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コラム:正義派の農政論

【森島 賢】

2018.05.28 
北東アジアの夜明けは近い一覧へ

 先週の24日、トランプ大統領が、金正恩委員長に書簡を送った。その内容は、6月12日に予定していた米朝首脳会談の中止を通告するものだった。せっかく順調に準備が進んでいた首脳会談の中止である。全世界に激震が走った。
 しかし、翌日にはトランプ大統領は、一転して会談のための事前協議を再開することにした。
 こうした曲折は、今後もあるだろう。それに一喜一憂するのは、愚かなことだ。これは、会談前の実質的な交渉過程の中での一場面と思えばいい。それ程までに濃密な交渉が行われている、と思えばいいのだ。
 今後、こうした曲折があっても、朝鮮半島の米朝和解、南北和解という歴史の流れは止められない。日本や米国が、どんな思惑をもっていても、いったん動き出した北東アジアの平和へ向かう歴史の流れに逆らうことは、もうできない。
 ここでは、多くのマスコミが伝えていることに捉われず、伝えていないことも含め、すこし長い目でみて、朝鮮半島の現状を整理してみよう。

 トランプ大統領の書簡の内容を詳細にみると、これは、約束を破ったとか守ったとかいう水掛け論で、痴話喧嘩に近い。これは、誰がみてもケンカ別れの去り状ではない。未練たらたらの泣き状である。その中には「...気が変わったら電話か手紙を下さい...」と書いてある。
 翌日、さっそく北朝鮮は、そこの機微を忖度して、高官が釈明した。それを聞いて、トランプ大統領は、急に事前協議の再開を決めた。そうして、一件落着になった。雨降って地固まったのである。
 さらに念のため、翌々日には、金委員長が韓国の文在寅大統領と急に会談して、仲直りのための仲介を頼んだ。
 これらは、取引上手なトランプ大統領の、独特な高等戦術なのだろう。だが、あまり頻発すると、効力は次第に薄れる。また、大きな賭けだから、大きなリスクも伴う。慎重な心を失ってはならない。
 こうした躓きは、今後もあるだろう。それは悲観しなくていい。躓きを慎重に乗り越えることで、相互理解が深まって、より内容の濃い交渉結果が得られるだろう。
 さて、本題へ戻ろう。

 

 

 はじめに、北朝鮮の現状である。
 北朝鮮は、昨年末に、米国の東海岸にまで届く大陸間弾道弾を完成した。これに、すでに開発してある核爆弾を搭載すれば、米国の中枢部を一瞬で壊滅できる。
 このことは、米国の北朝鮮への軍事侵攻に対する強力な抑止力になる。そして、このことは、北朝鮮の長い間の国家目的だった。それが、ついに完成したのである。
 そうして今後は、経済建設に多くの力を注ぐことにした。そのため、一昨年には最高の国家機関である国防委員会を改組して、国務委員会を新しく作り、この委員会に、経済に強い党人を多くいれて軍人の発言力を弱くした。

 

 

 もう1つは、北朝鮮の経済状態の進化である。日米などの北朝鮮への制裁の効果が効いて、経済状態が悪化している、という評価がある。しかし、どうだろうか。
 たしかに制裁の影響は大きい。そのうえ、北朝鮮の軍事費はGDPの24%を占めている。世界でダントツの一番である。だから、国民生活への影響は大きいだろう。
 しかし、GDPつまり国内生産は、基調としてみると減少していない。それどころか、2016年の経済成長率は3.9%で、むしろ堅調だった。その結果、ケータイは7人に1人が持つまでになった。北朝鮮は貧困を克服した、とみていい。空腹を抱えている人がケータイを持つとは考えられない。
 いまは経済発展の、この勢いを加速するために、米国と和解して軍事費を平時に戻したいだろう。
 和解の機は熟している。

 

 

 つぎに、米国はどうか。
 トランプ大統領は、選挙中から在韓米軍の駐留経費を節減するといっていた。経費節減のために、米軍は韓国から撤退するとまでいった。これは、大統領の過激で独特な気まぐれ発言ではなかった、とみていい。
 ここには、米国の国民の力強い支持があった。外国のために米国の国民の血を流すのか。外国のために米国の国民の血税を使うのか。という疑問であり、反対である。
 いまでもトランプ大統領の支持者が減らないのは、トランプ大統領のこの考えが強く支持されているからである。

 

 

 また、すでにトランプ以前から、米軍は二正面作戦、つまり、中東と極東の2つの地域では作戦ができないほどに、米国の軍事力が衰えてきた。そして、いま中東で火花が吹いている。つまり、今も今後も、北朝鮮に軍事圧力を強めるだけの軍事力がない。
 そうした状況のなかで、米国は「世界の警察」をやめようとしている。それがトランプ大統領の考えの基本にある。それはアメリカ・ファーストの重要な部分である。この考えには米国の国民の根強い支持がある。最近の支持率は50%になった、という世論調査の結果もある。
 このように、米国でも北朝鮮との和解の機は熟している。

 

 

 最後に、韓国はどうか。
 朝鮮民族の統一国家の復活は、1950年の朝鮮戦争から始まった民族分裂以来の、長い間の民族的悲願である。
 統一されれば、2050年には1人当たり国民所得が日本を追い抜く、という試算が以前からあって、韓国の財界も大きな期待を持っている。
 いま韓国は、国を挙げて南北の和解を見据え、北朝鮮と米国との和解を期待している。だから、米朝和解を仲介し、その第一線に立っている文大統領は、国民の86%という圧倒的な多数の支持を得ている。
 小学生のとき、北朝鮮の人たちは赤い顔をして、角が生えている、と教え込まれ、それを信じている人が、これまで多数派だった。人間ではなくて鬼だから、言葉は通じないし、話合いはできない。だから、軍事力で退治するしかない、と考えていた。そういう時期が長く続いた。
 しかし今は、そのように考えている人は少数派になって、北朝鮮との和解を望む人のほうが多数派になった。

 

 

 それに加えて、韓国の1人当たりGNI(国民総所得)は336万円で北朝鮮の15万円の22倍だから、北朝鮮にいる同胞たちの経済発展に協力したいと考えているだろう。
 さらに加えて、韓国の国内には経済格差の深刻な拡大がある。韓国の多くの国民は、深刻な経済格差に呻吟している。いっぽう、北朝鮮は所得が少ないとはいえ、格差を否定し、平等を国是にしている。韓国の国民は、北朝鮮の平等に対する一種の憧れを持っているだろう。平等は、韓国民だけでなく、人類の永遠の憧れでもある。
 このように、韓国も南北間の、そして、同胞の国の北朝鮮と米国との間の和解を望んでいる。

 

 

 ひるがえって、日本はどうか。
 日本は米国の前面に立って、北朝鮮に即時完全非核化を迫り、制裁を主張している。「オレ(米国)は非核化しないが、オマエ(北朝鮮)は非核化しろ」という身勝手な米国の要求の先頭で、いきり立っている。そうして、カヤの外に出されている。
 素朴に考えれば、「オレ(米国)も非核化するから、オマエ(北朝鮮)も非核化しろ」と要求するのが、まっとうな交渉ではないか。そうでなければ、素朴な人たちは、米国の傲慢さに不信の目を向けるだろう。農村社会ではそう考える。しかし、日本の政府と自民党は、そう考えない。
 残念なことに、多くの野党も、政府・自民党と同じ考えのようだ。そして、多くの素朴な農業者は、あきれている。

 

 

 以上のように見ると、いま北東アジアは、1950年から始まった朝鮮戦争に終止符を打ち、米国軍・韓国軍と北朝鮮軍との敵対関係をやめて和解する、という大きな歴史的転換点を迎えている。この動きを止めることは、誰にもできない。
 先週末のように、今後も一時的な曲折はあるかもしれない。しかし、歴史の大きな流れが逆転することはないだろう。
 いまは、和解の総論で合意しているだけだ。今後、具体的な各論に入れば、多くの曲折が待っているだろう。しかし、拙速を避け、長い時間をかけて、相互理解を深め、より濃密な交渉を、互いに忍耐強く続けてそれを乗り越えれば、真の和解にたどり着けるだろう。
 北東アジアの夜明けは近い。誰もが、米朝で、あるいは南北で、互いに敵対しあう暗黒の夜に、ふたたび戻すことはできないだろう。
 日本も、この転換期に反動的役割を果たして、歴史に汚点を残すのではなく、北東アジアの平和のために、尽力しなければならない。
(2018.05.28)

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