【小松泰信・地方の眼力】いろんな暮しがあるんです2019年6月5日
「人生100年 蓄え2000万円必要」というような見出しで、6月4日の各紙朝刊は、金融庁の金融審議会が「人生100年時代」に備え、計画的な資産形成を促す報告書をまとめたことを取り上げている。年金だけでは老後の資金を賄えず、95歳まで生きるには夫婦で2000万円の蓄えが必要という試算から、人生の段階別に資産運用、管理の心構えを説いている。
◆素人の投資は老後破産をもたらす
麻生太郎財務大臣は、テレビのインタビューで「100まで生きる前提で退職金って計算してみたことあるか? 普通の人はないよ。そういったことを考えて、きちんとしたものを今のうちから考えておかないかんのですよ」と、したり顔で語っている。
しかし、要は「少子高齢化による公的年金制度の限界を政府自ら認め、国民に自助努力を求めた」もの。自助努力の一つがいわゆる「財テク」だが、当コラムも自らの古傷をさらし「財テク」の怖さを紹介したように、元本割れリスクのある投資商品に素人は手を出すべきではない。悲しむべき老後破産が待ち受けているのみ。北國新聞(6月4日付)も、「金融庁が(所管外の)年金の話を持ち出して、国民に投資を勧めることに怒りを覚える」と言う、荻原博子氏(経済ジャーナリスト)のコメントを紹介している。
◆農業への道しるべ
若手農業者や大学生が、足湯につかりながら農業について考える意見交換会が6月2日、福井県あわら市のえちぜん鉄道あわら湯のまち駅前広場の「芦湯」で開かれた。福井新聞(6月4日付)によれば、同市の農業者が、大学生に農業の世界を知ってもらい、農業従事者と和やかに交流できる場をつくろうと初めて企画したもの。県内外の大学生と農家など約20人が参加したそうだ。
「重労働で安定しないといったイメージがあるかもしれないが、機械化が進み、変わってきている」と農家が現状を語れば、「農業に興味を持ったときにどこに頼ったらよいかなど、道しるべとなるものがあったらうれしい」と、学生が農業への道しるべを求める。さらに、「農家の方と直接会話するのは初めてで新鮮だった。知識が増えて、農業に対する見方が変わった」と言う、学生の貴重な感想も紹介されている。
◆やはり期待を抱かせる地域おこし協力隊
道しるべの一つが地域おこし協力隊。日本農業新聞(6月4日付)は、移住・交流推進機構が今年1月に、全国の地域おこし協力隊員を対象に行ったアンケート結果(回答者2085人)を紹介している。
まず協力隊に応募した理由として、最も多いのが「自分の能力・経験を生かせると思った」(61%)、これに、「地域の活性化に役立ちたい」(52%)、「活動内容が面白そう」(51%)が続く。「農林水産業への従事」は14%。
ところが、隊員が最も時間を割いている活動を聞くと、最も多いのが「農林水産業への従事」(12%)、これに「情報発信・PR」(10%)、「地域コミュニティー活動(行事、集落活動支援、住民活動支援)」(9%)が続いている。選択肢は12項目あり、多数を占める項目はなく、地域の状況に応じた多様な活動実態がうかがえる。
また、54%が3年間の任期終了後に、定住を予定している。その半数(51%)が起業を希望しているが、起業において不安な点として「資金面」と答えた隊員が80%もいる。今後の相談体制などを含めて、支援のあり方の検討が求められる。
◆WWOOF(ウーフ)、これも国際的関係人口づくりの一つのあり方
前述の福井新聞は、WWOOF(ウーフ)についても取り上げている。WWOOFとは、農作業を手伝う旅人(ウーファー)と有機農業を営み食事や寝所を提供する農家(ホスト)をつなぐ英国発祥の国際的ネットワークで、約60カ国・地域に組織がある。日本では1994年にウーフジャパンが創設された。対価を伴う労働や観光農業とは異なり、人と人の交流を目的としており、農家も旅人も会費を支払、登録・更新をする。ウーフジャパンに登録している農家は約440軒、旅人は3200人以上とのこと。
記事では、無償の互助を通じて豊かな人間関係を育む交流に、新たな生きがいを感じている三軒のシニア農家を紹介している。
(1)福岡県うきは市の果樹農家(70歳)。農業を継いだが人手不足などに悩んでいたころウーフを知り、「手伝う人が来てくれて、外国人との交流が地域活性化にもなれば」と2013年にホスト登録。20代を中心に年間約30人が主に海外から来ている。「来てもらったからには、喜んで帰って欲しい。一緒に楽しめないと続けられないしね。海外のウーファーも訪ねたい」と、語る。
(2)和歌山県海南市のかんきつ類自然栽培農家(63歳)。2016年にホスト登録。年間の受け入れは20~30人で、「ウーフはお金のやりとりがなく、ストレスがなくていい。家族の一員のように寝食を共にし、触れ合いを大切にしています。交流で世界が広がります」とのこと。
(3)青森県七戸町の無農薬野菜と養蜂農家(68歳)。航空会社の客室乗務員を50歳で退職し帰郷後、56歳で就農。ホストを始めて3年。「世界から孫が集まるような感じ。やりたかった農業をしながら、英語力も生かせ、得意の手料理を振る舞うチャンスも。カラオケも行ったりして楽しいですよ」と、その醍醐味を語る。
◆文化的ストックの保存会を保存し続けるために
中国新聞(6月3日付)は、広島県北広島町で2日に公開された、ユネスコ無形文化遺産で、国の重要無形民俗文化財「壬生(みぶ)の花田植(はなたうえ)」を紹介している。約8㌃の水田で、初めに竜や鶴の刺しゅう入りの布をまとった飾り牛14頭が代かき。続いて、地元の田楽団70人が田に入る。そして早乙女が田植え歌を響かせ横一列で苗を植え、後方では大太鼓が叩かれ、笛が奏でられる。まさに山里で受け継がれる田園絵巻。前回の当コラムで紹介した、貴重な文化的ストックの一つ。主催はNPO法人壬生の花田植保存会。後援や協賛も必要だが、何より保存会の存在に多くを委ねている。文化的ストックを残し続けるためには、保存会を保存し続けるための行政による手厚い持続的支援が不可欠である。
◆大事にすべき心や肉体を通った言葉
「地方から中央を見る視点は、見失ってはいけないと思います。私の周りにいる普通のおばちゃんが言っていることが、中央の〝偉い人〟が論じていることより劣っているとは思いません。人びとの心や肉体を通った言葉を、大事にしたい。米軍の辺野古新基地は反対だという沖縄県民の声もそうです。沖縄県民の声を無視する政権が、農業や観光業が衰退し、貧困が広がる美作(みまさか)の声を聞くわけがないと私は思います」とは、作家あさのあつこ氏(岡山県美作市在住、しんぶん赤旗日曜版、6月2日号)。
「地方の眼力」なめんなよ
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