【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第48回 子どもの家事手伝い2019年4月11日
前回触れた「家族ぐるみの厳しい労働」、まだ手労働・畜力中心の時代の話だが、これを子どもだった私の体験(敗戦をはさんでの20年間)を中心にもう少し話をさせていただきたい。
小学校に入るころ、日課としてまず最初に与えられたのが、毎朝の庭と土間の掃除だった。今考えてみればせまい場所なのだが、子どもにとってはかなり広く、毎日の日課がつらい。また朝夕の縁側の雨戸の開け閉めがある。立て付けの悪いしかも重い板戸を10枚も動かすのはけっこう大変である。ときどきは縁側の雑巾がけを命じられる。いっしょに寝ていた祖父母と私の布団をたたむのも私の仕事となる。子どもの私が寝ているうち、暗いうちから起きて働くので、残された私がたたんで押し入れに入れるのである。
冬は雪掻きである。雪の積もった朝、玄関から門まで、裏口から井戸小屋、畜舎、作業小屋まで、さらには家の前の道路を、木製の雪箆(ゆきべら)て人が通れる程度に雪を両脇にはねのけるのである。雪の降り始めのころは楽しくて喜んでやるが、本格的な雪になると子どもにはけっこう大変な仕事だった。それから屋根の雪下ろしである。もちろん大人の手伝いでしかないのだが、下した雪を登れば屋根の上に登ることができる等々の非日常の体験、これは楽しかった。
台所仕事は、かつお節削り、大根おろし、とろろすり、ごますり、クルミ割り、みがきにしん叩き、正月・旧正の餅切り等々の細かい手伝いが命じられる。
ただし、料理の手伝いは絶対させられなかった。男は台所に立つものではないというのが祖母の口癖だった。ただし、生家の場合食べ終わった自分の茶碗や皿は家長の祖父以外男も台所まで運んだが。洗濯も男の子はしなくともよく、女の子は手伝わされた。
少し大きくなると、ご飯焚きだ。ご飯は稲わらで炊いていた。かまどの前に座り、祖母か母にくるっとまるめてもらったわらの束を一つずつかまどの中に入れ、燃え終わるとまた入れるを繰り返す。沸騰してくると、わら入れをやめる。真っ赤になったわらの燃えかすが残り火となり、いい味に炊きあげる。
籾殻を燃料にする糠窯(ぬかがま)もあり、この籾殻を小屋から石油の空き缶に入れて運び、円筒形をした窯をいっぱいにするのも子どもの仕事だった。
大変なのは水汲みだった。今のように水道があるわけではないので、家の外にある井戸のところから手桶に汲んで台所に運び、流しにある大きな甕にそれをあけて貯め、そこからひしゃくで汲んで飲み水や料理、洗い物に使っていた。この水汲みが子どもの仕事になる。もっと大変なのが風呂の水汲みだ。何度も何度も井戸と風呂場の間を手桶に水を入れて往復しなければならないからである。最後には息が切れ、腕がしびれるくらいになったものだった。
それでも私の家の場合などはまだいい。屋敷内に井戸があるからだ。私の母の実家の集落などは地下水位が高くて井戸が簡単に掘れず、集落の中に一か所共同の井戸があるだけ、そこから50m、天秤で水運び、これが女と子どもの仕事だった。
やがて風呂焚きも仕事となる。鉄砲風呂だったので、鉄砲に杉の葉を入れてそれに下から火をつけ、木の小枝にそれを燃え移らせ、その火が太い薪につくようにする。薪に完全に火がついたら、亜炭を入れる。亜炭に火が点けば安心である。こううまくいけばいいが、途中で消えてしまったりすると、最初から全部やり直しで大変である。
当然の事ながら、火をつけるのも子どもの仕事である。マッチで、あるいは付け木にいろりの火などを移してきて、火をつける。
話は現代に飛ぶが、オール電化の家の子どもは火をまともに見たことがあるのだろうか。それが人間としての進化なのか退化なのか、ときどきわからなくなるのだが、どうなのだろう。
高学年になると風呂や囲炉裏用の薪割りも仕事となる。生家の近くには林野がなく、山村もしくは燃料屋から薪を購入するのだが、30cmくらいに切られている丸太の薪を囲炉裏や風呂の燃料になるようにマサカリを振り上げて二つもしくは四つにすぱっと割る、これが上手にできるようになるのはけっこう大変だった。もう何十年もやっていないが、今やっても上手にやれるはずである。もうそれだけの力が残っていないかもしれないが。
ちょっと脱線、今「亜炭」と言ったが、学生のほとんどはわからない。それはそうだろう、石炭でさえ知ってはいてもまともに見たこともないのだから。私たちは小学校から大学まで亜炭ストーブだったのだから日常だったのだが。そこで私はこう説明する、大昔の森林が泥炭化を経て何万年かけて石炭になる、その石炭になる手前の状態、石炭と泥炭(これは学校で習うらしい)の中間の状態の炭を言うのだと。そういうと何とか理解してもらえる。それにしても時代が変わったものだ。
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