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第2回 その昔の戒めの言葉と今の政官界2018年5月10日

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【酒井惇一(東北大学名誉教授)】

 私の幼いころ、太平洋戦争前後のころの話である。春から秋にかけて私の両親と祖父は毎日朝早くから夕方晩くまで田畑に行っていて家にいなかった(昼飯時には帰ってくるが)。家にいるのは祖母だけ、家事全般を取り仕切って忙しく働きながら、私たち幼い子どものめんどうをみてくれた。だから私たちは祖母と暮らす時間が家族のなかでもっとも多かった。

 祖母はかなりきつい性格で口うるさかった。何か悪いことをしようとすると「そんなことをすると罰が当たるぞ」と言われ、悪いことをすると「この罰当たり」と怒られた。うそをつくと「閻魔様に釘抜きで舌を抜かれる」、悪いことをすると地獄に落とされると脅された。

 そのとき思い出すのがお彼岸の時にお寺で見せられる地獄絵図だ。怖かった。あんな罰が与えられたらたまったものではない。怖い顔の閻魔様、顔も見たくない。ましてや舌など抜かれたら痛いし、食べたりしゃべったりできなくなる。鬼に追われての血の池や針の山などなおのこといやだ。怖くなって悪いことはしないようにしようという気になる。
 「ほだなごどすっど(そんなことをすると)祟られっぞ」、祟りという言葉もよく上級生から言われた。「川さ しょんべんすっど チンポコが腫れる」、子どもたち仲間で教え合ったものだった。何かすると「巡査が来っぞ」と脅しあい、学校では「わーるいな わーるいな しぇーんしぇいさ(先生に) おしぇでける(教えてやる)」とみんなではやし立てた。

 「天知る 地知る 吾知る」、これもよく祖母に言われたが、学校でも先生から言い聞かされた。悪いことをした後に何か自分に悪いことが起きると「天罰覿面」とみんなにはやされた。

 それでもついつい悪いことをしてしまうのが私のような凡人のあさはかさなのだが、こうした戒めの言葉、このごろはほとんど聞かない。閻魔様などという言葉も聞かなくなった。うそをつけば舌を抜かれるなどという話を今の子どもたちは知っているのだろうか。

 最近の政治家、高級官僚の言動からすると、少なくとも高度成長期以降に生まれ育った子どもたちは教わっていないのだろうと思われる。誰でもわかるうそをあれほど平然とつくからだ。大事な公文書を改ざんしたり、国有財産をべらぼうに安く売ろうとしたりもする。いやうそはついていない、「記憶にない」、「文書がない」たけだなどと、閻魔様でなくともわかるうそをつく。『教育勅語』の復活、道徳教育を叫ぶ人がこれでは困るではないか。こういう人たちが日本の政治を動かしていくのかと思うと本当に怖くなる。

 だからといって昔がよかったなどというつもりは私にはまったくない。戦前はもっとひどかった。軍部や政財界はうそにうそを積み重ねて日本を戦争にまきこみ、国民ばかりでなく他国民もどん底に追い込んだ。そうしたことは二度と繰り返すまいと戦後民主主義を確立してきたのだが、高級官僚はうそをつきながら、政治屋は戦前の神国日本はよかったなどといいながらそれを破壊し、日本の自衛隊(ジエイタイ)をアメリカ軍の護衛隊(ゴエイタイ)として国外で戦争ができるようにし、同時に国民の食糧をさらに外国に依存しようとしている。困った世の中になったものだ。

 

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酒井惇一(東北大学名誉教授)のコラム【昔の農村・今の世の中】

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