【浅野純次・読書の楽しみ】第31回2018年10月12日
◎福島水力発電促進会議編
『水力発電が日本を救う ふくしまチャレンジ編』
(東洋経済新報社、1512円)
竹村公太郎『水力発電が日本を救う』(東洋経済新報社)の続編。今回は福島の産業人たちが福島の水資源を開発して福島経済に活気を取り戻そうと、努力を重ねてきた一部始終が語られています。
東日本大震災以後、人口減、税収減に直面しながら、今なお続く風評被害と闘う福島の産業人は何を足掛かりにして復活を図ろうかと苦吟してきました。
その中で行き着いたのが県内河川の豊富な水量を活かした発電事業です。前掲書にはいろいろなアイデアが提示されていて話題を集めました。
今あるダムのかさ上げ、多目的ダムの貯水量増大(今は法律でたった半分しか溜められない)、中小ダムに中小発電所を作る、など、工夫次第で発電量を大幅に増やすことができるというのです。
うまくすれば全国で年間2兆円分もの発電がただ同然でもたらされるというからすごいことです。環境を壊すこともほとんどなく、投資額も少なくてすむなどいいことずくめなのに、福島の人々が取り組もうとしたらさまざまな難題が待ち受けていました。
法律やお役所がらみの壁なのですが、具体的には本書をどうぞ。農業用水も関係してきますので、農業関係者も一緒になって取り組んでほしいものです。
◎有馬哲夫
『原爆 私たちは何も知らなかった』
(新潮新書、864円)
書名からは私たちは何を知らなかったのかと思いますが、原爆開発の経緯も広島、長崎に原爆が投下されたいきさつも、実はほとんど知らなかったことを知って驚く人が多いのではないでしょうか。
原爆はまず米国で開発されました。このままではイギリスがドイツにやられそうだという状況になって、米英カナダ3国によって原爆開発への取り組みが加速したのです。
しかしドイツが降伏して、原爆の次の焦点は日本に移ります。多くの科学者やスティムソン陸軍長官らが事前警告や投下目標の限定などを主張しますが、トルーマン大統領は無視し続けます。
ソ連との関係でも周囲が原爆の国際管理を主張したのに、これまた無視。なぜ意固地にトルーマンは原爆投下や原爆独占にこだわったのでしょうか。
その後の核拡散はご存じのとおりです。原爆の歴史の裏にはこんな事実があったことを私たちはぜひ知っておくべきでしょう。広島、長崎に投下しなくても戦争は終わっていたという事実とともに。
◎川上和人+マンガ・マツダユカ
『トリノトリビア』
(西東社、1296円)
「鳥類学者がこっそり教える野鳥のひみつ」が副題です。「こっそり」の意味はよくわかりませんが、身近な鳥たちの知られざる姿が明らかにされます。
何よりうれしいのは右ページに4コママンガが(それもカラーで)並んでいて、左ページに興味深い解説があるという構成です。マンガだけでも十分楽しめるはずです。
登場するのは、スズメ、カラス、ツバメ、ムクドリ、ヒヨドリなどの都会派から、アカゲラ、カッコウ、コサギなど見かけるチャンスの少ない野鳥まで。鳥好きのお子さん、お孫さんにも、漢字を教えてあげながら楽しんでもらえる本です。
シジュウカラはカタツムリでカルシウム補給、だとか、カラスは巣に新建材を使う、だとか、面白いテーマが並びます。
鳥の巣を好んで巣にする昆虫がいる、というテーマでは、その虫の運命やいかにと思ってしまいますが、答えは? 鳥好きでなくとも楽しめる一冊です。
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