【森田実の政治評論】転換を迫られる安倍政治-自民総裁選後の政治課題と今後の政治状況2018年9月26日
「日中すれば則ち灰(かたむ)き、目盈(み)つれば則ち食(か)く」(『易経』)
◆安倍総裁3選の厳しい国民の評価
読売新聞社が9月20日の自民党総裁選の直後に実施した世論調査によると、安倍総理総裁が連続3選を果したことを「よかった」と思う人は46%で、「よくなかった」は41%でした。安倍内閣支持率50%を「(三選)よかった」が下回りました。安倍総裁にとってはきびしい国民の評価です。
対立候補の石破氏が「もっと多い方がよかった」は49%、「ちょうどよい」39%、「安倍さんがもっと多い方がよかった」は6%でした。世論は石破氏に好意的です。
安倍総理の「自民党の憲法改正案を今年秋の臨時国会に示したい」との考えには「反対」が51%、「賛成」は36%です。憲法9条に自衛隊の根拠規定を追加する安倍総理の改正案には「賛成」39%、「反対」43%です。安倍総理が世論を尊重する態度をとれば、憲法改正案は断念せざるをえない状況です。
9月20日の自民党総裁選の結果について安倍総理側も石破氏側も満足しているようにみえます。自民党内は「うまくいった」という空気です。しかし、国民の側は、安倍三選の結果について自民党よりきびしい見方をしています。
◆逆ピラミッド型の安倍体制
自民党総裁選で安倍総裁は、国会議員票329(82%)を獲得し当選しました。対立候補の石破氏は国会議員票73(18%)にとどまり破れました。この「82対18」という数字で思い出したことがあります。1942(昭和17)年4月30日に行われた第21回総選挙の選挙結果です。この総選挙は「翼賛選挙」としてよく知られています。第二次大戦中で東条英機内閣の時代でした。当選者は「推薦」が381名、「非推薦」が85、比率は「82」対「18」でした。76年前の1942年の翼賛選挙と2018年の自民党総裁選の議員の比率が同じだというのは偶然ですが、戦時中の東条独裁体制と現在の安倍一強体制を比較したくなりました。
翼賛選挙から三年三か月後に大日本帝国は崩壊しました。独裁体制は脆いものです。
一般党員の票差はわずかでした。安倍55に対し石破45でした。
安倍総理は国会議員の支持率は高かったのですが一般党員の支持率はあまり高くないのです。一般の国民の支持率はさらに低い水準です。最近の報道機関の世論調査では安倍内閣の支持率は約40%です。安倍総理は〔国民40、一般党員55、国会議員82〕の上に乗っているのです。これは逆ピラミッドです。基礎が弱く脆いのです。
この逆ピラミッド体制のまま、憲法改正に踏み込もうとしていますが、果して可能でしょうか。私は必ず失敗すると思っています。
◆絶望的な安倍憲法改正
憲法改正の手続きは日本国憲法第九六条で次のように規定されています。
「この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数を必要とする」
最終的には国民投票で決めますが衆参両院で定数の三分の二の賛成で発議しなければなりません。今のところ、自民党と公明党と維新などいくつかの小政党が賛成すれば「発議」は可能とみられていますが、簡単ではありません。
私は安倍総理による憲法改正はほとんど絶望的だと判断しています。
憲法改正発議のキャスチングボートを掴っているのは公明党です。とくに参議院では公明党の全議員が賛成しなければ発議は不可能です。今のところ公明党の態度は曖昧ですが、私は公明党の全議員が発議に賛成することはありえないと予想しています。
理由の第一は自民党の全議員が安倍改正案に賛成することはなく、自民党議員が合意しない以上公明党の全議員が安倍総理案に同調することはありえないと思っています。
第二は、安倍改正案は国民の過半数の支持は得られず、国民投票で否決される可能性があり、あまりに危険な賭けです。こんな危険な賭けに公明党が全党あげて賛成することはないと思います。
第三に、公明党の支持団体の主力である創価学会婦人部が憲法9条改正を受け入れることはなく、また公明党が創価学会から離れて安倍自民党の一部になることはありえないと私は判断しています。
以上の理由により、発議そのものができないと私は判断しています。また、万が一発議できたとしても国民投票で否決になる可能性が高いのです。
安倍総理と自民党は理性的になるべきです。不可能な憲法改正に向って猪突猛進することは国政を混乱させるだけです。
◆基本政策の大転換を!
いま政府が緊急に為すべきことは少なくありません。被災者救済、、災害地の復旧復興、防災減災国土強靭化、観光の建て直し、真の景気回復、地方の再生、農業振興、平和外交の推進、日朝国交正常化、日ロ平和条約締結などの課題が山積しています。安倍総理が憲法改正を、これらの諸課題に優先して行おうとすれば、安倍総理は国民から見放されてしまうでしょう。
2019年夏には参議院議員選挙が行われます。この参院選での自民、公明両党の議席の現状維持はほとんど不可能です。自民党が大敗北するとの予測もあります。自民党が大敗北すれば、安倍総理にとって悪夢となった2007年のような政変が再現される可能性はないとはいえないのです。
2019年夏の政権崩壊を回避する方策として、政権内部でひそかに衆参同日選挙の断行が検討されていると言われていますが、最良の手段は政府の基本政策の抜本的転換です。新自由主義政策と訣別し、対米従属から脱皮する方向への大転換を断行することです。
具体的には、対米従属政策を改め自主独立路線を推進することです。安倍政権はトランプ米大統領の圧力に対して自動車を守るため農業を犠牲にするような対応をするおそれがあります。これを止めなければなりません。どんなことがあっても農業を守り抜くべきです。日本外交の軸足をアジアに移し、農業の振興に全力を挙げる時です。日本は「自然産業立国」をめざすべきです。
本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧ください。
・【森田実の政治評論】自民党総裁選‐国民の立場に立った誠実な論戦を!(2018.08.29)
・【森田実の政治評論】罷り通る道義なき力づくの安倍政治の行方(2018.08.04)
・【森田実の政治評論】自民党総裁三選に向かって猪突猛進する安倍総理の無理性(2018.06.25)
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