JA改革 農水省頼り脱皮を2016年6月16日
今回のJA改革における中央会制度の廃止は、徳川幕藩体制の崩壊に例えることができる。明治維新と違うのは、今回のJA改革が政府主導で行われており、JAがその動きについて行けていないことにある。戦後70年のJA運動の発展は、旧農協法で定められた中央会制度(幕藩体制)にあった。
中央会制度は官民一体となった戦後の農協の指導体制であり、政・官・団体のトライアングルの要でもあった。改正農協法が4月から施行されているが、行政の動きは速く、それに比べてJAグループの動きはいかにも鈍い。政府は「規制改革会議」の名を借りて生産資材の引き下げ、指定生乳生産者団体制度の見直しなど矢継ぎ早に対策を進めている。
JA改革についていえば、現在のJA全中の奥野体制の最大の悲劇は、体制は変わったものの、依然として政府によって全面否定された旧来の「自己改革」路線のもとにあることだ。幕藩体制は崩壊したが、新政府の仕事は旧幕閣のもとにあるともいえる。
従って、このまま行けば、JAは旧来の轍(てつ)を踏み、なすすべもなく、平成31年10月からの公認会士監査への移行に伴って信用事業の事業譲渡が進められ、また何らかの形で准組合員の事業利用規制が行われる公算が大きい。
今次JA改革最大の争点は、農業振興にとって現在の総合JAの仕組みが適切かどうかであり、筆者はこれまでそのことを訴え続けてきた。だが、昨秋の第27回JA全国大会で決議された「創造的自己改革への挑戦」は従来路線を踏襲しており、農と地域=総合JAを前提としたものだ。
これに対して農水省の考えは明確だ。同省は今後の農業振興にとって総合JAの仕組みは適切とは考えておらず、JAからの信用事業の譲渡、准組合員の事業利用規制を進めている。
つまり、JAが大会決議した「自己改革」など端(はな)から認めていないのだ。
それでもなぜJAは、農水省が全面否定する自己改革を唱えるのか。それは、JAおよびJAグループが法制度によってがっちり守られてきたからだ。このため、この期に及んでも、JAは何も悪いことはしていない、今後とも政府の言う通りにして行けば問題はないという組合長も存在する。究極のJAの政府下請け論だ。
だが、こうした認識は、政府は常にJAの味方であり、JAを悪い方向には導かないということが前提になっている。必要なのはそうした意識からの転換であり、今はじめてJA運動の自主性が問われている。前述のように、JA改革に対するJAと農水省の考えは全く違う。従って、このままいけば、JA発展の土台になっている総合事業の仕組みの崩壊=JA解体が進むことになる。
それはもはや既定路線になっているとさえ言っていい。これに対抗するJAの対抗路線は何か。遅まきながら、それはただ一点、JAの存在は農業振興にあるということで政府と同じ土俵に立ち、そのうえで准組合員を味方に引き入れ、農業振興のためには総合JAの仕組みが欠かせないという論陣を張り、組合員はもとより、議員・行政の首長などを通じ世論を動かすことだ。
JAは農業振興と地域振興の二つのために存在するという地域組合論で戦うことはもはや不可能だ。学者・研究者が指摘するのは、制度に守られてきたJA運動を今後は自主的なものにする必要があるというものだが、問題はその中身であり、それは将来展望に立った「新総合JAビジョンの確立」であろう。
幕府が崩壊したときに力を発揮したのは、西南の雄藩であった。今のところJAにおける雄藩(JA)の動きは緩慢に見えるが、それでも、「これでいいのかJA―座して死を待つわけには行かない(JA東京中央会須藤会長)」などにみられるように、その胎動はあるようにも思える。残された時間は少ないが、JAグループの真価・底力の発揮はこれからと期待したい。
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