【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】(119)弱者の戦略2019年2月15日
昔から日本では「ヒト」「モノ」「カネ」を経営における重要な要素としてきた。これらに加え、最近では「情報」も需要な要素の1つである。これらは一般的に「経営資源(リソース)」と呼ばれている。そして、これらを備えた場合とそうでない場合では動き方、戦い方が異なることも良く知られている。
経営学の世界では、「強者の戦略」と「弱者の戦略」という分類がなされることがある。「ランチェスター戦略」としても有名である。この法則を解説した書籍やウェブサイトは複数あるため、ここでは1点に絞り話をしたい。
「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」などの経営資源が無い人や組織はどうしたら生き残れるか? こうした問いを出すと、多くの人はすぐにいろいろ考え始める。あの手はどうだ、この手はどうだ...と。これは学生や社会人の研修などの際、グループ・ディスカッションなどを行うと即座に各種のアイデアが出ることから容易に想像がつく。
しかしながら、こうしたディスカッションで出た多くのアイデアはほとんど使い物にならない。その理由は「考え方」に問題があるからだ。経営資源が無い人や組織がどう生き残るかを考えるには、「経営資源が豊富な組織ならどう考えるか」を考え、その逆をやれば良い。これがポイントである。
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大企業には「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」は十分にある。彼らがある戦略で成功した場合、それは十分な量の経営資源を活用した結果である。そして、それは様々なメディアを通じて宣伝される。経営資源が豊富故にそれが可能となる。だが、中小企業や個々の農家などが大企業と同じ戦略を採用しても勝てる可能性は著しく低い(ゼロではない。相手が勝手にミスすることもある)。
ランチェスター戦略における「強者の戦略」とは、機関銃のような兵器を用いて、敵から離れたところに陣を敷き、広い戦闘地域で戦う方法である。順に確率戦、遠隔戦、広域戦という。現代の商品販売で言えば、メディアを通じて全国規模で常に宣伝を流し、最適生産が出来る場所で集中生産し、広範な地域の消費者を対象に販売するようなものだ。学校の教科書では基本的にこうしたことを教えることが多い。
経営資源が豊富でこれが出来る農家やJAは意外に少ない。それにもかかわらず、同じことをやろうとしている農家やJAは多い。理解することは大事だが、実際に行うことは戦略の誤り以外の何物でもない。一時的に成功しても持続性・継続性がない。経営資源が足りないからだ。
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では「弱者の戦略」とは何か。「強者」の逆をやればよい。確率戦の逆は一騎打ち、遠隔戦の逆は接近戦、そして広域戦の逆は局地戦だ。つまり、不特定多数の消費者よりも、少数限定の業務用需要や固定客、遠隔地からの輸送ではなく地元で生産から加工までを担い、販売地域を限定する。概念的に言えば、必ず買ってくれる優良顧客を少数確保し、その顧客には徹底的にサービスして常にリクエストに応えるようにしておくことだ。
これは難しいが意外に効果がある。地方に行くと、大都市の感覚ではほとんど絶滅危惧種のような商店や企業が不思議に残っていることが多い。東京や大阪では知られていなくても、限定された地域ではしっかりと地元に根付いており、愛されている。そうして生き残った堅実な創業者の代はともかく、親と異なることをやろうとする2代目3代目あたりが野心を持ち首都圏に進出し、大手の真似をすると遠からず失敗する。よくある話だ。
そもそも、地方の農家やJAは地域にしっかりと根を下ろしたローカルな存在である。最近でこそ全国各地の産品がどこでも入手可能になり、組織も大きくなったが、本質的には個々の農家、つまり市場経済の中での弱者(悪い意味ではない)が集まった組織ということを忘れてはならない。これは別に恥じることではない。弱者には弱者なりの戦い方があるにもかかわらず、強者の戦い方を模倣するからおかしくなる。
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「ならば現実にオレの農作物を売ってみろ」という声が聞こえてきそうだが、筆者には残念ながら難しい。ただ、有り余る経営資源を備え、特定の品目や分野・特徴に特化できる人や組織と、1人で何もかもやらねばならない人や組織では、戦い方や生き残り方が絶対に違うということだけは、JAの全国組織と地方の小規模組織の両方を経験した故に体感としてわかる。だから筆者自身も大手の真似をせず、自分なりの戦い方を考え続けるしかない。これは農家もJAも同じはずだ。
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