【小松泰信・地方の眼力】規制改革推進会議の暴走提言を許すな2016年11月16日
11月7日に開かれた第4回規制改革推進会議に出席した安倍首相は、「農業を成長産業とするには、農業者が自由に経営できる環境と、生産資材、流通加工を担う業界全体の効率化や再編が重要」とし、全農に対する〝生まれ変わる〟気持ちでの大改革を強調した。同会議には提言の早急な取りまとめを、農協組織には提言の真摯な実行を求めている。
◆当然ながら、安倍首相の強力な後押し
最後は、「皆様から頂いた提案を、私が、責任をもって、実行してまいります」と、締めくくった。JAcomにおいてすでに全文が紹介されている、同会議農業ワーキング・グループによる「農協改革に関する意見(案)」は、このような強力な後押しを受けてのものである。
◆これが農産物を1円でも高く販売し、生産資材を1円でも安く供給するための提言ですか!?
生産資材購買事業に求められているのは、購買手数料を取る事業方式から撤退し、情報提供・コンサルタント業務に徹すること。そのためには、「購買の達人と呼ばれるような外部のプロフェッショナルを登用し」、「農業者が、...最も優れたメーカー・輸入業者等から調達できるよう支援する」こと。実践に向けては、「1年以内に新しい組織へと転換し、...購買事業を担ってきた人材は、...農産物販売事業の強化のために充てる」と、している。
農産物販売事業に求められているのは、委託販売を見直し、全農が全量買い取って在庫として抱え、高い価格で販売すること。そのためには、流通業者の買収や、信用事業を農林中金に譲渡し、農産物販売に集中することを提案している。
着実な進展が見られない場合には、「第二全農」等の設立推進を国に求めるとともに、役職員の報酬・給与水準を「農業所得の動向に連動させるべきである」とまで踏み込んでいる。
◆日本経済新聞ですら隠せぬ戸惑い
提言に対する日本経済新聞の見解(11月12日「農業に役立つ農協へ」編集委員吉田忠則)の要点は次の通りである。
「問題は意見のどの部分をどうやって実現するかにある。...委託販売の廃止や購買部門の縮小を法律で定めて実現するのは難しい。...JA全農が自らの判断でやっている民間の事業だからだ。...民間組織の農協に事業の見直しを迫るには限界もある。...結局は農協が農業に真に役立つ組織になるよう組合員が突き上げる環境を築くしかない」
ワーキング・グループに援護射撃をするはずの日経新聞でさえ、多くの問題点を指摘している。とくに最後の〝組合員の突き上げ〟への言及は興味深い。要は、提言内容を求めるような突き上げはないことを示唆している。
もちろん、全農に対する不平や不満を全国からかき集めたようだから、無いとは言わない。しかし、そのほとんどは自分たちの組織であるが故の愚痴に近いもので、ここまで大仰にするものではない。
にもかかわらず、ここまでの提言がなされることには、当然まっとうではない理由があるはず。
◆農業協同組合の解体を目指すシナリオ
結論を先取りすれば、提言は、農業協同組合の解体を目指した悪意に満ちたシナリオに基づくものである。
*株式会社化を拒否するのであれば、協同組合の事業方式をことごとく否定し、役職員の給与水準にまで口を出し、モチベーションを低下させる。組合員と役職員の関係を分断し、さらには敵対させ、〝組合員のために〟という使命感まで奪い去り、生まれ変わった結果が協同組合とは似ても似つかぬ事業体。そこまで来たら、組織的無気力症候群が蔓延し、思考停止状態で正常な判断能力は消え去る。その頃を見計らって、ショボイ餌でもちらつかせながら、「もう株式会社になった方がいいのではないですか」とささやく。その後、ハゲタカたちが海を渡ってやってくる...
ワーキング・グループの金丸恭文らは、こんな悪知恵を考えつくほど組織に精通してはいない。精通しているシナリオライターはただ一人、安倍の寵愛を受けている〝お上さ~ん、ジカンですよ~〟
もちろんこのシナリオを実現するためには金丸らには荷が重すぎる。本丸は、今月中にまとめられる予定の小泉進次郞率いる自民党プロジェクトチームからの提言である。何せ発信力だけの進次郎。未来の首相候補の名にかけた提言となるはず。それを引き立たせるためには、金丸らの暴走提言は露払い的前座としては最高の出来映え。なぜなら、その後に出される小泉提言が極めてスマートに感じられ、JAグループの面々にも、この程度なら実践できる良い落とし所かもしれない、と錯覚させること必至だからだ。対話好きで文藝春秋の紙面を彼とともに飾った改革派の奥野全中会長なら、ころっと転がされるはず。
◆対話路線の限界が露呈
金丸提言に対してJAグループが出したコメントのポイントは、「自主・自立の協同組合として、民間団体として、自己改革することが原則である。...具体策については、問題意識を持って真摯に検討するが、経営への過剰な介入や農業所得増大の視点から現実的ではない事業・組織の見直しを強制されないことなど、自主性の確保を大前提に、創造的自己改革を進める観点から検討する」である。
当然のことを言っているだけの話だが、それ以上に「何を今ごろ、こんな弱腰の普通のコメントをしているのか」という怒りを禁じ得ない。
捨て石的金丸提言に対しては、全否定の姿勢で臨めばよい。少しだけ、こぎれいな姿で出されるはずの小泉提言も同類項。結局、聞く耳を持たず、シロウトもしない素人集団の暴走提言に、JAグループも貸す耳は持たないはず。聞くそぶりを見せただけで付け込まれるのがおち。一度許せば二度三度。〝これまでの対話〟の中で、農業協同組合のイロハのイも理解させることができなかった対話路線の限界も明らかとなった。
戦う姿勢が求められているJAグループの構成員にふさわしい言葉を「宙船(そらふね)」(作詞中島みゆき)から贈る。
〝その船を漕いでゆけ お前の手で漕いでゆけ お前が消えて喜ぶものに お前のオールをまかせるな〟の心意気よ。
「地方の眼力」なめんなよ。
(写真)出典:首相官邸ホームページ
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