【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】(085)1000時間・10年・1万人2018年6月8日
分野にかかわらず、何かを習得する、あるいは仕事として行う際、どの位の経験が必要なのだろうか。もちろんそれは習得する内容や仕事により異なるし、いくら時間をかけても本人や周りが望む水準に到達することが不可能な場合もある。大きく言えば人類にとって未知の領域に挑む場合はもちろんだが、芸術やスポーツなどにおいて完璧さを追求する場合、あるいは日常の細かなことについても実は同じことが当てはまる。
大学で20歳前後の学生達と日々接していると、学生達の多くが外国語(特に英語)を習得したいという強い気持ちを持っていることがわかる。中学・高校で6年間、さらに大学で4年間勉強すれば、英語に触れる期間合計は10年間だ。多くの学生が実際に朝から晩まで英語のみで生活する訳ではないし、勉強の方法も異なるため一概には言えないが、10年という時間をかけた割には自信をもって「英語はできる」と言える学生が少ないのは30年以上前の筆者の時代と余り変わらない。
これはなぜか。筆者は英語教育の専門家ではないので教育面での方法論についてどうこう言える立場ではない。言えることは、海外留学・生活を複数年経験した身として、外国語を習得するにはある期間、集中的にその言語を使うのが最も効果的であるという体験的コメントくらいである。実際、それなりに外国語を使う人がなぜ使えるようになったかを聞くと、仕事や勉強、生活で海外に一定期間滞在したか、あるいは一定期間、集中して習得に励んだかのどちらかであることが多い。
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ではどの位の期間集中すればよいか。筆者が学生に伝えているのは「仮に海外で生活しているとしたら、1日のうちどのくらいをその言語に接するかを考えること」だ。海外留学・駐在の経験者ならわかると思うが、24時間全てをその言語のみで過ごしている訳ではない。日本企業の海外支店などに行くと、現地従業員と一緒に仕事はするが日本とのやりとりや会議などでは日本語が多い。全てを平均した場合、少ないケースでも1日あたり3、4時間であろう。もちろん、朝から晩までその外国語での場合は倍以上になる。
仮に1日3時間とすれば1年間では1095時間、約1000時間だ。つまり、どうやって外国語を習得するかではなく、既に外国語を習得した人がどのくらいの時間をその外国語に接していたかという帰納的な推定をすれば、最低で年間1000時間をどう作りだすかがポイントであることがわかる。あとは実践だ。実はここが一番難しい。
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興味深いことにこうしたことは医師や弁護士など資格を必要とする世界にも通じるようだ。部外者は難関な国家資格を経ればすぐに一人前と思うかもしれないが、実際は資格を得てから一人前になるまでは結構な時間が必要だ。覚えるために区切りが良いのかもしれないが、どの世界でも早くて5年、遅くても10年程度とよく言われる。仮に医者であれば医学部を出てから、弁護士は司法試験を通ってから...とすれば人にもよるが概ね30代である。大学卒業後、就職した場合、どのような仕事でも10年を経ればほぼ一人前と考えて良いだろう。
ある整体師からは、1万人位の患者を診た頃から何となくわかるようになってきたという話を聞いたことがある。筆者はすぐに計算をした。仮に1日10人、週に50人、月に200人、年に2400人...とすると5年で1万2000人...。なるほど、この方は夢中で5年間集中してきたのだな...と考えた次第である。
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さて、何かを習得したい場合、短期間に集中して行うことが一番である。これは今更言うまでもなく誰でもわかっている。問題はこの逆だ。何かを「習得しない」場合には、短期間ではなく長期間、集中しないで継続することが一番のようだ。なぜならば、疲れず、止めるという罪悪感がなく、少なくとも継続しているという点で非常に「心地良い」からだ。我々は無意識のうちにこうしたことを数多く実践しているのかもしれない。
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