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一強安倍政権が直面する三つの難題2017年5月23日

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【森田実 / 政治評論家・山東大学名誉教授】

『脱皮できない蛇は滅びる(ニーチェ)』

 最近北朝鮮をめぐる情勢に微妙な変化が起きています。
 一つは、トランプ政権が北朝鮮の挑発的軍事行動を抑制する役割を中国政府に強く求めていることです。中国政府は、従来どおり米国政府と北朝鮮政府の直接対話を求めていますが、米国政府の強い要請を無視することはできなくなり、北朝鮮に対する制裁を徐々に強めています。
 これによって、中国政府は北朝鮮問題を解決する上での主役の役割を担うことになりつつあります。
 安倍政権は今まではもっぱら日米同盟の強化によって北朝鮮に対応しようとしてきました。具体的にいえば安倍政権はトランプ大統領に徹底的に接近することによって、トランプ政権の力で解決しようとしてきました。
 しかし、北朝鮮問題解決の主役が中国政府になると、今のトランプ政権頼みのままでは対応できなくなります。安倍首相は中国政府との協力関係を築かなければならなくなっているのです。
 安倍政権と中国の習近平政権とは、今まではよい関係ではありません。安倍首相の外交戦略は日米同盟を固めた上で中国を孤立化させる方向をとっていました。このため中国の国民と政府は安倍首相を危険な政権だとみてきました。
 北朝鮮政府の暴走を止めるためには日本と中国との友好協力関係が必要ですが、今のままでは日本政府と中国政府の関係修復は困難です。
 ここで、安倍首相にとって「救いの神」が現れました。二階俊博自民党幹事長です。二階幹事長は今まで長い間にわたって日中友好のために努力してきました。中国政府が最も尊敬している日本の政治家は田中角栄ですが、二階幹事長は田中角栄の直弟子です。しかも二階幹事長は中国政府の中に深い人脈を築いてきました。習近平主席とも知り合いです。ほとんどの側近とも親しい関係にあります。
 二階幹事長は安倍首相の親書を持って、去る5月14、15、16日に習近平主席が政治生命をかけて推進している「一帯一路」のセミナーに出席し、16日に習近平主席と会談し安倍首相親書を直接、習主席に渡しました。これによって安倍首相と習主席の首脳会談の道を開いたのです。
 安倍政権にとって中国政府との友好協力関係を実現することは、北朝鮮問題解決のために必要不可欠なことです。それだけではありません。これは極東地域の平和を実現し、アジアを安定させて、アジアと世界の経済の成長を達成する道です。
 安倍首相が従来の日米同盟強化一本槍の行き方を改めて、中国政府との真の友好協力関係を築くことができるかに、日本の将来がかかっています。

◆トランプ政権との関係

 安倍首相とトランプ大統領の個人的信頼関係がどんなに強くても、トランプ政権は日本に無理なことを言ってくることは避けられません。トランプ政権は政府人事の整備が済めば、農産物輸入、自動車貿易問題で無理難題を日本政府にぶつけてくることは不可避だと思います。日本はもはや、これ以上の譲歩はできません。安倍首相は日本の農業を守るために米国政府に向かってはっきりと「ノー!」と言わなければなりません。
 これだけではないと思います。トランプ政権は、米国の中古兵器を大量に日本に押しつけてくるおそれ大です。日本政府がこの米国政府の要求を受け入れれば、軍事費の急上昇は避けられません。これも安倍政権は「ノー!」と言わなければなりません。
 安倍首相が日本の同盟を守るために断固たる態度をとることができるか否かに、日本の将来はかかっています。

◆日本国内の"安倍離れ"への対処

 今の日本の政権状況は「安倍一強体制」といわれていますが、しかしこの状況がいつまでもつづくわけではない、と思います。すでに、マスコミの"安倍離れ"は始まっています。いくつかのマスメディアは"安倍離れ"を始めています。
 "安倍離れ"は自民党内でも目立ち始めました。最近までは安倍首相への批判者は党内にはいませんでしたが、最近は公然と批判する政治家が出てきました。石破茂元幹事長の憲法問題をめぐる首相批判のトーンは徐々に高まってきています。
 「財政再建」を求める自民党国会議員の勉強会も発足しました。これはアベノミクスへの反発です。
 今まで日本国民の多くが安倍首相を支持してきたのは、北朝鮮の軍事的挑発に対抗するためには、安倍首相のようなタカ派路線が必要だと考えたからでした。安倍首相の高支持率の最大の原因は北朝鮮の動きでした。
 しかし、これから北朝鮮問題の解決のために、中国政府と日本政府が動くでしょう。中国、ロシア主導の行き方は平和路線です。北朝鮮問題を平和的に解決する方向へ動けば、日本国民は安倍首相のタカ派路線から離れるでしょう。政権の流れは変わり始めました。

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