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コラム:地方の眼力

【小松泰信(岡山大学大学院 環境生命科学研究科教授)】

2018.09.12 
【小松泰信・地方の眼力】地方の臭いを忘れるな一覧へ

 東京新聞(9月8日付)に、「平成30年北海道胆振東部地震」に関するドキッとする記事が載っていた。「地震が発生した6日、安倍晋三首相は関係閣僚会議で9人が死亡したと話したが、警察庁は死者5人、心肺停止4人としていた。7日午前の関係閣僚会議でも首相は『これまでに16人が亡くなられた』と説明したが、警察庁は死者9人、心肺停止7人としていた」。このため、菅義偉官房長官は7日午後の記者会見で、安倍氏の発表の誤りを認め陳謝した。さすがに今度ばかりは、首相の発表に合わせることはできなかったようだ。

◆政治家の仕事

小松泰信(岡山大学大学院 環境生命科学研究科教授) 山口二郎氏(法政大学教授)は「本音のコラム」(東京新聞、9月9日付)で、「この危険な列島に住む我々にとっての安全保障とは何か、本気で考えなければならない」としたうえで、自己宣伝のために復旧を急げと指図だけするのではなく、「復旧に必要な人手と予算を十分確保すること」が、政治家の仕事だとする。
 そして「民営化されたJRでは、災害で線路が破壊されると、それを奇貨として復旧をサボり、赤字路線を廃止に追い込むという事例が何件も起こっている。北海道の農村部で災害が起こると、政府がこれをまねて、復旧のコストがかかるからと地域社会自体を見捨てることだって起こりかねない」と、警告を発する。そして、「国民の命を守るために金を使うことを優先するなら、米国の軍需産業をもうけさせるために高価な武器を買うなどもっての外」と、五寸釘を打ち込む。

 
 
◆道民1人あたり100円。それはいくらなんでも、それはいくらなんでも、ご容赦ください!

 9月10日の持ち回り閣議において、「被災者の命と生活環境に不可欠な物資のプッシュ型支援をいっそう強化するため」に、2018年度一般会計予備費から復旧財源として5億4000万円を支出することを決定した。あくまでも目安として示すが、18年3月31日時点での北海道の人口は約530万人。ということは、道民1人あたり約100円。首相が「被災自治体が、財政上安心して復旧に取り組める態勢づくりが重要だ」として、普通交付税の繰り上げ交付に向け迅速に対応するよう指示したことも伝えられている。このままでは終わらない、手厚い対応を期待したいところだが、なにせ国の内外を問わずお友達には大盤振る舞いするが、弱者や意に沿わぬ者には極めて冷酷な仕打ちの数々。しかとその態勢づくりとやらを見せていただくことにする。
 同じ基準で計ることではないが、山陽新聞(12日付)によれば、岡山市は西日本豪雨からの本格的な復旧・復興のため、2018年度の一般会計を91億1700万円増額する補正予算案を発表した。その内訳を大別すると、被災者の生活再建支援に38億5400万円、公共施設の復旧費に52億6300万円となっている。大森雅夫市長は会見で「被災者が一日も早く日常を取り戻せるよう、きめ細かな支援をしたい」と述べている。天災を防げぬちっぽけな我々にできることは、人災を防ぎ日常を取り戻すことだけである。

 

◆鉄道の断絶は食農の断絶

 山口氏の指摘通り、北海道の鉄道事情も極めて厳しい情況にあることは、当コラム(2018年2月21日)でも取り上げた。
 奇しくも地震発生2ヵ月前、7月6日付の日本農業新聞は、"農産物輸送ピンチ JR北海道 路線見直しで産地懸念 トラック運転手不足"という見出しで、厳しさを増すその情況を伝えていた。
 まず、JR北海道は2016年7月、赤字で修繕費などが確保できないため、全道で鉄道の運行が難しくなると表明。同年11月に「単独では維持困難」とする13線区を公表。このうち貨物輸送に使われているのが3線区。この3線区でタマネギ、ジャガイモ、米など45万tを輸送。いずれも本州向けの便は農産物が貨物の4から7割を占める(ホクレン調べ)、とのこと。まさに「本州と陸続きではない北海道にとって、鉄道貨物は重要な輸送手段」(ホクレン物流部)である。
 JAふらのでは、富良野から札幌までをトラックで運ぶとなると、新たに20人以上の運転手が必要となる。しかし道においても運転手不足で人員が確保できない。確保されたとしてもコスト上昇が懸念される。
 同様に北海道東部のオホーツク地方もタマネギを中心に農産物の道外輸送の約7割を鉄道に頼っている。出荷で利用するだけではなく、札幌から送られてくる出荷用段ボールをトラック輸送から鉄道輸送に切り替えるなど、利用促進のための努力を惜しまない。過去に廃止が検討された時には、産地が必要性を訴えて1日1往復を確保してきた。
 旧国鉄の民営化以降、赤字路線の切り捨てが顕著になっている。そのことは地域の基幹産業、そして地域社会の切り捨てであるだけではなく、国民の食料調達の道を断つこと、すなわち食農断絶をも意味していることを、為政者も国民も忘れるべきではない。

 

◆停電が突きつけたこと

 また今回の地震がもたらした停電は、農業に大きな打撃を与えた。
 日本経済新聞(11日付)は、幕別町の酪農家を取り上げている。停電の影響で、搾乳機や絞った生乳を保管する保冷器が動かなくなるとともに、取引先の牛乳工場も稼働を停止し、出荷の見通しが立たなかった。しかし搾乳をしなければ牛が乳房炎になる恐れがあったため、7日夜に停電が回復するまでの間、搾乳した生乳2トンを廃棄。多くの酪農家が、このつらい時間を過ごしている。
 長沼町では地震前日の5日に台風の影響でビニールハウスが約800棟壊れ、復旧できないまま地震が襲った。JAながぬまによれば、停電で集荷施設の製氷機や予冷機が停止し、特産品のブロッコリーは手作業での出荷に追われた。これからも雨が続けば水稲や大豆などが倒れるのでは、と心配は尽きない。
 今回の地震は、農業産出額1兆2000億円で全国トップ(全国シェアー13%)の食料基地で起きた。日本農業新聞(8日付)の論説は、「食や農を支えるライフラインのもろさを露呈した地震は、食料安全保障の重要性を改めて突き付けている」として、「災害を契機に、エネルギーや食卓を支える地方の現実にも目を向けてほしい。食料安全保障について、国民一人一人が自分のこととして考える時に来ている」と、訴えている。

 
 
◆地方創生の担い手の死を悼む

 今朝(12日)の6時と7時のNHKおはよう日本は、今回の地震による土砂崩れに巻き込まれて亡くなった中川信行氏(62歳)を紹介していた。厚真町の理事兼課長にあって"町のリーダー的存在だった"とのこと。3年前には、農業の発展を柱にした町の地方創生プランの策定に尽力されたそうだ。放送の中で印象的だったのは、地方創生のあり方を巡る研修会で、報告者に対して、「本州の臭いがする。もう少し検討して」と、アドバイスされていたことだ。"地方の臭いこそ大切な宝物"という教えと受け止めた。
 「地方の眼力」なめんなよ

 

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