【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】(111)「規制」と内科医「的」視点2018年12月14日
2018年12月8日から9日にかけて、東京の成城大学で科学技術社会論学会が開催された。今年度の研究大会において、筆者もそのメンバーの一人である研究チームは「ゲノム編集をめぐるガバナンスと市民」と題したオーガナイズド・セッション(オーガナイザー:立川雅司教授、以下、敬称略)を実施した。
セッションは松尾真紀子(東京大学)、立川雅司(名古屋大学)、三上直之(北海道大学)の3名が順に発表を行い、終了後に筆者がディスカッサント(討論者)として論点提示ととりまとめのコメントを述べた。
松尾からはゲノム編集という発展途上の新しい科学技術に対し、ガバナンス形成の重要性、技術と社会の変化速度の違い(ペーシングの問題)、規制のバランスや経路依存性の問題などが報告され、立川からはこうした研究に対する研究者と消費者の認識の非対称性、そして新しい科学技術に関する情報の非対称性の問題、さらに三上からは実際に消費者を対象としたディスカッションの中で見られた新しい科学技術の受容における期待と不安等々、いずれも非常に興味深い内容が報告された。
これらの個別報告に関する質疑の段階で会場からは他のステークホルダーの問題(例えば、産業界)や、規制の妥当性・程度などが出された上で、筆者が簡単なコメントを実施した。以下にその要点を備忘録代わりに記しておきたい。
第一に、規制をはじめとする法令の根拠や趣旨の重要性である。欧米、日本に限らず規制の根拠には様々な理由が考えられ、それは単純に合理性や効率性というものだけではない。先に指摘されたステークホルダーも、生産者と消費者だけでなく、例えば、産業界や宗教界など多様な関係者がおり、何かを主張する人や組織の根本的な考え方が、何に基づいているかを十分に理解しておく必要がある。
ともすると我々は目の前の条文の文言解釈だけに陥りがちだが、その「規制」そのものが何を目的としているのかという立法趣旨をしっかりと理解して議論を進めていくべきであろう。
第二に、松尾・立川両報告の中で、ゲノム編集をめぐる規制は各国で異なり、いわば「モザイク化」してきているという指摘がなされている。これは価値観の多様化、多元化に起因するのかもしれない。一方で、我々の前のセッションで会場から指摘がなされたように、実は多元化ではなく研究資金が集まる分野や領域に一元化しているのではないかという視点は興味深い。これは競争力強化と表裏一体をなすものであり重要点である。
その上で、こうした新しい科学技術に関し、国家という仕組みを超えた社会的合意形成はどこまで可能なのか、そもそも無理なのか、それとも合意形成に向かい努力すべきなのかという非常に大きな問題を含んでいる。恐らく、貿易や共通基準そしてコスト・ベネフィットなどは、今後の大きな課題になると考えられる。
ミクロレベルでは、研究者と消費者やその他のステークホルダーとの意識の乖離が進む中で、ガバナンスはどのようにしていくべきかという問題がある。抽象的に言えば、期待を後押しし、不安を解消するのが理想だが、これは言うほど簡単ではない。今回のような報告を契機に少しずつエビデンスを蓄積していく必要があると考えられる。
最後に、科学技術の進歩がもたらす影響を適切に考えるためには、研究者だけでなく、行政や企業、そして個々人が、適切な将来予測の手法を理解・共有するプロセスが必要になる。もちろん、将来のことは筆者もわからない。それでも、個別の技術がどのように既存の社会に影響を与えるかというインパクト・アセスメント、統計を駆使したフォーキャスティング、さらに、どこで誰が何の研究をどの程度実施しているのかというような情報をしっかりと収集するホライゾン・スキャニングの仕組みなどを整備し、収集した情報を構造化した上で、適切と考えられる将来を予測するフォーサイトの実現までたどり着きたいものである。
以上がコメントの概要である。
新しい技術には常に期待と不安がつきまとう。直接当該技術に携わる技術者ではない筆者ら社会科学者の多くには、名医になれるかどうかは別として、身体の表面から内部や全体の状況を判断する内科医のような視点とスキルが間違いなく求められるのであろう。
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