輸出の人気切り花スイートピー生産の危機【花づくりの現場から 宇田明】第72回2025年11月6日
花の輸入額618億円(2023年)に対し、輸出額は81億円。
内訳は、植木・盆栽が62億円を占め、切り花はわずか17億円にすぎません。
しかし、切り花生産者にとって輸出は、金額では測れない価値があります。
自らが育てた花が「世界一の高品質」として評価されることは、大きな誇りであり、ロマンでもあります。
なかでも、海外で特に人気が高いのがスイートピー。
スイートピーの存在が、グロリオサやラナンキュラス、トルコギキョウなど他の品目の販売を牽引しているといっても過言ではありません。
実際、スイートピーの輸出が3月で終了すると、他の花の注文も一気に減少します。
その海外で人気の切り花、スイートピーの国内生産がいま危機的な状況に陥っています。

スイートピーは、1970年代までは神奈川県湘南、兵庫県淡路島、岡山県船穂の3産地だけで細々と栽培されていたニッチな品目でした。
しかし、1980年代後半に生産が爆発的に拡大し、宮崎県・大分県・和歌山県などに大産地が誕生しました。
農水省の統計には含まれませんが、市場入荷量から推計すると、1980年代前半の生産量は年間2,000万本ほど。
それが1990年には1億本を超え、花産業の絶頂期である1996年には1億8,000万本に達しました。
拡大の要因は、エチレン阻害剤(STS)処理の実用化です。
スイートピーはエチレンに最も敏感な花で、収穫後数日で花弁が落ちてしまうほどでした。
STS処理によって日持ちが飛躍的に長くなり、消費が一気に増えました。
しかし、その勢いは1990年代半ばまでです。
それ以降30年にわたり減少が続き、2024年の推定生産量は4,000万本。
ピーク時から実に8割減です。
生産が減れば輸出に回す余力はなくなり、国内需要を満たすのが精一杯になります。
農水省は2030年に切り花輸出額46億円を目標としていますが、スイートピーの減少はその実現を一層難しくしています。
では、なぜ海外で人気のスイートピーの生産が減っているのでしょうか。
最大の理由は「手間がかかるのに単価が安い」という構造的な問題です。
マメ科のスイートピーは茎が4~5mにも伸びるため、定期的な「つる下げ」作業に多大な労力を要します。
にもかかわらず、軽く小さい切り花のため単価は低く、ブームが去った後の市場価格は30円前後で30年間ほとんど変わっていません。
その結果、後継者や新規就農者は現れず、生産者の高齢化とリタイアが進んでいます。
さらに、スイートピーは低温性で出荷期が11月から3月に限られ、常時雇用が難しいことも規模拡大を妨げています。
曇天が続くとつぼみが落下し、高湿度では灰色かび病が発生して出荷停止になるなど、気象条件にも敏感です。
安定供給の難しさが経営を圧迫しているのです。
スイートピーの生産を再び活性化させるには、短期的・長期的な対策が必要です。
まず、長期的には「育種」が不可欠です。
本コラム71回でも述べたように、「花は見られて飽きられる」のが宿命。
スイートピーはブームから40年が経ち、花型や花色に目新しさがなくなっています。
採種量が少なく、マーケットも小さいため、種苗会社が育種に手を出しにくい構造があります。
だからこそ、農水省や都道府県が生産者と連携し、育種体制を強化することが求められます。
一方、短期的には経営の合理化が急務です。
「過剰品質」が負担になっていることは70回のコラムで紹介しました。
とくに収穫後の選別や、品評会向けのような50本扇形結束など、丁寧すぎる作業が多大な労力を要しています。
これを20本丸束に簡略化し、1ケースに5色をミックスして出荷すれば、コスト削減に加え、新たな需要の開拓にもつながります。
切り花輸出を支えるスイートピーを守ることは、単なる一品目の問題ではありません。
それは日本の花産業全体の国際的地位と、生産者の誇りを守ることに直結します。
「誇りを支える仕組みづくり」こそ、これからの花き産業の課題です。
過剰な品質競争から脱し、持続可能な生産体制への転換が求められています。
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