【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】(130)「白紙委任状」「賺錢」「GDPR」2019年5月10日
英語には、弁護士や法律家を現す言葉がいくつも存在する。一般的な名称として「法律家」を表すlawyerは法律(law)に「er」を付けただけなのですぐにわかるが、その他にattorneyという単語が用いられる。この単語は「代理人」という意味のため、attorney at law という言い方がいわゆる弁護士になる。さらに、やや高度な受験英語などでは、solicitor とbarrister という単語が登場する。丸暗記の受験時代を経て最後の2つの区別を筆者が知ったのは社会人になってかなり時間が過ぎてからである。
さて、各々の単語の細かい意味は時間のある時にでもじっくり調べて頂ければよいが、ここでは最初の単語「attorney」に戻る。日常生活で良く使う表現に「power of attorney」というものがある。直訳すれば「代理人の力」だが、これは「委任状」のことだ。そして、いわゆる「白紙委任状」はその名の通り「blank power of attorney」 と言う。
金融関係における「連帯保証人」の怖さと同様、「白紙委任状」の怖さはわかっているようで、余り知られていない。というよりも実感している人間が少ない。遺産相続などでドロドロになった漫画やドラマで「白紙委任状」が登場するケースがある位で、一般人には縁が無いと感じているかもしれない。
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しかしながら、これに近い状況は我々の多くが無意識に日々経験している。ここまで携帯とSNS、そして無料で活用可能な大量のアプリが普及すると、筆者ですら利便性を考慮してSNSや無料アプリを数多く使用している。例えば、多くのSNSではアプリをダウンロードして登録し使用を開始する際に、ほとんどの利用者が読まない膨大な「利用規約」が示される。これらについて「同意」しなければ先へは進めない仕組みである。この全てをじっくり読んだ人はほとんどいないはずだ。
さて、SNSやアプリの「利用規約」の多くには氏名、年齢、性別等の個人情報の登録が必要であり、それらの情報は適切に管理された上で、提供している企業側が活用することを認める条項がある。より具体的に言えば、利用者の関心を惹くような適切なコンテンツや広告が表示されることなどを利用者本人が認めた上で、初めて使用可能になる仕組みである。
入力した個人データや閲覧した様々なサイトなどの履歴は全て集約され、ビッグデータと称され企業側が利用者の行動や嗜好を解析するために用いられる。その結果、個別利用者の好みに適合した広告が常に表示され、つい「ポチっと」してしまうことになる。
ややこしいのは、これは各個人が自発的に同意した上で、個人情報を提供していることだ。そして、その内容をビッグデータとしていわば抽象化・非人格化した上で、再度、個別にフィードバックしている点である。いわば、実質的には個人情報利用に関する「白紙委任状」を企業側に与えているにもかかわらず、それを我々自身が余り認識していないという点であろう。
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こうした仕組みを考える人たちは非常にアタマが良い。ただし、必ずしも倫理性が高い訳ではない。ここは重要なポイントだ。日本語では「金儲け」というと何やら微妙なイメージがあるかもしれない。Webの翻訳によると中国語では「賺錢」というようだ。「賺」という漢字は現代日本語では余りなじみがないが、「スカす」と読み、「機嫌をとって、こちらの言うことを聞き入れるようにさせる」「言いくるめてだます」「「相手をうまくその気にさせる。おだてる」(いずれも「デジタル大辞典」より)という意味がある。「賺錢」とは流石にうまい言い回しであり、物事の本質を突いている。
これが英語になると「monetize」となる。つまり、何かの対象をお金に変換することをマネタイズという訳だ。権利の証券化などもマネタイズである。言うまでもなく、我々の個人情報が誰かの「お金」になることは明らかだが、その条件として、個人が特定されず、情報が適切に管理され...た上で、一定の利便性を享受するという「白紙委任状」を自ら出していることが前提にあることは言うまでもない。
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少し、こうした事に興味がある方のため、ほぼ1年前の2018年5月25日に施行されたEUの「一般データ保護規則(GDPR:General Data Protection Regulation)」を紹介しておきたい。「GDPR」という略語がどの程度普及しているかはわからない。だが、個人データを目先の利便性のために「白紙委任状」的に丸投げし、先方が収益化(monetize)することに対して一石を投じる動きがEUでは既に始まっていることは覚えておいて良いと考える。
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