【小松泰信・地方の眼力】紙幣刷新より疲弊刷新2019年4月10日
「国政選挙も近づく。安倍政権は『1強』をかさに農協改革やTPPを押し通してきた。荒れ放題になっている田畑の草取りを本気で考えた方がいいかもしれない」とは、日本農業新聞(4月9日付)のコラム「四季」。
◆「総保守」堅調
統一地方選挙前半戦が終わった。自民党の堅調な戦いぶりを評価する読売新聞(4月8日付)の社説は、唯一与野党対決となった北海道知事選において、自公推薦の新人が野党統一候補を大差で破ったことを、「自民党が農業団体や経済界の支援を得て、組織力を生かした選挙を展開したことが奏功した」と分析する。さらに、「労働組合など野党の支持層が比較的厚い北海道で敗北」したことから、野党共闘体制の立て直しの必要性を示唆する。農業団体とは、JAグループのはず。これじゃ荒れ放題に拍車がかかる。
毎日新聞(4月9日付)の社説も、「自民は堅調」とする。そして、大阪維新の会も、「憲法改正など政策全般をみれば安倍政権に近い」とし、「大阪も含め『総保守』の堅調ぶりが目立ったのが統一選前半戦の結果だ」と総括する。ただし、「自民党が堅調なのは野党の弱さに支えられているからだろう」として、「『反安倍』の旗を掲げるだけで地方選は戦えないことははっきりしている」、「自民党のスキャンダルを追及する空中戦に頼るばかりではなく、総保守に対抗する政策と人材の蓄積に地道に取り組む必要がある」とは、頂門の一針。
◆赤の他人のアドバイス
産経新聞(4月9日付)の主張も、「夏の参院選で実動部隊となる地方議会に限ってみれば、自民党はひとまず、基盤強化に成功したといえよう」と評価しつつ、「安倍1強」にあぐらをかく自民党の慢心を戒める。その一例が、大阪府知事・大阪市長選で自民推薦候補が大阪維新の会に敗れたこと。
「『大阪都構想』への支持以上に、しらけた有権者が自民党の体たらくにノーを突き付けたのではないか。理念も政策も違う与野党がなりふり構わず共闘する姿は、滑稽を通り越し醜悪だ。有権者を愚弄しているとみられても仕方あるまい」との見立ては、愛するが故の厳しさか。共産党との共闘が特に気に障ったようで、共産党に対しても、「無党派や保守層への浸透を図る戦術に傾くあまり、『唯一の野党』を掲げていた、かつての面影が失せつつあるのが退潮の一因だろう」とのこと。赤の他人の鋭きアドバイス。
◆選挙結果以前の深刻な問題
朝日新聞(4月9日付)の社説は、道府県議選の平均投票率が44.08%と戦後最低、かつ41道府県のうち33道府県が最低を更新したことから、「国でも地方でも、有権者が関心を寄せなければ、政治や行政の規律はゆるむ」として、「政治に緊張をもたらすのは、厳しく監視する有権者の一票の積み重ねにほかならない」ことを強調する。
地方紙の多くが同紙以上に、低投票率や無投票選挙区の増加という、選挙結果以前の問題を深刻に受け止めている。
デーリー東北(4月8日付)の社説は、県政与党の肥大化による監視機能の低下を危惧する。議員に対して、「是々非々で判断しているか、立ち止まって考えてほしい。問題の本質がどこにあるか、"思考停止"に陥ってはいないだろうか。議員は党人や会派の一員である前に、まず一人の議員であるべきだ」と、訴える。さらに、「住民と十分に対話もできているか」と問いかける。なぜなら、「早大マニフェスト研究所の2018年度議会改革度ランキングでは、青森県議会が全国の都道府県でワースト3。特に住民参加の分野では最下位だった」からである。
翌9日付の同紙社説は、無投票選挙区解消策として、議員報酬の引き上げや定数削減の前に「魅力ある議会づくり」が先決とする。また大きな進展が見られない「地方創生」と、地方に波及しない「アベノミクス効果」が作り出す「あきらめムード」を低投票率の主因とし、「議会の活性化を図り、有権者に興味を持ってもらう方策について知恵を絞らなければならない」と、説く。
南日本新聞(4月9日付)の社説は、「拍車がかかる過疎・高齢化の問題など、地方が直面する課題は山積している。にもかかわらず、有権者の6割近くが棄権した現実は極めて重い。住民との距離が広がったままでは、地方自治は成り立たない。自治の根幹を揺るがす重要なテーマとして受け止めるべきだ」と危機感を募らせ、「若い世代に選挙の重要性を伝える啓発活動」を提起する。
秋田魁新報(4月9日付)の社説も、「急速に進む人口減と少子高齢化にいかに臨むかは、喫緊の課題である。さらに今回は、政府が秋田市の陸上自衛隊新屋演習場に配備を計画している迎撃ミサイルシステム『イージス・アショア』(地上イージス)にどう対応するのかが問われた。これほど重要な問題が山積しているにもかかわらず、盛り上がりを欠いたのは深刻」とする。事態克服のため、県議会には、「いかに県民との『距離』を縮め、本県に必要な政策を実現できるかが問われている」と発破をかけ、有権者には、「県議一人一人の活動を注視」せよと、力説する。
さらに高知新聞(4月8日付)の社説も、「選挙権年齢が『18歳以上』となってから初の県議選。にもかかわらず有権者の5割余りがそっぽを向く、というのは危機的な状況だ。代議制民主主義の存立基盤が揺らいでいることを改めて示している」と、切実な状況を示す。無投票選挙区が過去最多タイの5区に及んだことについても、「まともな選挙ができにくいほど、地方の疲弊がまた一段と進んだということではないか」と分析する。
◆女性の政治参画の道を拓け
山陽新聞(4月9日付)の社説は、女性の政治参画に向けた政党の努力を求めている。岡山県議選では、女性の立候補者8人全員が当選し女性議員の数は過去最多、女性の割合も14.5%と過去最高を更新した。しかし、道府県議選での当選者のうち女性は全体の10.4%であることから、2018年5月施行の「政治分野の男女共同参画推進法」がめざす「均等」への道のりは遠いとする。候補者や議席に占める女性割合を定めるクオータ制の導入の必要性を説くとともに、地方議員らでつくる「出産議員ネットワーク」が2018年10月に「育児関連の休暇規定の整備を各地方議会団体に要請した」ことを紹介している。
◆紙幣刷新がそれほど慶事か
元号で空騒ぎを演出したかと思えば今度は紙幣刷新とのこと。狙いは、統一地方選挙後半戦の勝利か、支持率向上か、はたまた参院選か。ブラック広告代理店のシナリオ通りに、メディアも上機嫌の国民だけを映し出し、「浮かれにゃソンソン」のムードづくりに精を出す。刷新理由の一つが偽造防止とのことだが、偽造捏造政権の一翼を担う、頭カルロス・ゴーマン・麻生氏による発表とくれば新紙幣を飾るお三方も迷惑千万のハズ。刷新すべきは、現政権と地方の疲弊。
「地方の眼力」なめんなよ
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