【小松泰信・地方の眼力】大義を大儀がらずに考える2019年5月22日
私の一日はNHKのEテレ(教育テレビ)ではじまる。6時25分からのテレビ体操で体を動かし、にほんごであそぼ、えいごであそぼ、そして0655と続く。たったこれだけだが、Eテレのクオリティーの高さがうかがえる。褒めると、現政権がここにまで介入しそうなのでこれまでふれなかったが、しんぶん赤旗(5月20日付)が、「質の高い語学、最新研究を踏まえた科学や歴史番組など……世界的にも貴重な教育専門チャンネル」として取り上げていたので、賛意を表す。
◆付ける薬のない議員にはマニュアルの効果なし
5月16日付の新聞各紙は、自民党が「『失言』や『誤解』を防ぐには」と題したマニュアルを作成し、同党所属国家議員らに配布したことを伝えている。まぁ手取り足取りの内容。党幹部も「自民党は幼稚園も併設していますと看板を掛け直さなければならない」と嘆いているそうだが、これもまた幼稚園に失礼千万な話。
このマニュアルに効果がないことを、委員会で般若心経を唱え有名になった谷川弥一衆院議員(長崎3区)が証明してくれた。
東京新聞(5月20日付)によれば、九州新幹線長崎ルートで未着工の新鳥栖-武雄温泉(佐賀県)の新幹線建設に反対している佐賀県の対応に関して、佐賀県知事に「韓国か北朝鮮を相手にしているような気分だ」と発言したとのこと。当然、佐賀県関係者は「整備方式は短時間で簡単に決められる話ではない。あまりにもひどい発言だ」と反論。
氏は不適切発言だったので「謝罪、修正したい」とのこと。後付けのウソを重ね、口先だけの謝罪、修正となるはず。
◆大学の在り方も歪める「大学無償化法」
先週の当コラムで「大学無償化法」をまやかしとしたが、元文部科学事務次官の前川喜平氏(現代教育行政研究会代表)は、東京新聞(5月19日付)の「本音のコラム」で、無償化にほど遠いという問題に加えて、「支援の対象者に所得以外のさまざまな条件がつけられること」をあげている。「高校卒業後二年までに入学した者に限る」がその例で、生涯学習の理念に反しており、「入学年齢で差別するべきではない」とする。さらに、「実務経験のある教員による授業科目を一割以上配置し、法人の理事に産業界等の外部人材を複数任命する」といった条件を満たしたものが法律上「確認大学等」となり、それ以外で学ぶものは支援を受けられない。これに関して「法の下の平等に反する」とバッサリ。返す刀で、この「無償化」なるものを、「学生を人質にとって、大学に対し産業界の要求に応じる教育を行うよう迫り、大学の在り方を歪める政策」と、とどめを刺す。
◆地方議会の危機と打開策
日本農業新聞(5月20日付)の「論点」で、総務大臣経験者である片山善博氏(早稲田大学大学院教授)は、今回の統一地方選挙において無投票当選が多かったことを取り上げ、「議会の劣化は免れない」とする。そして、「自治体には重要な課題がめじろ押しである。その自治体の方針や取り組むべき施策を最終的に決めるのが議会なのだから、その議会の劣化が進むのは由々しき事態だと認識しなければならない」と、警鐘を鳴らす。
議員のなり手不足については、「地方議会の仕組みが今日の社会にそぐわなくなっていることに原因がある」とのこと。地方議会のほとんどが年4回の定例会方式を採用しているが、それは水田農耕を中心とする社会に対応したもので、農繁期を避けているのは議員のなり手として専業農家を想定したもの、との推察は興味深い。今日では、専業農家は極めて少数派。ほとんどが会社等に勤務しているから、議員のなり手は確実に減っていく。
さらにワクワクしない原稿棒読みの儀式的議会では、「若い人たちにそっぽを向かれて当然だろう」とする。
そこで、隔週金曜日の夕方に議会を開き、会社員、兼業農家、JA職員なども議員になりやすい環境を作り、儀式をやめ、地域のことを真摯にかつ闊達に話し合って決める議会運営に努めることを提案する。
今回の統一地方選挙から得られる教訓として、「議会の現状を顧みることなく、ただ議員のなり手不足を嘆いているだけでは、地方はじり貧を脱することはできない」ことをあげている。
◆議会が遠ざかる旧村
地方議会の存在意義を考えさせるのが、西日本新聞(5月9日付)の「平成大合併 細る旧村」という記事。2002年の日韓ワールドカップの時に、カメルーン代表のキャンプ地となった大分県旧中津江村を取り上げている。05年に旧日田市に編入合併し、「周辺部」となる。旧村の役場は「振興局」になり、職員は40人から12人に減。現在の人口は約750人。今年4月の市議選では隣の旧上津江村を含め地元出身の候補はゼロ。村議時代は80票あれば当選できたが、市議の合格ラインは千票。村民全員の票を集めても届かず、議会が遠くなっている。それは合併域内での格差拡大と、周辺部の衰退を加速させている。何のための大合併だったのか、嘆息を禁じ得ない。今、何に取り組まねばならないのか、重い課題を投げかけている。
◆興味深い「穏健な多党制」
毎日新聞(5月8日付)の「論点」は、元経済企画庁長官の田中秀征氏のインタビューを載せている。特に興味深かったのが、「穏健な多党制」の実現を目指した、選挙制度改革の提言である。
――令和時代の政治がまず手をつけるとしたら、衆院選挙制度の見直しだろう。中選挙区連記制などが望ましいが、現実的な改正案は、関連法が審議された93年当時の当初の政府案だ。小選挙区比例代表並立制を導入するが、小選挙区と比例代表の議席を250ずつ配分するものだった。現行制度よりも比例代表の配分を増やし、2大政党ではなく、『穏健な多党制』を目指す。例えば、原発を厳しく監視するような政治家は小選挙区で立候補しても当選できない。しかし、全国比例にすれば20~30人は出てこられる。政治が電力会社や原発の規制行政を常に監視していれば、東京電力福島第1原発事故は起きなかった。これまでのように、経済成長のためにエネルギー消費を拡大し続けていいのか。多様な声を国政に届けられるよう選挙制度面でも配慮すべきだ。
◆今だからこそ考える
衆参同日選挙を巡って賑やかになってきた。大義の有無がかまびすしい。何とでも言える話。あの国難突破解散を思い出すだけで十分。無法者集団の現政権、どんな手でも使ってくる。このことこそが国民にとっての大義。大儀がらずに、議会は、議員は、有権者はどうあるべきかを考える。我々を取り巻く状況が、悪くはなっても良くはなっていない.今だからこそ。
「地方の眼力」なめんなよ
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