【浅野純次・読書の楽しみ】第111回2025年7月18日
◎烏谷昌幸『となりの陰謀論』(講談社現代新書、990円)
著者によると陰謀論とは「出来事の原因を誰かの陰謀であると不確かな根拠をもとに決めつける考え方」で、米国社会を中心に世界を席巻しています。歴史的にも「ケネディ暗殺はオズワルドの単独犯行ではない」「9・11同時多発テロはアルカイダでなく米政府の工作員による自作自演だ」などがあります。
2021年1月6日にワシントンで起きた連邦議会議事堂襲撃事件は、選挙に負けたトランプが「選挙は盗まれた」と支持者をあおり立てて発生しましたが、背景には陰謀論(トランプは「闇の政府」と戦っている)があり、支持者は簡単に興奮し暴徒化しました。
陰謀論が広がる背景には国民の不安や不満があります。著者は人々の「世界をシンプルに理解したいという欲望」と「何か大事なものを奪われるという感覚」が陰謀論を誘発するとして、多面的に切り込んでいきます。
Qアノン、フリーメイソン、ナチスの反ユダヤ主義など陰謀論をめぐる事実の多彩さには圧倒されますが、トランプ政治はこれに大きく依拠しており、世界的なポピュリズム政治の台頭を考えると貴重な論点です。確かに陰謀論は身近にいて機をうかがっていますし、日本にとっても大事なことばかり。面白くて勉強になる本です。
◎佐藤智恵『なぜハーバードは虎屋に学ぶのか』(中公新書ラクレ、1100円)
ハーバード大学経営大学院ではマクロ・ミクロ経済学やケーススタディを学ぶほか、教員、学生それぞれに実地に各国を訪れて企業訪問などを行うツアーがあります。そこで一番の人気は日本ツアーなのだそうです。
「沈む国」と言われて久しい日本になぜ? と思いますが、その疑問に本書は明快に答えてくれるので、へえ~とかなるほどとか思うことしきりでした。
日本へ初めて来た教員や学生は、至る所にある自動販売機、高機能トイレ、多くの飲食店にある券売機に圧倒されるのだとか。「効率性とサステナビリティを重視したイノベーションの国」などと言われると少々こそばゆくなりますけれども。
ともあれ企業における歴史の重み(虎屋もこれ)、日本ブランド(自虐的日本人には思いつかないブランド力)、起業家精神(岩崎弥太郎、渋沢栄一から現代まで)、人的資本経営(世界語となった「イキガイ」)など改めて知る日本の魅力が続きます。自営業や企業以外の場にも参考になる話がたっぷりです。
◎田中修 『植物たちに心はあるのか』(SB新書、1045円)
植物には(たぶん)喜怒哀楽はなく、であれば心もないと考えるべきなのでしょうか。
著者は植物生理学が専門ですが、植物が自らの命を守るためにたくましく生きていることを読者に知ってほしいと言っています。その中から植物に心があるとしか思えないような現象がさまざまにあることを分析し紹介してくれています。
植物には基本的に光と水と二酸化炭素が欠かせません。それが不足したらどうするか。植物生理学的には常識でも普通の人には驚くほど知性的な対応が見られるのですが、それは読んでのお楽しみ。
さらに命を守る(花や種の驚異)、暑さや寒さに勝つ、紫外線から身を守る、へたに食べられないための工夫などにも驚かされます。
そして人間からの刺激。声をかけて育てるとどうなるか(「モーツァルトを聴かせる」は出て来ません)は面白い。では「触って育てる」のは? というわけで植物を見る目が変わってくること必定です。
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