農家が「修理する権利」を制度的に保障する動きが出始めている。それが先に紹介した訴訟の背景にある。
一方、日本の現状はやや異なる。故障時にはJAや地域の農機取扱業者などによる支援体制が完備されており、農家自身も修理はプロに任せるという形である種の共存関係が成立している。日本の農機が今後、「スマホ化」するのか、それともメーカーや修理業者との共存関係をうまく維持していくのか、これは機械の話であると同時に、実は「農の自由」に関わる重要な問題でもある。
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筆者のように農業に関心をもちつつも外部から見ている立場からすると、日本の農家は利便性の代償として、「農の自由」を手放すのかどうか、そして結局のところ、農業の未来を誰が「制御する」のか――その問いが、今、目の前に突き付けられているのではないかという気がします。
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