【鈴木宣弘・食料・農業問題 本質と裏側】「消費者団体」のいろいろ2018年12月28日
消費者団体にもいろいろあるが、「科学的」「客観的」であることを前面に打ち出した団体もある。そうした団体の指摘を見てみると、遺伝子組み換えは安全であること、防カビ剤は安全であることなど、一般に消費者が不安に思っている食の安全に関する問題のどれをとっても、何も不安に思う必要はないと述べており、極めて開発した企業側の発言と一致した内容となっている。
政府の各種審議会には、消費者代表に入ってもらう必要があるが、こうした「科学的」な消費者団体は、科学的なことがわかる消費者の代表として重宝され、最近は、食の安全に関する審議会に参加することも増えているようである。この場合は、推進したい企業側に消費者が懸念を表明するという構図が消えて、双方が賛成となるので、政府も、さぞ進めやすいことだろう。
消費者の団体の方の中には、謙虚に、「科学的なことは、特に文系の私にはわからないので、審議会に出ても確信を持った発言ができないから遠慮する」という人もいる。しかし、この「わからない」ことこそが重要なのだ。そもそも、遺伝子組み換え食品などは長期摂取の人体への影響は「わからない」のである。だから、消費者の直感的な不安が重要なのである。それなのに、至極妥当な意見の方が遠慮してしまって、「科学的」消費者代表ばかりになったら、抑止力がなくなってしまう。
そもそも、自然科学のことがわかる専門家なら正しい、というのも疑問である。特に、自然科学の研究者は、巨額の研究資金を必要とするから、企業なりと一度結びついたら、その技術を否定しづらくなる可能性は高い。研究資金の出所の違いで、「科学的」見地からの発言も真っ向から食い違うこともよくある。
私は40年前、役所に入ったころから成長ホルモンを追っていて、M社が開発した遺伝子組み換え牛成長ホルモンについて、米国のM社と認可官庁と実験したC大学にインタビューに行って驚いた。3者が「○○の理由で大丈夫」という内容が、まるで同じテープを何度も聞いているかのようにそっくりだった。
それはそうだ。M社の社長が認可官庁の長官に「天上がり」、長官が社長に「天下り」、米国ではぐるぐる回るので「回転ドア」という。それから、M社から巨額の資金を得てC大学の世界的権威の教授が実験して大丈夫と言ったのだから、本当に大丈夫なのかはわからない、ということだ。もし、彼が否定的なことを言ったら、研究費を切られて研究室から出されてしまうから、本当のことは言えないかもしれない。
何年か前、東大の大学病院の医師が血圧を下げる降圧剤のデータねつ造で処分された。別の病院の医師から聞いたが、そういう場合は、製薬会社と誓約書を書いているというのだ。薬が効かなかった患者、副作用が出た患者のデータを省いて論文を書くようにと。恐ろしい話だ。
このように、カネを中心としたつながりで、命・健康に関わる「科学的」発言さえ左右されてしまうのだ。だからこそ、(「科学的」消費者団体を否定するわけではまったくないが、)カネではなく、自分や子供たちの健康を真に心配する消費者の「長期の影響はわからないから不安だ」という意見は重要である。
本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
重要な記事
最新の記事
-
米粉で地域振興 「ご当地米粉めん倶楽部」来年2月設立2025年12月15日 -
25年産米の収穫量746万8000t 前年より67万6000t増 農水省2025年12月15日 -
【年末年始の生乳廃棄回避】20日から農水省緊急支援 Jミルク業界挙げ臨戦態勢2025年12月15日 -
高温時代の米つくり 『現代農業』が32年ぶりに巻頭イネつくり特集 基本から再生二期作、多年草化まで2025年12月15日 -
「食品関連企業の海外展開に関するセミナー」開催 近畿地方発の取組を紹介 農水省2025年12月15日 -
食品関連企業の海外展開に関するセミナー 1月に名古屋市で開催 農水省2025年12月15日 -
【サステナ防除のすすめ】スマート農業の活用法(中)ドローン"功罪"見極め2025年12月15日 -
「虹コン」がクリスマスライブ配信 電話出演や年賀状など特典盛りだくさん JAタウン2025年12月15日 -
「ぬまづ茶 年末年始セール」JAふじ伊豆」で開催中 JAタウン2025年12月15日 -
「JA全農チビリンピック2025」横浜市で開催 アンガールズも登場2025年12月15日 -
【地域を診る】地域の農業・農村は誰が担っているのか 25年農林業センサスの読み方 京都橘大学学長 岡田知弘氏2025年12月15日 -
山梨県の民俗芸能「一之瀬高橋の春駒」東京で1回限りの特別公演 農協観光2025年12月15日 -
迫り来るインド起点の世界食糧危機【森島 賢・正義派の農政論】2025年12月15日 -
「NARO生育・収量予測ツール」イチゴ対応品種を10品種に拡大 農研機構2025年12月15日 -
プロ農家向け一輪管理機「KSX3シリーズ」を新発売 操作性と安全性を向上した新モデル3機種を展開 井関農機2025年12月15日 -
飛翔昆虫、歩行昆虫の異物混入リスクを包括管理 新ブランド「AiPics」始動 日本農薬2025年12月15日 -
中型コンバインに直進アシスト仕様の新型機 井関農機2025年12月15日 -
大型コンバイン「HJシリーズ」の新型機 軽労化と使いやすさ、生産性を向上 井関農機2025年12月15日 -
女性活躍推進企業として「えるぼし認定 2段階目/2つ星」を取得 マルトモ2025年12月15日 -
農家がAIを「右腕」にするワークショップ 愛知県西尾市で開催 SHIFT AI2025年12月15日


































