【小松泰信・地方の眼力】揺るがす政権に揺るがず2018年8月8日
“政権不祥事 「民主主義 根幹揺るがす」 衆院議長、異例の所感”という見出しで、大島理森衆院議長が7月31日、国会内で記者会見し、相次ぐ政権不祥事が問題となった通常国会を振り返り、安倍政権に注文を付ける異例の所感を公表した(東京新聞8月2日)。
◆大島所感のあらまし
その記事によれば、大島氏は、森友学園を巡る財務省の決裁文書改ざんや自衛隊日報隠蔽などを挙げ「民主主義の根幹を揺るがす問題だ。立法府の判断を誤らせる恐れがある」と反省と改善を促し、菅義偉官房長官に所感を渡し、再発防止のために制度構築を求めたそうだ。(人の話はきかんぼう長官のこと、黒々とした腹の中で「その指摘は全く当たらない」と叫んだはず)
さらに厚生労働省の労働時間調査での不適切データ問題に言及し、「国民に大いなる不信感を引き起こした。個々の関係者の一過性の問題として済ませずに、深刻に受け止めていただきたい」とも強調したそうだ。
行政を監視する立場にある立法府の責任にも触れ、「国民の負託に応える行政監視活動をしてきたか検証の余地がある」と回顧するとともに、40人以上の議員の要請で、議長を通じて衆院調査局に調査を求めることできる「予備的調査」(衆議院規則第56条の3)の活用を例示したそうだ。
◆毎日新聞の嘆き
この件を全国紙で唯一取り上げた毎日新聞(8月2日)は、「所感は特別なことを言っているわけではない。国政に参画する者であれば当然わきまえておくべき常識だ。それをあえて唱えなければならないところに問題の深刻さがある」と厳しい。さらに、「国民を代表する立法府を行政府が欺いていたにもかかわらず、内閣はその責任を一部の官僚に押しつけ、だれも政治責任を取らない。立法府の側では与党が一貫して真相究明や責任追及に消極的だった。与党である前に議会人であるという自覚が極めて乏しい」と、内閣と与党を叱責する。ことほど左様に深刻な事態にもかかわらず、「自民党出身の議長が抱く危機感をよそに、自民党内では国会が閉会したら何事もなかったかのように9月の党総裁選へ向けて『安倍3選』の動きが加速している」と嘆く。
◆腑に落とさぬ京都新聞。議長の不作為は更迭もの
社説等で取り上げた地方紙のつぎの3紙。
東京・中日新聞(2日)は、「大島議長の指摘はまっとうで、国民の多くが同じ問題意識を持っていることだろう。...安倍晋三首相はじめ行政府の側は、議長の指摘を国民からの声と重く受け止め、真剣に対応すべきだ」とする。さらに与党議員に対して「森友・加計問題への首相らの関与の解明に後ろ向きで、国政調査の責任を十分に果たしたとは言えない」としたうえで、大島氏にも、自民党副総裁まで務めたベテラン議員として、「政治力を自ら発揮すべき」と注文を付ける。
岩手日報・論説(5日)は、重鎮大島氏の政権への苦言ゆえに「ただ事ではない」とする。政府が公文書管理のあり方を見直して再発防止策をまとめ、財務省が新人事を発表したタイミングでの所感の発表だったことを、「一連の幕引きムード」に対し、依然として政権に厳しい世論があることを強く意識したものと推察している。そして、「これを『ガス抜き』にとどめるか、深刻に捉えるかは、ひとえに政府、与党次第」とする。
やや趣が異なっているのが京都新聞(2日)である。
「大島氏の指摘は、行政府が立法府を欺いた前代未聞の不祥事への危機感」のあらわれゆえに、安倍政権は深刻に受け止め、逃げずに経緯や原因を究明せよとする一方で、「問題が明るみに出た段階で機動的に乗り出していれば、その後の国会運営も違った展開になったのではないか」として、「国会が終わった今ごろになって議長が所感を示したこと」に疑問を呈する。
参院定数6増法案などに関し、伊達忠一議長が調整に動かず不信任案を提出されたことを取り上げ、「議長が出身政党の意向に気兼ねして議事運営が不公平と見なされるようでは、言論の府である国会議員を束ねる役割は果たせない。責任と誇りを持ち、リーダーシップを取るべきだった」とする。
伊達氏に向けた批判ではあるが、実は後の祭り的な大島所感にも批判の矛先は向けられている。
京都新聞の指摘は当然である。「民主主義の根幹を揺るがす」ような重大局面との認識があったのなら、民主主義国家に危機が及ぼうとするその時に適切なる対応をすべきだったはず。議長としての不作為は更迭に値する。
◆底浅き人権意識と揺るがぬ自己の確立
根幹を揺るがすといえば、公正であるべき試験制度の根幹を揺るがしているのが東京医科大学の事案。7日同大学の差別的不正入試問題の内部調査結果が公表された。遅くとも2006年以降、女子と3浪以上の男子の合格を抑制するために得点操作がなされていた。毎日新聞(8日)のクローズアップ2018は、女性差別については「女性医師は妊娠・出産で休職したり、離職したりするケースがあり、当直勤務がある外科などは補充が難しいからだ」、多浪生差別については「医師国家試験合格率が現役生より低い傾向がある」という同大関係者のコメントを紹介している。そして、「社会が女性の活躍を促進するべくさまざまな方策を施していることに真っ向から反抗するものであって断じて許されない」という厳しい言葉がならぶ報告書の総括も示している。
東京・中日新聞・社説(8日)は、「教育や研究といった大学本来の責務よりも、系列病院の経営効率ありきの姿勢」を問うとともに、「女性研究者の育児と仕事の両立を支える補助金まで受けていたこと」の罪深さを指摘する。
女性差別に焦点を当てた毎日新聞・社説(4日)は、「憲法は法の下の平等を定め、性別を理由とした不合理な差別を禁じている。公正さを最も重んじるべき入試でこんな差別がまかり通っていたことに驚く。断じて容認できない」と指弾し、「女性が結婚、出産後も仕事を続けられるようにするために、社会全体の取り組みが進んでいる。改革すべきは、当直など女性の勤務を可能とする系列病院の職場環境だろう。今回の得点操作はその努力を放棄し、女性の活躍の場を奪うものだ」と、正論で迫っている。
大学教員として入試にかかわってきたものとしては、ただただ驚くばかりである。公正な試験の実施をめざした、募集要項の決定、問題作成、監督等の入試業務、採点、合否判定といった一連の業務は本当に神経をすり減らすものである。そこに、性別や年齢による差別的不正行為がなされることは決して許されるべきものではない。
しかし、つぎつぎに出てくる自民党議員からの性的差別発言とそれを不問に付す政党の姿勢は、わが国における人権意識の底の浅さと、揺るぎやすさを図らずも教えている。あの手この手の揺さぶりに揺るがぬ自分であるために、今日も自分に言い聞かす。
「地方の眼力」なめんなよ
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