【森島 賢・正義派の農政論】統計不正にみる政治の弛緩2019年2月4日
統計不正、つまり、国家の統計が不正に作られていることが暴露された。それが国会で議論の的になり、マスコミをにぎわせている。
政府は、その不正な統計を悪用して、政策の成果を自画自賛している。野党は、それを厳しく追及している。
政府は相変わらず、一強政治のもとで、のらりくらりと逃げ回っている。こうした不正は、安倍晋三政権になってから始まったのではなく、いまの野党が政権を握っていたときにも不正があった、などといって開き直り、心底からの反省がない。
だが、いまの清廉な野党なら、不正が発覚すれば、政治家がただちに責任を取っただろう。だが、モリカケ問題や公文書偽造問題でみられるように、いまの政権は一強を笠に着て、野党などの追及をはぐらかし、政治家が責任を取ろうとしない。
野党の追及も決め手がない。国民が熱していないからだ。
これは、政治全体が責任をとるべき不正である。それだけでなく、ここには政治家の心の腐敗がある。
政治は最高の道徳といわれるが、いまや政治の栄光は地に堕ちた。安倍政治の道徳は最低だとして、多くの国民から蔑まれている。
統計は大昔からあって、国力、つまり究極的には国家の戦力を、普段から推計しておくことに、その目的がある。
だから、世界中の各国は、5年ごとに大規模な統計調査を行っている。大部分の国はセンサスといっているが、それは人口の全数調査という意味しかない。それでは人口を調査する目的が分からない。
だが日本は違う。日本では、国勢調査といっている。人口は国家の勢い、つまり国家の潜在戦力を表す最も基礎的な数字だ、という認識がある。そして、戦力を推計しておくことは、国家の興亡にかかわる重要な国家事業だという、しっかりした認識がある。
◇
1つの挿話がある。それは、100年ほど前のことである。
ある地方の人が国勢調査の調査員になった。そして、その調査票を紛失してしまった。その人は、オカミから預かった大事な調査票だったとして、自ら死を選んだ。
このことは、全面的に称賛すべきことではない。どんなことがあっても、死を選ぶべきではなかった。まして、このころのオカミは、天皇を意味していた。
しかし、この話は国勢調査の重要さを示すものとして、また、この人の統計調査員としての責任と覚悟の程を知らされたこととして、いまでも語り継がれている。
◇
もう1つの挿話がある。それは、終戦直後のことである。
当時、日本は食糧が不足していた。1千万人が餓死する、と渋沢敬三蔵相がいっていた。そこで吉田 茂首相がマッカーサーに450万トンの食糧の緊急輸入を要請した。しかしマッカーサーは、70万トンしか応じなかった。それでも大量の餓死者は出なかった。
このとき、マッカーサーから日本の食糧不足を推計した根拠の統計の甘さを指摘された。それに対して吉田は、日本にそれ程しっかりした統計があれば、アメリカと戦争しなかっただろう、と言ってのけた。
それ以後、日本の統計、ことに農業統計が整備され、世界に冠たる統計になった。
◇
しかし、いまの安倍晋三政権は違う。戦前へ戻ることを良しとする政治のもとで、統計関係の公務員を減らし、統計も戦前に戻そうとしている。そうして、政権に都合のいい統計を捏造して憚らない。
それは、弱者の困窮を覆い隠す統計であり、だから、強者にとって、心地よい、好都合な統計である。
だが、これを見逃すわけにはいかない。弱者はこんどの統計不正で実害を受けている。弱者たちが受けた実害は、利息をつけて、また詫び状を添え、慰謝料を加えて、すぐに補償すべきである。
野党は、その先頭に立たねばならない。
◇
統計不正の議論にみられる安倍政権の傲慢の根源には、安倍一強政治がある。これを打破する機会が半年後の参院選である。しかし、野党の選挙協力が進んでいない。これでは、政権奪取の意気込みがないように思える。野党も弛緩している。
ある党首は、まだ早い、などと呑気なことをいっている。野党統一候補を決めるためのボス交渉を始めるのは、まだ早いというのだろう。
その一方で、ある野党幹部は、アメリカのような予備選挙を提案している。予備選挙になれば、統一候補はボスが決めるのではなく、有権者が決めることになる。どちらが民主的か、は明らかである。
そうなれば、参院選は身近なものになり、党の地方組織を強化できるだろう。有権者は白けてはいられない。マスコミも注目するだろう。
真剣に検討したらどうか。弛緩している政治に、鋭い緊張感が走るに違いない。
(2019.02.04)
(前回 政府に危機感を抱かせよう)
(前々回 官邸農政から県農政審農政へ)
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