【森田実の政治評論】「令和元年夏衆参同日選挙」論に振り回され国民から遊離する政官財界とマスコミ2019年5月22日
「人、遠き慮りなければ、必ず近き憂いあり」(孔子)
◆行き当たりバッタリズム政治の限界
古代ギリシャの詩人ホメロスの詩の中に「勝利は同じ人間の上には永くとどまることはない」という言葉があります。19世紀の米国の思想家エマソンも「どんな英雄でも最後には鼻につく」と言いました。
安倍総理は2012年12月の衆院選以来の国政選挙と統一地方選挙で勝利を重ねてきました。第二次大戦後の日本では、これほど長期間にわたり国政選挙と大型地方選で勝利をつづけた政権はありません。この意味で安倍政権は「奇跡の政権」です。この原因は明らかです。「野党の無力」です。「野党不在」と言っても過言ではありません。
しかし、連続勝利にも必ず終わりがきます。野党が無力であっても、国民の意識が変わり始めているからです。たしかに、安倍政権の内閣支持率は落ちてはいません。原因の一つは「平成」から「令和」への転換で国民の気持ちが少し明るくなったことです。しかしこの影響は一時的です。国民意識という上部構造に少し変化はあっても経済状況などの下部構造は変わっていないからです。
安倍総理と側近の中に、2019年夏の参院選について危機感があります。とくに2007年夏の参院選での大敗北は安倍総理にとって悪夢のような忘れられない苦い思い出のはずです。安倍総理らが2019年参院選を乗り越えるために「衆参同日選」の断行を考え始めていることは明らかです。
最近、永田町でよくいわれる言葉があります―「はじめに衆参同日選ありき。大義名分はあとから考える」です。「消費税10%導入時期の延期」にしようか、「野党提出の内閣不信任案を解散」の理由にしようか、などなど、目下検討中です。
しかし、このような安倍政権の存続だけを自己目的とした「行き当たりバッタリズム政治」に多くの国民は「飽き」を感じ始めています。「今の政治家は日本国民の将来を真剣に考えていないのではないか」という見方が社会の底辺に広がりつつあることに、政治家は気付くべきです。
◆国民はあらたな長期的ビジョンを求めている
最近のインターネットの普及は国民の意識を変えています。誰もが自分の考えを発表できるようになりました。多くの組織・集団が将来ビジョンをインターネットを通じて発表しています。既存のマスコミは立ち遅れています。
多くの集団が過去を統括し将来への展望を研究し始めています。
過去半世紀、世界の主流は新自由主義・競争至上主義・弱肉強食主義でした。強者だけが威張り、弱者は滅びる時代でした。それは、今もつづいています。
しかし、いま、草の根から新自由主義の生き方への反省と批判が湧き出してきています。弱者がインターネットを通じて声を出し始めたのです。
たしかにトランプ米国大統領の弱肉強食政治は激しく展開されています。米中対立から目を離せません。安倍政治の新自由主義政策も続いています。しかし世界中で脱「弱肉強食主義」の動きが広がり始めているのです。諸々の集団が作成したビジョンを調べれば、弱肉強食主義を克服するため人道主義的な理想を求め始めていることがわかります。
人々は美しい自然と豊かな農村を求めています。健全な家族主義の復活を望んでいます。自由競争至上主義から人間尊重の調和主義を志向し始めています。
安倍政権は農業に資本主義経営を持ち込もうとしてきましたが、これ以上はやめるべきです。農業経営の主体は協同組合と家族でなければなりません。
第二次大戦後の日本は工業中心社会に適合するため家族の形を大家族中心から核家族に変えましたが、この結果家族の力が弱まりました。いま核家族化への反省とともに大家族復活の気運が高まってきているのは当然のことです。企業は新自由主義に移行する際家族主義を捨てましたが、これは大きな過ちでした。地域においても家族主義の復活が求められています。人間尊重の新ビジョンを議論すべき時がきているのです。
◆広く会議を興し万機公論に決すべし
最近の政界、官界、財界、報道界、学界をみますと、明らかな活力の低下がみられます。とくに目立つのが安倍総理と総理官邸への過度の忖度です。政治権力者への脅えと言ってもよいと思います。とくにマスコミ界の官邸権力への過度の脅えは異常です。権力に脅えるマスコミは社会の障害物です。勇気なきジャーナリストは不必要です。言論の自由の衰退は社会を衰退させます。現在の日本社会の危機の最大のものが言論の自由の衰退です。社会の活力を高めるためには言論の活性化が必要です。
いま自然発生的に高まり始めた未来ビジョンに関する議論を高める必要があります。活発なビジョン論争を起こすべきです。政治家にこの議論を主導してほしいと願います。
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