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コラム:地方の眼力

【小松泰信(岡山大学大学院 環境生命科学研究科教授)】

2018.10.31 
【小松泰信・地方の眼力】本日はハロウィンなり一覧へ

 「新米の季節になると、わが家には実家からコメが届く。炊きたてを味わいつつ、私が食べているコメはブランド米ではないが、お店で売っているコメよりずっとおいしい。両親が誇りをもって作った『プライド米』だと思った。……日本中のコメ農家の数だけ『プライド米』があるのだ。先祖代々の土地を大切に育み、人生をかけてコメを育て、日本中にコメを提供してきた」と、収穫の秋にちなんだ読者の声を届けているのは中村智子さん(宇都宮市・主婦、東京新聞10月31日付)。

◆聖子さんもGAPですか

 お気に入りの高橋大輔氏の現役復帰に刺激されたからではないだろうが、自民党の橋本聖子議員が10月30日の参院本会議で代表質問を行った。日本農業新聞(31日付)によれば、「東京五輪パラリンピックはわが国の食文化、質の高い食材を世界にアピールできる機会。選手村に野菜などを提供する際、GAPの認証が必要。認証の普及を含め、どんな戦略を持っているか」を、問うている。安倍首相の回答は紹介するに値しないので、当コラムから次の二点を橋本氏にはお伝えしよう。
 一つは、「(2017年)12月には農水省がGAPの認証を取得した農産物の年間出荷量について初めて調査結果をまとめたが、穀類と青果物の合計26品目で10万トン。東京五輪で使う分も十分足りることがデータから裏付けられた」(日本農業新聞「論説」、2018年1月10日付)ということで、心配無用に存じます。
 もう一つは、選手として7回もオリンピックに出場した日本最多記録保持者として、開催国の食文化や食材にどれほど興味を持ち、その後ご自身の胃袋をつかんだものがどれほどあるのか、腑に手を当ててお考えいただきたい。いかに我が国の食文化や食材に自信があったとしても、五輪パラリンピック開催で他国の人びとの胃袋を鷲づかみにすることは無理。

 

◆安倍首相の所信表明演説

 10月24日招集の臨時国会における安倍首相の所信表明演説は、その性根とは真逆の歯の浮くようないつも通りの内容。
 「元気で、意欲あふれる高齢者の皆さんの経験や知恵をもっと生かすことができれば、日本はまだまだ成長できる。......生涯現役社会を目指し、65歳以上への継続雇用の引き上げや中途採用・キャリア採用の拡大など雇用制度改革に向けた検討を進めます」と、高齢者にエールは送っているが、「農家の平均年齢が66歳を超えてしまった現在、守るためにこそ攻めなければなりません」と、農業を支える高齢農業者の〝経験や知恵をもっと生かす〟そぶりすら見せない。
 捏造TAGに関しては、「日本と米国は、戦後一貫して、強固な同盟国であるとともに、経済大国として、世界の自由貿易体制を共にけん引してきました。この土台の上に、先月、日米物品貿易協定(TAG)の交渉を開始することで合意しました。農産品については、過去の経済連携協定で約束した内容が最大限である。この大前提を米国と合意しました」と、聞き飽きたお約束。今度はどのような詭弁を弄して、国民的約束事項を反故にするのか、首相に合わせた次元の低い不健康な思いが湧いてくる。

 

◆小沢一郎が斬る

 自由党代表小沢一郎氏は日本農業新聞(30日付)のインタビューで、「『生産性の低い産業は要らない』というのが安倍政権のやり方だ。安倍晋三首相は、所信表明でも農業をかなり意識していたが、結局は口先だけのいいとこ取り。本心では農業なんて本当はどうでもいい。手間を掛けて支援する必要はないという考え方だから。新自由主義とは、そもそもそういうことだ」とバッサリと斬る。そして切っ先をわれわれに向けて、「農家が生きていきたいなら、今の政治を変える以外にない」と、どすをきかせる。
 さらに、「日米の共同声明なんて単なる気休めだ。米国にやられ、身ぐるみ剥がされたら、その『つけ』は一体誰が払うのか。安倍首相は決して払ってくれない。結局、国民自身が払わなければならない」と、警告を発する。あえて付け加えるならば、われわれに留まらず、これから先この国に生まれ、生きていく人までもが「つけ」を払わされることを覚悟しておかねばならない。 
 「農家がしっかりと政策の中身を見て、政党や政治家を応援すれば農村も変わる」という氏の言葉に異議無し。

 

◆不安は一抹どころではないはず

 柴田明夫氏(資源・食糧問題研究所代表)もTAGを俎上にあげ、「よもや自動車への追加関税を回避するため、農産物の輸入関税引き下げをのむことはあるまいが、一抹の不安がある」とする。その抑制的表現が氏の本音を伝えている。そして、「日本がTPPと日欧経済連携協定(EPA)で合意した以上の関税引き下げが実現すれば、すでに38%まで低下している食料自給率をさらに引き下げることになる。ここは食料安保を優先させるべきであろう」と、諭している(毎日新聞、27日付)。

 

◆神出全農理事長ドイツで講演。それで......

 JA全農ウィークリー(10月29日号)は、ドイツのボン大学開催の祝賀会で神出元一全農理事長が講演したことを伝えている。
 「日本の水田稲作が農村社会の助け合いや共助の精神で2000年以上受け継がれていること」「全農は取扱金額では、農業・食品産業部門の協同組合の中で世界最大の組織であること」等々を解説したところ、聴衆から〝驚きの声と拍手喝采〟があったそうだ。
 同会でライファイゼン協会会長ベルナー・ボーンケ氏は、「協同組合は今こそタイムリーなものだ。......まずは強みを持つ、勇気を持つ、そして他者に頼らない精神を持つ。そうやって成功を収めることが大変重要だ」と発言したそうだ。
 強みに気づかず、勇気もなく、政権与党に頼ろうとする現下のJAグループには、極めてタイムリーな発言である。
 さらに神出氏は、日本経済新聞(29日付)のインタビューで、主な穀物が不足する懸念について問われ、「長期的に需給バランスが大きく崩れることはないだろう。ただ主産国の不作で一時的に均衡が崩れれば、需要量が増えているのでリスクは大きい。日本は備蓄戦略を考えるべき時期に来ていると思う」と、語っている。ぜひ今度は、食料安保、食料主権の視点から、我が国の食料自給率向上に向けた全農の果たすべき役割についての御所見をうかがいたい。

 

◆悪霊退散!

 本日10月31日はハロウィン。わが国では東京の渋谷で馬鹿騒ぎが繰り広げられているが、もともとは秋の収穫を祝い、悪霊などを追い出す宗教的な意味合いのある行事。現下のJAグループにとっては、悪霊を退散に追い込むことを自覚すべき日である。
 「地方の眼力」なめんなよ

 

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