【小松泰信・地方の眼力】「もみじのワッペン」は叫ぶ2018年12月5日
脚本家の倉本聰氏は、「テレビはどこへ行くのですか?」と題した講演で、12月から高画質の新4K8K衛星放送が始まることに関して「4Kだと言いますが番組の中身が変わるんでしょうか。電機メーカーが稼ぐのではなく、質を高めてほしい」と強く要望した(東京新聞11月10日付)。まったく同感。
◆カナダに見る「暗黒の日」は2019年の日本
日本農業新聞(12月2日付)によれば、11月30日午前(日本時間30日夜)米国、カナダ、メキシコ、3カ国による北米自由貿易協定(NAFTA)の新協定「米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)」に各国首脳が署名した。「無税で輸入される乳製品の数量が、環太平洋協定(TPP)で合意した水準を上回っている他、自国の酪農政策への米国の内政干渉を許す」として、その協定内容にカナダの酪農団体DFCが強く反発。調印の日が「乳業界の歴史で暗黒の日になった」として自国政府を批判。とくに、「乳製品制度の設計や運用を米国の内政干渉で変更した」ことに「主権侵害」と、怒りの声を上げている。
今回の協定をはじめとし、TPP11や欧州カナダ包括的経済貿易協定等々で乳製品の市場開放を決めているが、DFCはこれらが発効すると国内市場の20%近くが輸入品で占められ、「国産が追いやられる」と試算し、批准反対運動を強める方針とのこと。
他方、米国の酪農団体は調印を歓迎し、トランプ政権の努力を称賛する声明を出している。
この「暗黒の日」が、2019年のわが国にもたらされること、間違いない。
◆「もみじのワッペン」は諦めない
12月2日のNHK総合テレビ『小さな旅』は、「開拓の希望 真っ赤に燃えて~鳥取県大山町~」というタイトルで、中国地方最高峰・大山の麓に広がる大山町香取地区を紹介した。昭和の始めに香川県から満州に渡った人たちが、終戦直後の1946(昭和21)年に250人で集団入植し、不毛な大地を開拓して一から作り上げた地区である。
「100年かけて理想のふるさとをつくる」という開拓者たちが、生きるか死ぬかの瀬戸際で一縷の望みをかけたのが「酪農」。現在暮らすのはおよそ100人で、三分の一が酪農を生業としている。「そのほとんどが家族経営です」というナレーションが、家族経営をないがしろにする安倍農政への皮肉に聞こえる。無意識であろうが、よく言った。
今でも大切に受け継がれているのが入植の翌年につくられた「入植記念章旗」。それには毎年11月11日に開かれる入植記念式典にむけて、真っ赤なもみじのワッペンが地域の女性たちによって縫い付けられている。開拓100年の式典で付けられる、「2045開拓100年」の文字が刺繍された特別なワッペンも紹介された。それには、開拓一世の思いが託されている。
当地を訪れた山本哲也アナウンサーは、次の言葉を寄せている。http://www.nhk.or.jp/kotabi-blog/100/310190.html
「『香取』は、ふるさと香川と鳥取から一文字ずつ取ったもの。一旦は満州に赴き、終戦後はふるさとに帰れず、未開の大山中腹に入植した人たちの思いはどんなものだったのか、厳しい大山の自然に向き合い、酪農に生き、戦ってきた香取の人たちの姿がおぼろげながら見えてきた気がします。鮮やかな紅葉のもとにひたむきな開拓精神があったんだと。いや今も受け継がれているんだと。農家の次男で、牛を飼っていた家に生まれた私には伝わってくるものがありました。開拓100年の夢を大切に!」
◆強小農プロジェクトへの期待
日本農業新聞の論説(12月2日付)によれば、韓国は米国など54カ国と自由貿易協定(FTA)を結ぶ中で、大規模路線には限界があるとして、「強小農プロジェクト」、すなわち規模は小さくても、経営感覚に優れ、それぞれが強みを持つ農家の育成に力を入れている。このような農家を韓国では「強小農」と呼ぶ。農村振興庁が推進し、農協中央会も一体となってバックアップしているこのプロジェクト、着実に成果を上げているそうだ。
「『大規模農家だけでは国の農業は成り立たない』のは、日本も同様だ。両国ともに国土面積が狭く、さらに労働力不足に悩まされている。......面積も労働力も限られる中、大規模化一辺倒ではない、小さくても強い家族農業政策の強化が求められる」と、重要な課題を提起している。
「強さ」の中身については多様な意見がある。そこを核として、持続可能な家族農業の確立についての活発な議論が求められる。
◆厚かましい産業界
今年のノーベル生理学・医学賞の受賞が決まった本庶佑氏(京都大学特別教授)のインタビュー記事は痛快(日本経済新聞、12月3日付)。テーマは「革新(イノベーション)への提言」。
「イノベーションとは結果だ。......振り返ってみれば、あれがイノベーションだったと認識される」「政府が旗を振ってするものではない」「政府はあまり規制をせず、ばかげた挑戦をやりやすくする環境整備をすべきだ」「イノベーションの基礎は学術だ。......基礎を固めるのは時間がかかる」と、超長期的視点から腰の据わった取り組み姿勢を政府に求めている。
「文部科学省の科学研究費補助金(科研費)は研究者が自由な発想で研究できる予算で、基本中の基本」として、増額の重要性を訴える。現場のだれもが思っていること。しかし、ノーベル賞受賞者が言うと重みが違う。問題は、聞く耳にあり。
産業界に向けては、「日本の製薬企業は......目利き力が弱い。自社の研究に金を使わない製薬企業の姿勢は疑問だ」としたうえで、「今の産業界はおいしい果実がいくつかできた段階から初めて金を出す。厚かましい」と、容赦ない正論。
◆経団連は大学までも破壊する
その厚かましい産業界を代表する経団連が、12月4日に「今後の採用と大学教育に関する提案」を発表した。提案は多面にわたっているが、「学生に求める資質・能力」には次のように書かれている。
「採用にあたり、理系・文系の別や職種にかかわらず、社会人の資質として、創造性、チャレンジ精神、行動力、責任感、論理的思考能力、コミュニケーション能力、忍耐力、協調性等が重視されている。同時に、学生に求める能力として、リベラルアーツを重視しており、語学(英語)力、情報リテラシー、地球規模課題や世界情勢への関心等を求めている企業が多い。また、座学のみならず、ボランティア活動や起業などの学外活動や社会経験を重視する企業が多い」と記されている。
農業補助金に極めて厳しい批判を浴びせ続けてきた経団連。人材育成コストをケチって、大学に求めるというド厚かましさ。それも、大学のためです、学生のためです、とのお為ごかしで。こんな連中と協議するテーブルに着いた大学は確実に壊される。
「地方の眼力」なめんなよ
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