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【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第10回 つぎはぎだらけの汚れた野良着2018年7月5日

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【酒井惇一(東北大学名誉教授)】

 農家の作業着いわゆる野良着は地方によりまた季節により違うが、私の記憶するかつての山形周辺の農家の男性は、夏の時期は腰くらいまでの短めの袖無しの着物を紐で結んであるいは帯で締めて着て、腰から下は股引(ももひき)をはいていた。また女性は、男性よりも長めの膝くらいまでの着物(「はだこ」と呼んだ)を着て、その下の部分をもんぺで包んでいた。
 よくよく考えてみると、こうした野良着はきわめて機能的につくられていた。着やすくまた動きやすくつくられ、さらに田畑での作業が中心になることから外傷や虫害、直射日光からの保護、寒さや暑さ、風、埃、汚れの防止をも目的としてつくられていたのである。

 なお、布で手首や手の甲を覆う手甲(てつこう)(生家の周辺では「手さし」と言った)や足のすねを覆う脚絆(きやはん)は、野良着の一部として手足のけがや虫刺され、直射日光、寒さ、汚れ等を避けるためのもので、しかも非常に活動しやすくできていた。

 こうした野良着の色は男女により異なり、女性の方が少し赤系統の色が入る等ちょっとおしゃれになるが、いずれも基本は紺色で、黒っぽかった。これもそれなりの合理性があった。こうした色だと汚れが見えないし、つぎはぎしても目立たないからである。

 さらに必要に応じて手拭いで頬っ被りをし、女性は姉さんかぶりをした。これは寒さ防ぎ、風よけ、埃よけ、日除けとしてきわめて有効なものだった。手拭いは農作業など外でする仕事には不可欠で、必ず持って歩いたものだった。農作業中の汗拭きや汗止め、作業後の顔洗い、手拭き用として、さらには傷ついた場合の包帯として、きわめて便利だったからである。
 山形の庄内地方や秋田などの女性は「はんこたんな」(地域により呼び名が違うが)とよばれる布で顔を覆った。これも虫除け、日焼け止めのためだった。

 こうした野良着姿、すべて新品のときなどすっきりして本当にきれいだった。とくに若い女性の野良着姿はきれいで、笠などで顔が隠れているとのぞきこみたくなるほどだった。
 しかしそうした野良着も田畑の作業で泥や土埃りがついて汚れてくる。夏などは汗をかいて野良着はしぼらなければならないほどだ。

 それで、家に帰ったら必ず身体を井戸や川の水で拭く、風呂があれば入って身体を洗い、普段着に着替える。しかし、前に述べたように毎日風呂を沸かして入るようなお金はない。そもそも風呂のない農家もある。岩手の山村などでは馬の餌を煮る大きな鉄の釜(「とな釜」とも「ヤダ釜」とも呼んだという)の中に板を敷き、水を入れ、釜の下から火を燃やし、お風呂とした、それも月に2、3回しか入れなかったという。これでは野良着はもちろん普段着も垢じみてしまう。
 しかし、そうして汚れた野良着をきれいに洗う暇などない。田畑から帰ってくる頃はもう暗くなっているからだ。石鹸などもちろんない。軽く汚れを落とし、外に乾かしておくしかない。これではどうしても汚れが汗が沁みついて汚くなってしまう。

 やがてほころびも出てくる。すりむいて穴があいたりもする。だからといって新品を買うだけのお金などない。とりあえず応急措置でつくろっておくしかない。
 こうした汚いぼろの野良着では、いかに機能的だとはいえ、それを身につける農民はそれを誇りに思うことなどできるわけがない。しかもこうした野良着をふだんの外出着とするしかない農家もあった。それを目にする街の人間の一部は野良着姿を尊敬の念どころか貧しさの象徴として、格好悪さの典型として、さらには侮蔑の対象として見た。野良着姿は美的な感覚のない愚かな貧しいどん百姓の姿と見たのである。
 もちろん、街の人間も一部を除いてみんな貧しく、きれいな衣類を豊かに身につけていたわけではなかったのだが。

 

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酒井惇一(東北大学名誉教授)のコラム【昔の農村・今の世の中】

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