【読書の楽しみ】第19回2017年10月10日
◎矢部宏治
『知ってはいけない隠された日本支配の構図』
(講談社現代新書、907円)
日米地位協定や日米合同委員会に詳しいと自負される方であっても、本書によって目から鱗が落ちることは間違いないでしょう。
日本がアメリカに従属しているなどと言われても程度の問題くらいにしか思ってこなかった人も、日米関係は本当にこんなに不平等なのかと思わずにはいられないはずです。
第1。米軍機は日本の空すべてで日本の航空法の規定の例外である。→横田、岩国の空域だけでも世界に例を見ないことなのに、米軍機は法的には日本中を自由に飛び回れる。
第2。アメリカにとって日本には国境がない。→米軍基地を経由すればいかなる人物も日本の国境を無視して出入国できる。米軍も国境を超えて日本から自由に出撃できる。
第3。自衛隊は米軍の指揮のもとに戦う。
第4。憲法より上位の日米取り決めがある。
まだまだありますがこれらは、朝鮮戦争勃発で脅威を感じたジョン・フォスター・ダレスが、国連憲章と日米安保条約を組み合わせて、国連軍(=米軍)に日本が従うというトリックを作り出し、それがその後も密約を加えて続いているのです。
ダレスの頭の良さに驚かされますが、それを長期温存してきた日本の政官民もだらしない。推理小説のような面白さも楽しめます。
◎岡田贊三
『よみがえる飛騨の匠』
(幻冬舎、1512円)
著者は今にも潰れそうな飛騨の老舗木工会社の社長として再建を託されます。そしてさまざまなアイデアで再起を図ります。たとえばそれまで廃棄されていた節のある材をあえて使い、世界で一つだけの机やイスに仕上げる。あるいは職人が敬遠して使わなかった杉材を圧縮材として家具に利用してみます。
トヨタ生産方式を導入して生産性を高めもします。ブランド力を高めるためのデザイン強化も。人材育成にも取り組みました。さらに地方自治体との協業でチャンスをつかみもする。職人さんたちの目の色が変わってきて会社はすっかり元気になっていきます。
そんな変わりようが生き生きと描かれてとても参考になります。ややもすると自慢話になりかねませんが、著者の人柄か表現のせいかで救われています。
樹液の効能の話が面白い。クスノキを圧縮して樹液を取り出し田畑に撒いたところ、コメや野菜が病害に強くなり、かつ品質も向上して品評会で入賞したというのです。森の力を実感させられます。
◎池内紀
『闘う文豪とナチス・ドイツ』
(中公新書、885円)
トーマス・マンといえば「ブッデンブローク家の人々」や「魔の山」で有名なノーベル賞作家で、ナチスを批判してスイスとアメリカに亡命しました。
亡命の間に書いた邦訳で全10巻という膨大な日記から特に興味深い部分を著者は的確に拾い出して、当時の状況、マンの生活と周辺の人々を生き生きと描いていきます。
マンは人気作家でしたから講演や執筆の依頼が引きも切らず、超多忙で金銭的にも不安はありませんでした。しかし愛する祖国から絶縁されたことは精神的に一定の意味合いを持ち続けました。
ナチスにすり寄る文化人の描写や、作家同士の自尊心が火花を散らす場面、舌鋒鋭いナチス批判の数々、そして日記に書かれなかったことどもの背景など著者の筆さばきは見事なものです。大作家の複雑な内面を知るとともに、ナチスの時代をドイツの外側から眺めることの意義も含め、良い本にめぐり合えたと感じた次第です。
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