【近藤康男・TPPから見える風景】日EU・EPAにおける国有企業章への疑-2018年3月1日
公有企業はある意味で民と公のマイナス要素を兼ね備え勝ちである。公営事業で見られる非効率性・無駄、自立意識・説明責任の不充分さ、低収益あるいは累積赤字、一方で民間企業に見られる、収益主義、それが過剰になった場合に顕著な社会的責任・透明性の欠如などだ。昨今製造業における談合や品質における誤魔化しが目立つが、“森加計”、古くはかんぽの宿、消えた年金などに代表されるように公の側も負けてはいない。特に厳正なリスク管理への忠実さを求められる金融分野は金融を歪めかねない。
そして多くは個人の問題ではなく、組織の問題、特に組織の統治に起因する問題だ。しかし多くの公有企業は天下りの巣だ。天下りとそれを受け入れる組織に厳正な統治や責任を求めるのは難しい。
◆地域の基礎的社会インフラたる公営事業・公有企業
本来、公営・公有事業は本当に必要な事業に限定すべきと考える。地域を支え、人々の暮らしに欠かせない、ユニバ-サル・サ-ビスを提供する郵便、過疎地路線を抱える鉄道・バスなどの輸送機関、病院、水道事業などのライフライン、教育・研究機関など、地域の基礎的な社会インフラこそが本来の公有企業、本当は公営直轄事業であるべきだ。多少の非効率性や無駄があっても、また必要な場合に税金を投じても持続させるべき公共的社会インフラだろう。
◆交渉途中の日本側意見はどこに消えたのか?
日EU・EPAの国有企業章は、(英文で)6ペ-ジ6条と小振りだ。附属書は見当たらない。TPPでは本文15条・本文と一体の附属書と合わせて34ペ-ジで、更に国別の例外対象企業の一覧である附属書Ⅳの国別表が73ペ-ジと、かなり様相が異なる。
漏えいされた交渉過程での条文では、日本側は「独立行政法人は規制の対象から除外する」と繰り返していたが、12月EU公表の2条適用範囲では「全てのレベルの公有企業」とされている。つまり、地方レベルの公有企業は主要な規制の除外対象とされ、発効後の追加交渉で見直し対象となる、といったTPPのような言及は日EU・EPAでは見られない。
◆基本的にTPPと同じだが、きめ細かさに欠ける日EU・EPA
日EU・EPA1~6条を通読した限りでは、国有企業の定義(10章・第1条)以下、TPPとの本質的な違いは無い。例外規定を兼ねた適用範囲についても、94年のGATT17条や94年GATSサービス貿易に関する一般協定準拠がうたわれている以外はほぼ共通している。ただ、TPPで詳細に書かれた、締約国への被害に当たる"非商業的援助による悪影響"については、6条の情報交換での言及に止まっている。またTPPでは主要な規制の適用除外に止まっていた、年間収益規模2億SDR未満については、章全体の適用除外とされた。
国有企業章は内外無差別で、商業ベ-スの競争(日EU10章第4条)を基本としている。
しかし、地域の基礎的社会インフラたる郵便・鉄道・病院などの公有企業や、社会的財産たる教育機関や主要な研究機関などは、時には経営支援をしつつも持続させるべきだ。日本以外の全てのTPP参加国は多くの企業をTPPの主要な規律の適用対象外としているが、日EU・EPAではこのような留保の規定も無い。
各国の適用外国有企業の一覧(英文のみ:協定全章の最後に続く附属書Ⅳ国別表)
Trans-Pacific Partnership
日EU・EPA国有企業章(英文のみ)
STATE-OWNED ENTERPRISES, ENTERPRISES GRANTED SPECIAL RIGHTS OR PRIVILEGES AND DESIGNATED MONOPOLIES
※ ※ ※
以下、いくつかの疑問を記したい。
〇TPPで、見直しされるまでは主要な規制の適用除外となっている地方政府の公有企業まで対象としたのは何故か?
〇独立行政法人は国有企業章の規制の対象となるのか?それとも1条・定義のgovernment agencyとされるのか?
〇TPPでは対象国有企業を締約国に通報あるいは公表することとなっているが、日EU・EPAではどうなるのか?
・対象が不明のままでは、国会で協定の影響を審議することも出来ない。
・また、発効後も規制や規律の執行も出来ず、該当企業自身が規律を遵守することも出来ない筈だ。
〇病院・大学・研究機関・鉄道・郵便も規制対象に含まれるか?
〇大阪市などは水道事業の公有企業化も検討している。年間収益規模が主要な規制の適用除外となる基準額200million SDR(約350億円)未満となるかは不明だが、国有企業章の規制の対象となり得るのか?政府調達として適用対象外となるのか?
〇TPPで規制されている、経営支援・赤字補てんに相当する"非商業的援助"は許されるのか?
〇規律に違反したことにより生じる"締約国への悪影響"について詳細な規定は無いが、問題あれば紛争解決の規定に沿って協議されることとなるのか?
基準無しで客観的な紛争解決が出来るのか?
〇投資章・越境サ-ビス章の非適合措置による4条の規定適用外の公有企業は何があるか?
本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
重要な記事
最新の記事
-
地域複合農業戦略に挑む(2)JA秋田中央会会長 小松忠彦氏【未来視座 JAトップインタビュー】2024年4月19日
-
【注意報】さとうきびにメイチュウ類 伊是名島で発生多発のおそれ 沖縄県2024年4月19日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:JA水戸 那珂川低温倉庫(茨城県) 温湿度・穀温 適正化徹底2024年4月19日
-
【農業倉庫保管管理強化月間にあたり】カビ対策を万全に 農業倉庫基金理事長 長瀬仁人氏2024年4月19日
-
【浅野純次・読書の楽しみ】第97回2024年4月19日
-
(380)震災時は5歳【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2024年4月19日
-
【JA人事】JA道北なよろ(北海道)村上清組合長を再任(4月12日)2024年4月19日
-
地拵え作業を遠隔操作「ラジコン式地拵機」レンタル開始 アクティオ2024年4月19日
-
協同組合のアイデンティティ 再確認 日本文化厚生連24年度事業計画2024年4月19日
-
料理酒「CS-4T」に含まれる成分が代替肉など食品の不快臭を改善 特許取得 白鶴酒造2024年4月19日
-
やきいもの聖地・らぽっぽファームで「GWやきいも工場祭2024」開催2024年4月19日
-
『ニッポンエール』グミシリーズから「広島県産世羅なしグミ」新発売 JA全農2024年4月19日
-
「パルシステムでんき」新規受付を再開 市場の影響を受けにくい再エネ調達力を強化2024年4月19日
-
養分欠乏下で高い生産性 陸稲品種 マダガスカルで「Mavitrika」開発 国際農研2024年4月19日
-
福島県産ブランド豚「麓山高原豚」使用『喜多方ラーメンバーガー』新発売 JAタウン2024年4月19日
-
微生物農業資材を用いた大阪産の減肥料栽培で共同研究開始 ナガセケムテックス2024年4月19日
-
栃木県真岡市産バナナ「とちおとこ」使用「バターのいとこ」那須エリア限定で新発売2024年4月19日
-
大阪泉州特産「水なす」農家直送で提供開始「北海道海鮮にほんいち」2024年4月19日
-
産業用ドローン世界市場 2023年は1兆4124億円に成長予測 矢野経済研究所2024年4月19日
-
バラ酵母使用「一ノ蔵 純米吟醸 プリンセス・ミチコ」数量限定発売 一ノ蔵2024年4月19日