【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第29回 都市と農村の地域格差2018年11月22日
「格差、差別からの解放」と前回書いたが、このうちの都市と農村(山村、漁村を含む)の地域格差については私の子どもの頃それほど感じなかった。
もちろん、本や新聞、ラジオなどで東京の話を見たり聞いたりすると、たとえば私の生まれ育った山形には路面電車や百貨店、動物園などがないなどの差があることは知っていた。だけど生活にはとくに不自由を感じるなどということはなかったのでそれほど深刻な格差とは感じなかった。しかも私の生まれたのは県庁所在地で当時の中都市であり、生家は市街地と田畑の境界の地域にあったので、都市と農村双方の恩恵を受けていたからましてや感じなかったのだろう。
でも、格差をまったく感じていなかったわけではない。たとえば街灯である。私の幼い頃(太平洋戦争前)、街の中の国道には煌々と街灯がついているのに私の住む町外れ=農村部に入ると突然街灯がなくなって真っ暗になり、当時は家々から漏れる電灯の光も少ない(当時は一戸に40ワットの電灯一つか二つくらいしかなかった)ので、月でも出ていなければ提灯を持たないと歩けなかったのである。当時農家はみんな外便所、夜、真っ暗な中をそこまで歩いていくのは子どもの私には本当に怖かった。
しかし、それくらいならまだよかった。純農村部には電気の通じていない地域すらまだかなりあった。戦後山奥の人里離れたところに入植させられた開拓農家はもちろん、既存の、何百年もの歴史のある集落にすら電気が通っていないところもあったのである。
「日本で一番最後に電灯がついた村」と報道されたのは北上山地中央部にある岩手県葛巻町の一集落であった。1962(昭37)年、ようやく電気が通ったのである。そのころはもうテレビ時代に入っていた。そのときにようやく電気が通ったのである。このことは、農村と都市の社会的基盤の格差、文化的な格差がいかに激しかったかを示すものだった。
電話などましてやなかった。町場でさえ電話を引くのに金がかかってなかなか引けないのに、農山村の場合は電柱を建てて電話線を引くなどというのは金がかかり、大地主でもないかぎり引くことなどできなかったからである。
◇ ◇
1954(昭29)年、中村メイ子の明るい歌声がラジオを通じて全国に流れた。
「田舎のバスは おんぼろ車
でこぼこ道を がたごと走る」(注)
まったくその通りだった。主要国道でさえ農村部に入ると未舗装であり、舗装道路がまったくない村が大半であり、まさにでこぼこ道、ほこりの道、雨が降ると水たまりを避けて歩かなければならない道、そして細い道だった。
バスは本当におんぼろ車だった。小さくて、狭くて、がたごと不規則に揺れた。未舗装の道路を走るのだからなおのことである。夏は暑く、冬は寒く、雨が降ると締め切るのでむしむしした。幼いころ、純農村部にある母の実家にたまにバスで行くとすぐに酔って吐き気を催したものだった。
それでもバスが通ればまだいい。バスも列車も通らない町村がたくさんあった。小学校に通うのに往復3~4時間歩くなどという地域は全国のあちこちにあった。
だからこの歌にそれほど抵抗を感じなかった。差別も感じなかった。当時はまだ町場にもでこぼこ道などたくさんあったからである。みんな戦後の明るさを感じながら、これからもっと世の中よくなるだろうと思いながら、この歌を楽しく歌い、また聞いたものだった。
◇ ◇
それから10年も過ぎた1966(昭41)年、さきほど述べた岩手県葛巻町のある集落にバスが初めて通ることになり、地域の人々総出で日の丸の旗を振って歓迎したというテレビニュースが流れた。「田舎のバス」の歌から10年以上も過ぎているのに、その3年前の1963年には名神高速道路が開通したという時代になっているのにである。
その葛巻の道路は未舗装で細かった。そのころ北上山地に調査に行くと役場のジープで案内してくれたが、時間も身体も本当に大変だった。
1970年にまた調査に行ったとき、主要道路のよくなっていることに驚いた。そう言ったら、これは「国体道路」だ、国体が岩手で開かれたので道路の拡張・舗装等の整備が進んだのだ、とくに天皇が通るところの道路は本当によくなったと役場の人が言う。なるほどと納得、そこで私は言った、毎年国体を開いてもらったらどうか、「行幸」を誘致したらどうかと。みんな大笑いしたものだった。
電気や交通ばかりではなかった。農村部における社会資本整備の立ち遅れ、格差は甚だしいものがあった。
(注)『田舎のバス』、歌:中村メイ子、作詞:三木鶏郎、 作曲:三木鶏郎、1954年
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